「『平らかな世とは?』という光秀との問答が物語のキーに」佐々木蔵之介(羽柴秀吉)【「麒麟がくる」インタビュー】

2021年1月17日 / 20:50

 クライマックスとなる“本能寺の変”に向かって、ますますアクセルを踏み込んできたNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」。見逃せない展開が続く中、織田信長(染谷将太)の下で主人公・明智光秀(長谷川博己)と並ぶ活躍を見せるのが、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)だ。農民から成り上がった秀吉は、武家出身の光秀や信長とは一味違う庶民的な雰囲気と、情報収集に優れた策士ぶりが強い印象を残す。演じる佐々木蔵之介が、役作りや撮影の舞台裏を語ってくれた。

羽柴秀吉役の佐々木蔵之介

-秀吉を演じた感想をお聞かせください。

 大河ドラマで豊臣秀吉役というと身構えそうですが、実はプレッシャーは全くなかったんですよね(笑)。僕なりの秀吉というよりも、“「麒麟がくる」の秀吉”を演じようと思っていたので。キャスト、スタッフ、池端(俊策)先生の脚本のおかげで、この作品の秀吉を育むことができたのかな…と思っています。

-藤吉郎時代から大事にしていたものは?

 天性の明るさと人懐っこさ、信義の厚さを、主体に据えて演じていました。それが礎になければ、例えば、“才気ある調略の名人”とはならず、ただのペテン師になってしまいますから。この作品での藤吉郎は、大仰で普段から芝居がかっていて、“この世は長い狂言”みたいな振る舞い方をします。猿芝居や悪知恵を働かせているように見えるときもあったかもしれません。ただ、それは彼が生き抜くための一つの手段だったと思うのです。

-藤吉郎から秀吉へ、その変化はどう作っていったのでしょうか。

 変化の予兆を感じたのは、織田の家臣になってからです。それまでの、ただただ立身出世を目指す快活で無邪気なサルから、明らかにステージが上がりました。そのあたりから脚本にも、「ふと真顔になり」とか「ニッと笑い」というト書きが出てくるようになりましたし。役を造形していく上で、それがとてもヒントになりました。また、ひげも僕の中では大きいですね。周りの武将はみんな早くに出世をしてひげを生やし始めていたので、序盤から、スタッフの方に「僕はいつからひげを付けられるんだ」と聞いていましたから(笑)。

-秀吉は、信長の存在をどう感じていたのでしょうか。

 信長がいなければ、自分の才能や能力をここまで引き上げてもらえなかったと思います。行動し、結果を残した分だけ評価してくれる。そういう意味で、秀吉にとっては最大の理解者です。その一方で、秀吉という存在があったから、信長も天下統一を目指すことができたのでは?…とも思います。ただ、信長は自分を脅かす“におい”には非常に敏感。ですから、秀吉はその辺、かなり慎重に対応していたと思います。

-光秀に対して、秀吉はどのような立ち位置にいたのでしょうか。

 織田家臣の中で最初に城持ちになったのが光秀だったので、「わしも!」と目指すところはあったと思います。ただ、この物語の秀吉は、武家出身の光秀と違い、幕府や朝廷も、使えるなら残しておくが、不要なら捨てる、といった思考の持ち主です。光秀とは価値観が違い過ぎて、ライバルになり得ないのでは…と思っていました。

-撮影中、光秀役の長谷川さんに対しては、どんなことを感じていましたか。

 長谷川さんも僕も、劇団の出身なので、勝手に何かしら近いものを感じていました。光秀が長谷川さんだったからこそ、一緒に芝居を作る幸せを味わうことができたと思っています。

-これまでの長い撮影で印象的だったシーンを教えてください。

 第四十一回、光秀と問答する場面で、「平らかな世とは?」と問われた秀吉が、「昔のわしのような貧乏人がおらぬ世だ」と返したのは、底辺からはい上がって来た秀吉らしいな…と思いました。光秀が何も言い返せないような答えでしたから。物語のキーになるシーンだったのではないでしょうか。ただ、秀吉は後年、「刀狩り」の実施など、“昔のわし”などは上がってこられない体制を作ろうとするわけですが。また、第二十三回、光秀と初めて対面したシーンも印象深いです。光秀、信長、秀吉の3人が初めてまみえる場面でもあったので、この瞬間を豊臣秀吉が日本の歴史に登場する起点にしようと、僕なりに考えました。どのように登場するか、いろいろと考えをめぐらせた思い出深いシーンです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

生田斗真が驚きの一人二役!「最初から決まっていたわけではありません」制作統括・藤並英樹氏が明かす舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月8日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。謎の絵師“写楽”が、蔦重の下で歌麿(染谷将太)ら当 … 続きを読む

板垣李光人「最初から、戦争を考えて見るのではなく、実際に見て感じたことを広めていっていただければ、それが一番うれしいです」『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』【インタビュー】

映画2025年12月5日

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(8)百年ぶりの復活へ 四代目が掲げた三つの大願

舞台・ミュージカル2025年12月4日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。    2016年に四代目・玉田玉秀 … 続きを読む

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

Willfriends

page top