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「第39回はほぼ全編、志ん生=孝蔵のシーン。驚きました」森山未來(美濃部孝蔵)「森山未來の芝居は絶品」大根仁(演出)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

 1940(昭和15)年の東京オリンピック開催を返上し、日本は太平洋戦争へと突入。田畑政治(阿部サダヲ)や金栗四三(中村勘九郎)らの思いをよそに戦争が暗い影を落とす中、10月13日放送の第39回では、美濃部孝蔵=古今亭志ん生と三遊亭圓生(中村七之助)、学徒出陣で出征した小松勝(仲野太賀)の3人を中心に、満州での日々が描かれる。それは、孝蔵に大きな転機をもたらすと同時に、これまでほのめかされてきた志ん生と五りん(神木隆之介)をつなぐ謎が明らかになる重要なエピソードでもある。孝蔵役の森山未來と演出を担当した大根仁が、放送を前に見どころを語った。

美濃部孝蔵=古今亭志ん生役の森山未來

-第39回の台本を読んだときの感想は?

森山 それまで、ドラマの中に細く長く…というか、飛び道具的にぽんぽん入らせていただいていたのが、いきなりほぼ全編、志ん生=孝蔵のシーン。もう単純に驚きました。これまでばらまかれてきた壮大な伏線の回収がここで行われるというのも、すごいなと。よくできた台本だと思いました。

-孝蔵は、三遊亭圓生と共に満州へ渡ることになりますが、圓生役の中村七之助さんの印象は?

森山 圓生さんは、芸に対して非常にストイックで、色気のある人だったと聞いているので、七之助さんにぴったりだなと。もちろん、はなし家なので落語をやるわけですが、 “艶のある女性をどうやるのか”という皆さんの期待に、話の部分で応えてくれると思うので、僕も楽しみにしています。

-志ん生にとって、満州という場所はどんな意味があるのでしょうか。

森山 いろいろな人の話や文献によると、戦争以降、志ん生さんの芸がいい意味で変わったそうです。どこにいても変わらないと思っていた人の芸が変わったということは、満州でそれほど壮絶なことが起きているはず。でも、志ん生さん自身は、その辺のことをあまり詳しく語っていないんです。ただ、芸事全てに通じることですが、「はなし家はある程度のところまでは技術を鍛錬できるけど、その先は、その人の人生みたいなものが表れる」と落語指導の古今亭菊之丞師匠がおっしゃっていたんです。そうすると、満州が志ん生の大きなターニングポイントになるのであれば、ここで何かが確立されなければいけない。

-なるほど。

森山 “破れかぶれな芸風”と言われている志ん生さんですが、満州で自分の人生を決定づける何かが生まれてしまう。それまで、ふらふらして“飲む、打つ、買う”ばかりだった人に、ここで根っこに重たいものがずしっと下りるのかなと。勝手な妄想ですが、満州で「生きているだけで丸もうけ」というか「これでいいじゃねぇか」みたいな、いい意味での開き直りのようなものが生まれたのではないでしょうか。とはいえ、“飲む、打つ、買う”は今後も続くかもしれませんが(笑)。

-おなじみの落語「富久」も演じるそうですね。

森山 むちゃぶりです(笑)。小松勝(仲野太賀)をめぐる伏線の回収が主で、そこに志ん生の「富久」が乗っかってくる。その「富久」で、僕は孝蔵として何か大きな到達点を迎えなければいけないのですが、そこに至るまでの心境の変化がそれほど描写されていなくて…。「なんとかせえよ、おまえ」と言われている感じがすごい(笑)。第13回でやった「富久」は、酔った状態で披露した初高座。だから、破れかぶれでよかったのですが、今回はそういう訳にはいかない。そこからの成長や到達点みたいなものを、うまく見せられたら…と思っています。

-大根監督から見た第39回の森山未來さんの演技はいかがでしたか。

大根 未來には細かい演出をするのが恥ずかしいので、よほどのことがなければ何も言わないのですが、どういう編集になるのかだけは説明しました。また、「富久」の前に圓生の「居残り佐平次」を撮ったのですが、七之助さんが実に素晴らしかった。エキストラのお客さんたちが引き込まれている様子を見て、未來も火がついたのではないでしょうか。その結果、最高の「富久」になりました。未來のことはあまり褒めませんが、ここは言っておきます。「森山未來の芝居は絶品」(笑)。

-第39回を演出するに当たって、こだわった点や見どころを教えてください。

大根 見どころはやはり、森山未來、中村七之助、仲野太賀の初共演とは思えない、俳優として全ての相性がマッチした演技です。途中から演技とは思えなくなりました。僕はもともと、男同士の“バディもの”が大好き。そこには、男女の関係性とは異なる独特の色気が役者同士の間に漂うんです。そういう意味で、圓生の「居残り佐平次」から志ん生の「富久」を経て、勝の“ある行動”へ…という流れは、宮藤さんの脚本も見事でしたが、役者、演出、スタッフの「脚本を超える!」という思いが一つになったいいシーンだと思います。

(取材・文/井上健一)

 

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