「阿部さんがドラムをたたく姿はカッコいいだろう、と」『異動辞令は音楽隊!』内田英治監督【インタビュー】

2022年8月25日 / 08:00

 阿部寛が、犯罪捜査一筋の一課から警察の音楽隊へ飛ばされた“鬼刑事”を演じる映画『異動辞令は音楽隊!』。『ミッドナイトスワン』(20)の内田英治監督によるオリジナル脚本が斬新だ。音楽映画の高揚感を取り入れた刑事ものか、はたまた刑事もののサスペンスやスリルに満ちた音楽映画か。8月26日(金)の公開を前に、監督に話を聞いた。

内田英治監督

-ニューヨーク・アジアン映画祭で、阿部さんがアジアで最も活躍する俳優に贈られる「スター・アジア賞」を日本人で初めて受賞しました。

 こんなに盛り上がるんだ! というぐらい、お客さんもいっぱい入って上映も盛り上がりましたが、何より阿部さんがスターだということを改めて実感しました。異国なのに観客を沸かせることができる。やっぱり『テルマエ・ロマエ』の力が大きいと思うんですけど、外国でも十分に通用するオーラを持っていると思いました。今までに受賞している方々が、イ・ビョンホンとかドニー・イェンとか、すごいメンツなんで、阿部さんがこの作品で日本人初としてそこに加わったことは、本当にうれしいです。

-『異動辞令は音楽隊!』は、刑事ものと音楽映画を組み合わせた設定がユニークです。

 警察に音楽隊があると知ったときに、それを題材にした小説や映画はありそうだと思ったのですが、調べても見つからなくて。こんないい題材なのに、逆にこれはチャンスだと。警察ものとしても視点が新しいし、しかも警察の音楽隊はニューヨーク市警など、世界中にあるんです。単に音楽隊に焦点を当てるのではなく、主人公を刑事一課という出自にして、事件を解決することに未練を持たせることで、二つの物語が同時進行する展開が最初から浮かびました。音楽隊員が事件を追いかける物語ではファンタジーになっちゃうので、そこをどう成立させるのかには苦労しましたが。やはり、事件の解決と音楽映画としての盛り上がりを最後にリンクさせたかったですから。

-阿部さんは、これまでに何度も刑事を演じています。鉄板の安心感はありますが、鮮度のことを考えるとキャスティングはもろ刃の剣だったのでは?

 警察役が多いことは知っていましたし、最近は特に続いていましたけど、それよりはドラムですね。阿部さんがドラムをたたく姿はカッコいいだろう、という方に意識がいっていました。楽器はドラムかトランペットを考えていたので、阿部さんに決まった時点ですぐにドラムだなと。やっぱり重量級が似合いますよね。

-この作品を作る上で、監督が一番こだわったことは?

 実際に僕が、音楽を通して変わっていく経験をしているので、阿部さんが演じる成瀬という堅物の警察官が音楽というとても柔らかいものに触れて変化していく過程ですね。だからこそ、実際に本人にドラムをたたいてもらって、たたけるようになってもらうことが重要でした。つまり音楽という柔らかいものによって、彼の心がほぐれていく。自分がそうでしたから。僕の場合は、変なふうに映画というものにこだわっていたんですけど、音楽も好きになったことで、映画といってもいろいろあることに気付き、柔らかくなっていった。自分のそういう経験があったので、それを踏まえて作りました。

-それ以前に、映画監督としてこだわっていたこととは?

 みんながそうだと思うんですが、最初の頃はなかなかうまくいかなくて。オリジナル企画は通らない、でも映画は撮りたいという葛藤や、大きい映画とか、有名な俳優さんが出ているとか、ブランドにもこだわっていた気がします。それがインディーズでもいいから自分がやりたいことをやる方が映画らしいんじゃないかという考え方にシフトしました。

-そもそも、映画の何に引かれて、映画監督になろうと思ったんですか。

 僕は、逃避としての映画からスタートしています。子どもの頃に。海外から日本に帰ってきて、最初はなじめなかったんです。映画館だけが居心地がよかった。そこから映画にのめり込んでいきました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

稲垣吾郎「想像がつかないことだらけだった」ハリー・ポッターの次は大人気ない俳優役で傑作ラブコメディーに挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月13日

 稲垣吾郎が、2026年2月7日から開幕するPARCO PRODUCE 2026「プレゼント・ラフター」で傑作ラブコメディーに挑む。本作は、劇作、俳優、作詞、作曲、映画監督と多彩な才能を発揮したマルチアーティスト、ノエル・カワードによるラブ … 続きを読む

DAIGO「クリスマス気分を盛り上げてくれる作品なので、『パーシーのクリスマス急行』にぜひ乗車してください」『映画 きかんしゃトーマス サンタをさがせ!パーシーのクリスマス急行』【インタビュー】

映画2025年12月12日

 イギリスで最初の原作絵本が誕生してから80周年を迎えた人気児童向けアニメ「きかんしゃトーマス」の劇場版『映画 きかんしゃトーマス サンタをさがせ!パーシーのクリスマス急行』が12月12日から全国公開された。シリーズ初のクリスマスムービーと … 続きを読む

高橋克典「これは吉良の物語でもあるのだと感じていただけるような芝居をしたい」 堤幸彦「『忠臣蔵』は、演劇的に言えば1丁目1番地的な作品」 舞台「忠臣蔵」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月10日

 元禄時代に実際に起こった仇(あだ)討ちを題材に歌舞伎などで取り上げられて以来、何度もドラマ化、映画化、舞台化されてきた屈指の名作「忠臣蔵」が、上川隆也主演、堤幸彦演出によって舞台化される。今回、吉良上野介を演じるのは、高橋克典。高橋はデビ … 続きを読む

生田斗真が驚きの一人二役!「最初から決まっていたわけではありません」制作統括・藤並英樹氏が明かす舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月8日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。謎の絵師“写楽”が、蔦重の下で歌麿(染谷将太)ら当 … 続きを読む

板垣李光人「最初から、戦争を考えて見るのではなく、実際に見て感じたことを広めていっていただければ、それが一番うれしいです」『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』【インタビュー】

映画2025年12月5日

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む

Willfriends

page top