【インタビュー】舞台「母を逃がす」瀬戸康史&三吉彩花が挑む、内面をえぐる人間ドラマ「『自分らしく生きる』ということを思い出させてくれる作品」

2020年2月28日 / 12:00
 松尾スズキが旗揚げした「大人計画」で1999年に上演した話題作を、ノゾエ征爾の演出で送る「母を逃がす」が5月7日から上演される。本作は“自給自足自立自発の楽園”をスローガンに掲げた架空の農業集落「クマギリ第三農楽天」を舞台に、集落の頭目代行を務める雄介と住民たちが、さまざまな思いを抱えながら“自分にとっての楽園”を模索する姿を描いた作品。ドラマ、映画のみならず、舞台でも高い評価を得ている瀬戸康史、そして、舞台初出演となる三吉彩花が、本作への意気込みを語った。
 

雄介役の瀬戸康史(左)とリク役の三吉彩花(ヘアメイク:CHIHIRO(TRON)/スタイリスト:森保夫(ラインヴァント))

-出演が決まったお気持ちから教えてください。三吉さんは本作が初舞台になりますね。

三吉 決まってしまいました(笑)。舞台はいつかやってみたいという気持ちはあったので断る理由は一つもありませんでしたし、瀬戸さんが座長をされるということも聞いていたので、安心感もあってやってみようと思えました。…でも、今になって腰が引けてきています(笑)。
 
瀬戸 僕は、最初に台本を読ませていただいて、いろいろなところに笑いが散りばめられているけど、笑ったら人としてどうなんだろうと思わせるような内容でもあって…。何とも言えない感情になる作品だと思ったことが強く印象に残っています。僕自身、松尾さんともノゾエさんともご一緒したことがなかったので、そういった意味でも挑戦になるなと感じました。
 

-複雑な心境になる台本ということですが、本作の魅力はどこに感じましたか。

瀬戸 今は、どこかにしがらみがあって、その中で不自由さを感じながら生きていかなくてはならない世の中ですが、それを取り払ってくれるものが、僕たちがやっている表現という世界だと思うんです。こういう世の中だからこそ、われわれが人間である上で忘れてはいけない「自分らしく生きる」ということを思い出させてくれる作品だなと感じました。
 

-三吉さんは台本を読んでどんな感想を持ちましたか。

三吉 最初は、単純に難しかったです。繰り返し読んでいたら、だんだんと、この村の集落で起こっていることや、掲げている理想というのは、意外と単純なことなのかもしれないと解釈するようになってきて、そうすると、私が演じるリクという女の子の生き方やきょうだいとの関係性も見えてきた気がします。リクは、集落の中では誰よりも自由で、自分に対してすごく素直な女の子なので、演じるのが楽しみです。
 

-それぞれ、役を演じる上で、どのようなことを大切にしたいと思っていますか。

三吉 今は、稽古が始まる前にあまり役を作りすぎない方がいいのかなと思っています。ノゾエさんに身を委ね、その場その場で感じたことや生まれた感情を大事にしたいと思っています。
 

-今まで演じてきた役と違って、かなり挑戦的な役ですね。

三吉 そうですね。こういう役は今まで演じたことがないです。それに、ステージの上で生の空気感でお客さんに伝えるということが初めてなので…。客席から見る景色と舞台上から見る景色は全く違うと思うので、怖くもあり、楽しみでもあります。
 

-瀬戸さんは、ご自身が演じる役のどういう部分を大切にしたいと思っていますか。

瀬戸 稽古に入ってみないと分からないことではありますが、雄介と彼の周りにある「常識」が何なのかということを考えながら演じたいです。それから、一見、無意味に見える彼らの行動にも、きっと何かしらの思いがあってのことだと思うので、それは大切にしなければいけないと思っています。
 

-映画やドラマなどの映像と舞台では演じる上で、何か違いはありますか。

瀬戸 舞台の方が制約が少ないという意味では役の表現の可能性は広がりますが、演じる上では特に何かを変えようとは思っていないです。
 

-では、役者として、互いにどのような印象を持っていますか。

瀬戸 三吉は初めて共演したとき、すごく若くて、すごく初々しかったです。今は、いい意味で初々しさはなくなっちゃいましたけど(笑)、女性として大人になったなと思いますし、これまでも何作か共演しているのでやりやすいです。
 
三吉 私にとって瀬戸さんは毎回、安心感を与えてくださる役者さんです。リーダーとして引っ張っていく感じを表に出すわけではないですが、細かいところまで気を使ってくださり、器の大きさを感じます。私を含め、他の役者さんからも慕われる方で、いつも感謝しています。
 

-三吉さんは本作が初舞台ということで、瀬戸さんから何かアドバイスはありますか。

瀬戸 いやいや、僕はもう初舞台の頃のことは忘れちゃっているので、何もアドバイスできることはないですが(笑)。きっと、(三吉は)舞台に立ったら堂々としているんだと思います。僕も、いまだに初日やその前日はドキドキしてしまってどうしようもないですが、丁寧に真摯(しんし)に楽しみながら稽古をすれば、少しずつ自信が付いてくると思いますし、きっと、千秋楽を迎える頃には、舞台の楽しさを感じられると思います。
 

-舞台の前にゲン担ぎはしますか。

瀬戸 舞台の袖で、「笹舟にネガティブな考えを乗せて流す」という想像をしています。これは、絶対にやっています。それをすると落ち着くんです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作『宝島』/純文学風ミステリーの趣『遠い山なみの光』

映画2025年9月18日

『宝島』(9月19日公開)  1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。  村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

Willfriends

page top