「阿部さんがドラムをたたく姿はカッコいいだろう、と」『異動辞令は音楽隊!』内田英治監督【インタビュー】

2022年8月25日 / 08:00

-内田作品は、多様性など、現代社会が抱える問題を扱うことが多いですが、その際に現代性を古い価値観と対比させて描く傾向が強いと思います。監督の興味は、問題提起よりもむしろ対比にあるのでは?

 確かに、現代を描きたいという意識はそれほどないかもしれないですね。でも、時代の変化には興味がある。ただし、時代の変化によって起きる社会問題を斬るつもりは全くない。物事の良し悪しや自分の判断を押し付けることが、一番映画的でないと思うから。それでも、自分が社会に対して思っていることがつい台本のせりふになって出てきたりして、テーマになってしまうことはありますし、対比にも確かに興味があります。それは近代ではなくても、家に歴史本があるのでたまに開いて、中世のヨーロッパと現代を対比させて想像したりすることは好きです。人間の何が変わって何が変わらないのかと。

-対比させると分かりやすい、つまりエンタメ性もあるのでは? もう一つ、今回の克服すべき“足で稼ぐ”昭和的な刑事像や、『雨に叫べば』の徒弟制度が残る旧態依然とした撮影現場もきちんと描こうとしています。

 対比は娯楽の要素としては、確かに強いですよね。でも、特に最近は、このテーマを際立たせるために対比させようという意識はあまりない。今は変化の過渡期だから、個人の感情が後回しにされる。善いことと悪いことが決めつけられる時代になってきている気がします。だけど人間って、本来さまざまな感情があるもの。それなのに今は、完璧な善人だけが求められる。善しかない人間なんていないことは誰だって分かっているはずなのに。社会が求めるものと個人の感情がかけ離れている気がするので、それを脚本にしたいという思いは強いです。

-多様性が社会で推奨されていることと、それを自分も受け入れられるかは、別の話ですよね。

 それはアーティストや報道メディアにも言えることですけど、自由に表現できなくなってきているというか、何が本当の多様性なのか誰にも分からなくなってきている気がします。

(取材・文・写真/外山真也)

(C)2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

早瀬憩「撮影中は朝子と一心同体で生きた感覚がありました」感動のヒューマンサスペンスで入魂の演技『私はあなたを知らない、』【インタビュー】

映画2026年8月27日

-中野監督は、早瀬さんのクランクアップ時の様子について「崩れ落ちるように」と語っていますが、当時の心境はいかがでしたか。  撮影中は朝子と一心同体で生きた感覚があったので、クランクアップしたときは「うれしい」でも「寂しい」でもなく、何とも言 … 続きを読む

渡邊圭祐「登場人物に共感ができない部分があるからこそ面白い」 舞台「Yerma イェルマ」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年8月27日

 スペインの詩人・劇作家ロルカの傑作「イェルマ」を起点に、作:オノマリコ×演出:稲葉賀恵によって、1930年代のスペインから現代の東京へと舞台を移し、生きる価値を見出そうとする女と男たちの物語を描く舞台「Yerma イェルマ」が9月21日か … 続きを読む

西島秀俊「人間は互いに支え合い、助け合って生きている」入魂のヒューマンドラマで、スペシャルニーズの子どもたちと共演『時には懺悔を』【インタビュー】

映画2026年8月26日

-しんすけさんを含め、スペシャルニーズの方々やそのご家族にお会いしたことで、作品に取り組むお気持ちに変化はありましたか。  最初にお会いしたとき、ご家族から「俳優として接してください」とお話がありました。「やりたいことは遠慮しないでください … 続きを読む

【K-POPもKドラマも深読みしたら韓国が見えた】#MOMOはなぜ、同い年のアナウンサーを「友達」と呼んだのか――韓国語「チング」のもう一つの意味

2026年8月25日

 K-POPや韓国ドラマは、エンターテインメントであると同時に、韓国社会を映す鏡でもある。何気ない言葉やしぐさ、習慣の背景をたどると、その国ならではの価値観や歴史、人との関わり方が見えてくる。この連載では、韓国カルチャーを入り口に、知ってい … 続きを読む

毎熊克哉、近藤華「見えないという恐怖をちょっと和らげてくれる映画だと思います」『見えない娘 THE INVISBLES』【インタビュー】

映画2026年8月25日

近藤 風子が映画を撮ることに興味があるのは、自分ともすごく似ているところだったので、近藤華のオタク的な部分を出して演じた部分はありました。風子は年齢的に子どもでも大人でもない時期なので、自分は大人だと思って背伸びをしているところから、だんだ … 続きを読む

page top