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満州を舞台に、古今亭志ん生こと美濃部孝蔵(森山未來)と小松勝(仲野太賀)の終戦前後の壮絶な体験が語られた第39回。第1回からほのめかされてきた五りん(神木隆之介)を巡る謎が明らかになった回でもあった。このとき、孝蔵と共に慰問で満州に渡ったのが、昭和の落語の大名人・三遊亭圓生だ。演じたのは、金栗四三役で出演している中村勘九郎の弟で、歌舞伎俳優の中村七之助。物語のターニングポイントとなった第39回を中心に、撮影の舞台裏や役に込めた思いを語ってくれた。
圓生と孝蔵が異国の地で小松勝と出会い、戦火の中で芽生える絆と、国を背負っていくべき若者が散っていく悲しさが描かれていて、とても人間味にあふれた物語だと思いました。圓生と孝蔵の関係でも、もともとそれほど仲が良かったわけでもない2人が、満州と中国での体験を通じて、互いに認め合うようになっていく。実際に、志ん生さんも圓生さんも、帰国してから芸が深まり、名声も大きくなったと聞いています。たった1話の中ではありますが、そこにつながる苦労や希望を表現できたら…と考えながら演じました。
まず、「ここに落語の『富久』をひっかけてくるんだ!?」と驚きました。第1回からずっと張ってきた伏線を、ここで回収してくるのか、すごいな…と。それと同時に「読みたくなかった…」とも思いました。僕は「いだてん」のファンで、毎週欠かさずリアルタイムで見ていたので、できれば先の話は知りたくなかったんです。放送前に兄が持ってきたDVDも、絶対に見ないようにしていたぐらいで。とはいえ、自分が出演する以上は読まないわけにもいかず…。読んだときは「ああ…知っちゃったよ…」と、ちょっと悔しい気持ちになりました(笑)。
びっくりしました。兄が主役の上に、僕自身も(脚本家の)宮藤官九郎さんの初監督映画『真夜中の弥次さん喜多さん』(05)に主演させていただくなど、いろいろと縁があったこともあり、ほんのちょっとした役でもいいので出演できればなと思っていたんです。例えば、ランニングをしている金栗さんの横を通り過ぎ、「頑張れよ!」と声を掛ける歌舞伎俳優…みたいなワンシーン程度の出演だろうと。でも、決まってみたら圓生という大きな役。とても驚きましたが、やっぱりうれしかったです。
時間があれば寄席にも行きますし、落語のCDも持っています。そういうふうに、昔から落語は聞いていましたが、まさか自分がやることになるとは…(笑)。本職の方に比べたら、とても目を当てられるようなものではありあませんが、「いだてん」はいい作品ですし、共演する森山未來くんも素晴らしいので、作品に泥を塗らないように…ということだけを心掛けて練習を重ねました。
未來くんは僕にとって、舞台も見に行くほど大好きな役者さんで、尊敬もしています。今回の「いだてん」でも第1部、第2部を通して出演し、陰の主役とでもいうべき存在。しっかりと孝蔵のキャラクターをつかみ取った落語をしていて、グッとくる場面が多いですよね。物語の上では、圓生が次第に志ん生を認めていくという展開ですが、僕は既に未來くんのことを認めているので、胸を借りるつもりでお芝居させていただきました。
状況がどんどん悪化していく中、諦めて死んでしまおうと、ウォッカを飲み続ける孝蔵に圓生の放った言葉が「せがれの高座、見るんじゃねえのか!」。このせりふがとてもよかったですね。これはもちろん、「諦めずに生きろ」という意味ですが、「生きるんだよ」でも「もう一度高座に上がるんだ」でもなく、「せがれの高座、見るんじゃねえのか!」という言葉が出てくる。そこには、「引き揚げたら、せがれの高座を聞くのが楽しみだ」と息子が落語家になったことを照れ臭そうに喜んでいた孝蔵への思いが込められているわけです。このせりふを書ける宮藤さんはやっぱりすごいな…と。
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