タイトルバック制作秘話「渋沢の人生の軌跡を描くため、最先端の映像技術のタブーを破りました」柿本ケンサク(タイトルバック映像)【「青天を衝け」インタビュー】

2021年4月14日 / 12:37

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。激動の幕末から昭和を生き、“日本資本主義の父”と呼ばれた実業家・渋沢栄一の生涯を描くダイナミックな物語の幕開けを毎回、華麗なテーマ曲とともに彩るのが、印象的なタイトルバックだ。水墨画風のタッチとミュージカル調の演出の中に渋沢の生涯を凝縮した美しい映像は、ドラマ本編に劣らぬ魅力を持っている。このタイトルバック映像の制作を手掛けた柿本ケンサク氏が、制作秘話を語ってくれた。

「青天を衝け」タイトルバック画像

-今回のタイトルバックの狙いを教えてください。

 今回のタイトルバックは、ポスターなどのビジュアルとコンセプトが共通しています。この作品は、幕末から明治にかけて明治産業革命の先頭を突っ走り、近代日本の地盤を作った渋沢栄一の物語です。その渋沢を一言で表すと、「スリルを感じるような場面でも、思わず笑顔がこぼれてしまうような男」。自伝を読んで、そう感じました。ポスターでは、そんなジェットコースターのような人生の一瞬を切り取り、タイトルバックでは、その一瞬が連なった渋沢の人生を一筆書きのように表現しました。

-水墨画のような表現を採用した意図は?

 そこには、“ボリュメトリック・キャプチャ”という最新の撮影技術を採用したことが関係しています。ラグビーのワールドカップなどでも話題になったものですが、人物の周囲360度、あらゆる角度に多数のカメラを配置して撮影し、それをリアルタイムで3DCG化します。それにより、通常では不可能なカメラワークを、後から自由に取り入れることができます。例えば、演じている最中の人物を真上や真下から見たり、ものすごいスピードで周囲をぐるっと回り込んだり…という感じですね。

-なるほど。

 その反面、弱点もあります。本来、この撮影を行う場合、人物の間隔を最低1.5メートル開ける必要があります。でないと、人物が重なる部分を撮影できず、データが欠落してしまいます。そういう制約があるため、通常では一度に5人程度しか撮影できません。ただ、今回はこの弱点を逆に強みにできないかと考え、敢えて人数を増やし、人物を重ねたり、ダンス中に持ち上げたりと、タブーを破って撮影しました。その上で、データが欠落した部分に、水墨画的な効果を加えて補いました。そんなふうに、にじんで空間に溶けていくようなタッチにすることで画面に余白が生まれ、主張し過ぎることなく、出演者のクレジットをきちんと見せることができますし、かえって印象的になるのではないかと。

-その狙いは見事に当たっていますね。ボリュメトリック・キャプチャの採用は、どんなところから発想したものでしょうか。

 渋沢は、当時まだ日本になかった数々の西洋文化を進んで取り入れた人物です。そういう渋沢の人生の軌跡を描く上で、最先端の映像技術であるボリュメトリック・キャプチャがふさわしいのではないかと考えました。

-ミュージカル調の演出にした理由は?

 「ドラマの中と同じことをやっても意味がない」という話は事前に皆さんとしていましたし、僕自身も、いい意味で視聴者を裏切りたいと思っていました。渋沢という人も、「これ」と決めたら、ひたすらその道を突き進むのではなく、一度決めたことを常に裏切りながら挑んでいった人物のような気がしています。また、渋沢には、高い壁を目の前にしても、常に笑っているイメージがあります。それは例えるなら、“踊るように生きた人間”と言えるのではないかと。そこから“踊り”という着想を得ました。そんなところから、「大河ドラマでミュージカル」という意外性が、渋沢の人生を一筆書きで表す上ではしっくりくるな…と。

-最初は鳥が飛ぶ場面から始まりますね。ここから始めた理由は?

 初めて佐藤直樹さんのテーマ曲を聴いたとき、鳥で始めるというアイデアが直感的に浮かんできました。清らかな鳥のさえずりのような音で始まり、そこから伸びやかに美しいメロディーに展開していく。それを聴き、とてもダイナミックで、雄大な景色が浮かんできたんです。そこから、生命が大きく羽ばたき、伸びやかに広がっていくということを意識し、鳥が飛ぶところから始めることにしました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

千賀健永、頭が良くてゲームが上手な弟に「かわいい復讐心はありました」【インタビュー】

ドラマ2025年7月7日

 トリンドル玲奈が主演するドラマ「レプリカ 元妻の復讐」が、7日23時6分からテレ東系で放送がスタートする。本作は原作・タナカトモ氏、作画・ひらいはっち氏による同名漫画を映像化。整形して別人として生きる主人公・伊藤すみれ(トリンドル)が、人 … 続きを読む

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

 7月13日(日)にスタートする、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」(TBS 毎週日曜夜9時~9時54分)。原作は富士屋カツヒト氏による連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」 (ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は、「コウノド … 続きを読む

南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

映画2025年7月4日

 第42 回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃の小説を原作にした鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』が、7月4日公開となる。浪費家の母(河井青葉)に代わってアルバイトで生活を支えながら、奨学金で大学に通う主人公・宮田陽彩が、過酷な境遇を受 … 続きを読む

紅ゆずる、歌舞伎町の女王役に意欲「女王としてのたたずまいや圧倒的な存在感を作っていけたら」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年7月4日

 2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。  物語の舞台は歌舞 … 続きを読む

Willfriends

page top