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【インタビュー】『ドライブ・マイ・カー』霧島れいか「音は、いろいろと問題を抱えている、秘密の多い、難しい役でしたが、演じがいがあって楽しかったです」

 舞台俳優で演出家の家福悠介(西島秀俊)は、脚本家の妻・音(霧島れいか)と幸せに暮らしていた。ところが、妻はある秘密を残したまま急死してしまう。2年後、家福は、演劇祭で演出を担当することになった広島で、寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。村上春樹の『女のいない男たち』に収録された同名短編を、濱口竜介監督・脚本により映画化した『ドライブ・マイ・カー』が8月20日から、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショーとなる。謎を抱えた主人公の妻・音を演じた霧島に、映画への思い、撮影の様子、濱口監督の演出法などを聞いた。

霧島れいか

-今回演じた音は、夫を愛しながらも、裏切りとも思える行動を取ってしまう女性で、謎の多い役でしたが、演じていてどう感じましたか。

 こういう人は実際にいるかもしれないと思ったし、決して理解できないということはありませんでした。それに(濱口竜介)監督が、リハーサルのときに、映画には描かれていない夫婦の昔の設定や、若かった頃の2人に何があったのかも、たくさん書いてきてくださったので、夫役の西島(秀俊)さんと本読みをしながら演じてみました。それがあったので、割とすんなりと役を理解することができました。

-それは、2人の関係の変化という部分でしょうか。

 過去に、夫婦でしか共有できない悲しい出来事を経験した時期を、西島さんと演じてみました。なので、その当時、この夫婦がどういう状況だったのかが分かり、だから音はこういう行動に出たのかなと思えました。

-ベッドシーンや、家福に生々しい物語を語るシーンも印象的でしたが、その点はいかがでしたか。

 物語を語るシーンは、音なりの一種のコミュニケーションなのだと思いました。私が考えるに、音という人は、語ることで、夫や自分自身や、社会とのバランスも取っているのだという気がしました。そういう意味では、音は、いろいろと問題を抱えている、秘密の多い、難しい役でしたが、演じがいがあって楽しかったです。

-濱口監督が、「霧島さんの役の分からなさが作品を引っ張る」と語っていますが、それを聞いてどう思いますか。

 その通りだと思います。映画の中では、夫婦の過去に何があったのかは描いていないので、謎に包まれています。でも、描いていないからこそ、観客はいろいろと考えるでしょうし、悠介が抱く葛藤や苦悩と同じ気持ちになると思います。

-音は、タイトルが始まる前に画面からいなくなるのに、悠介が車の中で聴くテープの『ワーニャ伯父さん』のせりふの声で、ずっと映画の中に存在し続けます。とてもユニークな役ですね。

 私もそう思いました。声を吹き込んでいるときに、それが編集でどうなるのかは分かりませんでしたが、完成した映画を見たときに、編集の力でこういう効果が出るんだと思って感動しました。画面に、私の姿はありませんが、なかなか音から離れられない悠介とずっと一緒に旅をしているような気になり、すごい作品になっているなと思いました。

-抑揚のない声のトーンも印象的でした。

 もともと、監督とキャストで、ひたすら感情を入れない、抑揚のない、本読みをしました。なので『ワーニャ伯父さん』の部分も、そのまま録音しました。私は、もう少し言葉に強弱を付けた方がいいのか悩みましたが、監督は「そのまま読んでください」ということだったし、もともと悠介のために吹き込んだものなので、あまり強弱を付けたり、感情を入れると邪魔になるかなと考えて、あのような形になりました。

-その本読みが、映画の後半で悠介が演出する舞台のリハーサル風景につながるんですね。

 そうです。

-濱口監督の演出については、どう感じましたか。

 本番の直前まで、感情抜きで本読みをするのが、日課のようになりました。普通、俳優は「お芝居をしたい」という気持ちになりますが、そうではなく、感情を抜きにした本読みの状態のまま本番に移るので、ちょっと不思議な雰囲気になります。なので、もしかすると映画をご覧になった方も不思議な違和感みたいなものを抱くかもしれません。私たちは、それが次第に何か心地いい感じになってきました。また本番になると、監督からの指示はほとんどなくて、ちょっと違うと思うと、「もう一度やってくれますか」と言うだけで、割と淡々と、静かにシーンが進んでいくという感じでした。ほかの監督とは全然違いました。濱口監督の演出は新鮮でとても楽しかったです。自分が新人に戻ったような感覚になりました。

-では、悠介役の西島秀俊さんと、高槻役の岡田将生さんの印象をお願いします。

 改めて、お二人ともとてもすてきな俳優さんだと思いました。西島さんは、撮影前はとてもリラックスした感じで、監督の要求も素直に取り入れています。いろんなことに気が付くし、的を得ている。細かいところをきちんと見られる俳優さんという感じです。本番に入ったときも、一見、変わりはないように見えますが、やっぱりオーラがすごいし、ご自分のことだけに集中するのではなく、全体を見ながら、周りへの気遣いも忘れず、物事を判断する頭の回転も早いなど、見ていて学ぶことがとても多かったです。岡田くんとは、一緒の撮影期間は短かったのですが、とても真面目にお芝居をされる方で、恐らく、台本も相当読み込んでらっしゃったと思います。一緒のシーンでも自然にすっとお互い役に入れて、とてもやりやすかったです。

-この映画は、演じた音がいなくなってから本編が始まるわけですが、完成した映画を見た感想を。

 日本からすごい映画が生まれたと思いました。観客に手渡すだけではなく、いろんなヒントやきっかけを与えられる映画は、そう多くないと思います。ここまで描いた作品が生まれたことが本当にうれしかったです。これは日本だけではなく、他のいろんな国の方にも共感してもらえる内容だと思います。参加できたことに感動しました。

-自分が出た映画は、客観的に見られるものなのですか。

 なるべく客観的に見るようにはしていますが、この映画に関しては、いろんな思いもありましたし、リハーサルのことも思い出しながら見たので、いつもより気持ちが入っていたかもしれません。でも、一人の観客として見ても、「これは面白い」という感覚が味わえたことが本当にうれしかったです。

-最後に、映画の見どころと、観客に向けての一言をお願いします。

 これから生きていく上で、自分では見付けることが難しいことについて、「もしかしたらこれじゃないか」というヒントを与えてくれる映画なのではないかと思います。私が個人的に好きなシーンは、悠介と高槻が音のことを語る長いシーンで、ここは見る方もハッとすると思います。それから、悠介とみさきが北海道に行ってからのシーンも見応えがありますが、映画の隅々に大切なメッセージが込められていると思います。

(取材・文・写真/田中雄二)

(C)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

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