エンターテインメント・ウェブマガジン
ハードボイルドを気取る、売れない小説家の市川進には、伝説の殺し屋というもう一つの顔があった。だが、実は彼は一度も人を撃ったことはないのだ…。18年ぶりの映画主演となった石橋蓮司が、二つの顔を持つ主人公をコミカルかつ渋く演じる『一度も撃ってません』が7月3日から全国公開される。本作の阪本順治監督が、石橋の魅力や、撮影の裏話、映画に対する思いなどを語った。
そうです。僕は次回作を作るときに、まず「誰とやりたいのか。誰にカメラを向けたいのか」を考えます。蓮司さんには、僕の映画にも何本か出演してもらっていましたが、監督と主役という関係で、がっつり組んだことはなかったし、「あの人の持つおかしみみたいなものに俺はまだ触れていない」という思いもありました。平たく言えば、「こういう時代だからこそ石橋蓮司を見てほしい」という思いがありました。
つながりは確実にあります。それにとどめを刺したのは桃井(かおり)さんですけど。皆事あるごとに芳雄さんの家に集っていたメンバーで、江口洋介くんもそうです。ただ、仲間内でわいわいと映画を撮るということではなくて、このつながりを映画に生かしたいというのがありました。皆、それぞれ奏でる楽器は違いますが、蓮司さんを真ん中に、メインボーカリストにしてバンドを組むとどうなるんだろう、ということです。ジャズのフリーセッションのような感じですが、何か新しいものが生まれるのではないか、という期待があって、皆に声を掛けました。そんなつながりがあったからこそ、皆、手弁当でやってくれました。
本人たちも、連続物は別にして、一つ一つの映画を作り上げていくときに、以前と同じようなニュアンスのものをやりたいとは思わないはずです。常に、架空性の中で、自分はどう存在するのかを面白がるのが俳優さんの本質なので。互いに癖を知り合っているからこそ、逆に予想外のことが生まれる、という期待があります。
それはいろいろな場面で感じました。カメラをそれほど動かさず、ワンフラットで撮って長回しをしているところなどは、台本通りに演じていらっしゃるんですけど、互いにアドリブをかましているような気にさせられるところがありました。皆存在そのものがアドリブなんですが…(笑)。これは、その場の瞬発力で生まれるものです。何でそれが可能なのかと言えば、台本を読み込み、自分の役のことがよく分かっているからです。原田芳雄さんもそうでしたけど、役をどんどん整理していくと面白くなくなるんです。僕もそう思うので、あまりリハーサルをせず、そのときでないと生まれないものを切り取って映していこうと。それができる人たちだったので。
ハードボイルドをどう捉えるかにもよりますが、今回は蓮司さんとやるのであれば、軽妙にやってみたいというのがありました。蓮司さんが決めれば決めるほど、はたから見れば喜劇になっているという…。僕はコメディーと喜劇は違うものだと思っていて、喜劇はとても難しいと思います。コメディーの多くは、物語性やシチュエーションのおかしさで笑わせるもの。喜劇は登場する人たちのおかしみで笑ってもらうもの。そういう喜劇を担える、抜群の間を持った人が少なくなってきていると思います。僕らはそれを“遊び”と言いますが、最近は遊べない人たちが多くなってきましたから。
それは、ぶれないものを持っているという、ある種の頑固さのことですね。時代は変わっているのに、まだそれを貫き通そうとしていることが、若い人たちから見れば喜劇であるということです。
見終わった後で、そのどちらを持って帰るかはお客さんの判断です。今回は、ある種のカッコ良さとカッコ悪さが共存しているところを目指したわけですが、主人公の傍若無人ぶりや豪放磊落(らいらく)さに憧れる人もいれば、「俺は真面目に生きているのに、何をふざけているんだ」と思う人もいるかもしれません。それはどちらもありだと思います。
映画2025年12月5日
戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年12月4日
YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 2016年に四代目・玉田玉秀 … 続きを読む
ドラマ2025年12月1日
WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。 主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む
ドラマ2025年12月1日
NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年11月30日
今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む