【インタビュー】映画『決算!忠臣蔵』中村義洋監督「お金がなくて困る大石内蔵助と、自分のお金を勝手に使われてしまう瑤泉院という構図を思いついたとき、『コメディーになる!』と」

2019年11月20日 / 17:00

 日本人なら誰もが知る時代劇「忠臣蔵」。亡き主君・浅野内匠頭に忠義を尽くし、あだ討ちを果たした赤穂浪士たちの物語は、これまで幾度となく映像化され、多くの人々の心を動かしてきた。ところが、その「忠臣蔵」を令和の時代によみがえらせた『決算!忠臣蔵』(11月22日公開)は、何と「討ち入り予算」をめぐる予算達成エンタテインメント。果たして、大石内蔵助(堤真一)は限られた予算の中、出費を渋る勘定方・矢頭長助(岡村隆史)との駆け引きを乗り越え、吉良邸討ち入りを決行できるのか…? この斬新な「忠臣蔵」に挑んだのは、大ヒット作『殿、利息でござる!』(16)、『忍びの国』(17)を送り出した中村義洋監督。新たな「忠臣蔵」誕生の舞台裏を聞いた。

中村義洋監督

-原作となった『「忠臣蔵」の決算書』(山本博文著)は、小説ではなく、学術書のような新書ですが、コメディーにする難しさはありましたか。

 難しかったですね。どうしたらコメディーにできるのか、悩みました。いろいろ考えた結果、お金がなくて困る大石内蔵助と、自分のお金を勝手に使われてしまう瑤泉院という構図を思いついたとき、これでいけるんじゃないかと。さらに、定番となっている「立派な人物」という大石のイメージが、ただの見栄っ張りだとしたらどうだろう…と。人前では立派に見えたり、大盤振る舞いをするけれど、その裏では藩の経理を担当する勘定方から叱られていたり、戒められていたり…。そういうやり方だったら、笑いに持っていけるんじゃないかと。

-それはどんなところから思いついたのでしょうか。

 原作の基になった資料で、大石内蔵助が残した「預置候金銀請払帳」という決算書があるんです。そこに、吉良邸討ち入りの前に、赤穂浪士たちが集まって段取りを打ち合わせた「深川会議」の記録があり、何に幾ら使うかということが記されていました。それを見たとき、深川会議でどんどんお金が減っていく様子を現代の金額で表示すれば、コメディーにできるなと。脚本を書く前から、そこだけは自信がありました。あとは、どうやって深川会議に話を持っていこうかと。

-なるほど。

 それともう一つ、僕自身が映画界で見聞きしてきた経験も脚本に生かしています。映画製作でも、クランクイン前に「美術打ち合わせ」というものがあり、その場でいろいろなことを打ち合わせてから撮影に入ります。そこには、監督もプロデューサーも出席するんですが、基本的にプロデューサーは見守っているだけ。でも、時々勝手にお金のかかることを言い出すスタッフがいるんです。「そこはクレーンを使って撮影しようよ」とか。そうすると、プロデューサーが突然「えっ!?」という顔をするんです(笑)。そういうことを思い出して、プロデューサーが大石内蔵助だったら…ということもヒントにしました。

-出演者についてお伺いします。ダブル主演の堤真一さんと岡村隆史さんは、中村作品への出演は初めてですね。

 そうです。でも、2人ともクランクインからして最高でした。同じ台本でも監督と演者で読み方が異なることも少なくないのですが、その点、堤さんは最初から完全に僕と一致していて、ちゃんと読み込んでくれているな…と。岡村さんも、最初に会ったときの声の小ささが矢頭長助にぴったりだったので、「それで行きましょう」とお願いしたら、ばっちりで。

-他にも、「忠臣蔵」にふさわしく、出演者には「中村組オールスター」的な豪華な顔ぶれがそろっていますね。

 (濱田)岳と妻夫木(聡)くんは、台本が出来上がったところで、すぐにオファーしました。大高源五と菅谷半之丞をこの2人が演じてくれれば間違いないだろうと。大石主税役の(鈴木)福ちゃんは『ちょんまげぷりん』(10)以来ですが、台本を書いているときから「撮影の頃なら、大石主税と同い年ぐらいでは?」と思い、定期的にネットで成長具合を確認していました(笑)。堀部安兵衛役にはもともと、いわゆるイケメンを想定していたので、プロデューサーから個性派の荒川良々さんという案が出てきたときはびっくりしました。でも、脚本を読み直してみたら、そっちの方が面白いなと。みんな思った通りにはまってくれました。

-ところで、中村監督がこれまで手掛けた時代劇3本は、いずれも「お金」が切り口になっていますね。

 最初の『殿、利息でござる!』(16)は、お金を扱ってはいますが、「人として慎むこと。未来に託すこと」がテーマ。2本目の『忍びの国』は、「人を押しのけてでも自分の欲を満たそうとするのが忍び。今の世の中、忍びばかりになっていませんか」という欲の話。だから、たまたま「お金」なだけで、内容は全部違うんです。その中では、この作品が一番、お金に寄った話になっていると思います。

-いずれも私利私欲に対して批判的な点に、社会風刺的なニュアンスも感じますが。

 「お金は未来のために使うべきでは?」というのは、なんとなく伝わってほしいな…とは思っています。『殿、利息でござる!』は、特にそうですね。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

上白石萌歌「小さなお子さまから大人の方まで幅広く届いてほしいと思います」『トリツカレ男』【インタビュー】

映画2025年11月11日

 何かに夢中になると他のことが目に入らなくなってしまうジュゼッペ(声:佐野晶哉)は、街の人々から「トリツカレ男」と呼ばれている。ある日、ジュゼッペは、公園で風船売りをしているペチカに一目ぼれし、夢中になるが…。作家・いしいしんじの同名小説を … 続きを読む

八木莉可子「相反する二面性をどちらも大切にしたい」「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」【インタビュー】

ドラマ2025年11月10日

 草なぎ剛主演の月10ドラマ「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜午後10時)。第3話で強烈なインパクトを残したゆずは(八木莉可子)の母(雛形あきこ)が、再びHeaven’s messenger … 続きを読む

目黒蓮が抱いた“継承への思い” 妻夫木聡、佐藤浩市から受け取った“優しさ”と俳優としての“居住い” 日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」【インタビュー】

ドラマ2025年11月9日

 日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」への出演発表時、“物語の鍵を握る重要な役どころ”という情報のみだった目黒蓮演じる謎の人物。そこから約2カ月、11月2日放送の第4話でようやくその正体の一端が解禁された。男の名は中条耕一、佐藤浩市演じる山王 … 続きを読む

堤真一、三宅唱監督「実はこういうことも奇跡なんじゃないのということを感じさせてくれる映画だと思います」『旅と日々』【インタビュー】

映画2025年11月6日

 三宅唱監督が脚本も手掛け、つげ義春の短編漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』を原作に撮り上げた『旅と日々』が11月7日(金)から全国公開される。創作に行き詰まった脚本家の李(シム・ウンギョン)が旅先での出会いをきっかけに人生と向き … 続きを読む

【映画コラム】俳優同士の演技合戦が見ものの3作『爆弾』『盤上の向日葵』『てっぺんの向こうにあなたがいる』

映画2025年11月1日

『爆弾』(10月31日公開)  酔った勢いで自販機を壊し店員にも暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男(佐藤二朗)。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。  やがてその言葉 … 続きを読む

Willfriends

page top