X


「幻の東京オリンピックがあったことを初めて知りました」塚本晋也(副島道正)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

 1938(昭和13)年、オリンピック招致の中心的存在だった嘉納治五郎(役所広司)を失った日本は、日中戦争の激化に伴い、既に決まっていた東京開催を返上する。周囲の状況を冷静に判断し、嘉納の遺志を受け継いだ田畑政治(阿部サダヲ)らの反対を押し切って返上を決断したのは、IOC委員でもある伯爵の副島道正。ここまで副島を演じてきた塚本晋也が、役に込めた思い、作品を通じて感じたことなどを語ってくれた。

副島道正役の塚本普也

-副島道正とはどんな人物でしょうか。

 副島さんのことは、僕も今回初めて知りました。ケンブリッジ大学を卒業し、帰国後、当時の宮内省に入省したという大変博学な方。家柄的にも伯爵家という地位で、知性と品位を併せ持ち、西洋の文化や語学にも精通する国際的なセンスを見込まれてIOC委員となったようです。

-事前にどんな準備を?

 副島さんについて残されている資料を、少しですが読ませていただきました。そこから受けたのは、体は弱くても、かくしゃくとしてブレない人だったのでは…という印象。そういう部分は脚本にも生かされていたようです。また、副島さんの父親は、旧佐賀藩士から明治政府に登用された人物だと伺っています。そこから、江戸時代の武士の名残と、明治維新の気風みたいなものを受け継いでいる人では…と想像しました。イタリアの首相ムッソリーニから「サムライ」と声を掛けられたのも、副島の中ににじみ出る気迫があったためではないでしょうか。

-役については、どんなふうに捉えて演じましたか?

 副島は、ひ弱なようで信念の人。ただ、最初はどう演じようか、ほぼノープランでした(笑)。脚本を読んだ印象では、どちらかというとクールな人柄で、周囲とは一定の距離を取りながらも、次第にオリンピック招致の熱狂の渦に取り込まれていく感じなのかな…と。とはいえ今回は、現場で信頼できる監督さんたちの言葉を聞き漏らさないようにしながら、その期待に応えようと演技をしていくうちに、役どころが徐々に分かっていった部分も大きかったです。「オリンピック開催を譲ってほしい」とムッソリーニに直談判するシーン(第33回)では、「絞り出すような強さがほしい」と言われました。そんなふうに、撮影現場の熱い“うねり”の中で役をつかんでいったような気がします。

-宮藤官九郎さんの脚本の印象は?

 念願の宮藤作品に出演させていただくことができ、とてもうれしかったです。「あまちゃん」(13)も、たっぷり楽しんでいましたから。出演して分かったのですが、宮藤さんの脚本はどのキャラクターも立っている上に、それぞれが複雑に絡み合って物語が加速度的に面白くなっていく。そんなところが魅力だなと。だからこそ、演じる側は誰もがワクワクするし、生き生きと演じることができるんでしょうね。ただ、副島は英語やフランス語で話す場面も多いので、現場では緊張しっぱなしでした(笑)。

-冷静な副島でしたが、徐々に嘉納治五郎と田畑政治に影響されていきましたね。

 何事にも動じないはずの副島が、嘉納さんと田畑の熱狂的なオリンピック招致への思いに次第に取り込まれて行く…。この2人、すごいなと(笑)。演じている役所広司さんと阿部サダヲさんも素晴らしい。2人の演技をこんなに間近で見ることができて、ワクワクしました。

-役所広司さんとの共演はいかがでしたか。

 役所さんとはこれまで、ごあいさつ程度しか面識がなく、今回がほぼ初対面です。共演させていただくことがとても楽しみでした。素晴らしい存在感と素晴らしい演技。人間国宝のような方だと思っています。嘉納さんと副島が並ぶような場面では、僕は正面を向いていなくてはならないのに、横にいる役所さんの演技を見たい衝動に駆られ、自分でも困りました(笑)。

-阿部サダヲさんの印象をお聞かせください。

 すてきな方ですよね。阿部さんが演じる田畑には驚かされました。とてもエネルギーにあふれ、大河ドラマの枠にとらわれず、アニメのキャラクターのように縦横無尽に駆け回っている。その破壊力が非常に面白い。僕も初めはギャグを交えながら演じるつもりでしたが、阿部さんを見ていたら、それとは対極に、どこか肖像画のように作品に溶け込んでいこうと。そんなことを心掛けるようになりました。

-これまで出演してきた感想は?

 1964年の東京オリンピックの前に、こんな幻の東京オリンピックがあったことを初めて知りました。64年の東京オリンピックのとき、僕は4歳でしたが、そこにたどり着く前に、こんなふうにオリンピックと東京が関わり合っていたとは…。今回の大河ドラマはいつもの時代劇とは違い、近現代が舞台。しかも、僕らが生まれて完全に記憶があるところまでつながっていくので、そういう時代背景について、役を通じていろいろ知ることができたのも、大きな意味がありました。出演することができて、本当によかったです。

(取材・文/井上健一)

組織委員会で、東京オリンピック返上を主張する副島(塚本晋也)

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「場所と人とのリンクみたいなのものを感じながら見ると面白いと思います」今村圭佑撮影監督『青春18×2 君へと続く道』【インタビュー】

映画2024年5月9日

 18年前の台湾。高校3年生のジミー(シュー・グァンハン)はアルバイト先で4歳年上の日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)と出会い、恋心を抱く。だが、突然アミの帰国が決まり、落ち込むジミーにアミはあることを提案する。現在。人生につまずいた3 … 続きを読む

田中泯「日本の政治に対する僕自身の憤りに通じる部分も多かった」世界配信となる初主演のポリティカル・サスペンスに意気込み「フクロウと呼ばれた男」【インタビュー】

ドラマ2024年5月9日

 あらゆるスキャンダルやセンセーショナルな事件を、社会の陰に隠れて解決してきたフィクサー、“フクロウ”こと⼤神⿓太郎。彼は、⼤神家と親交の深かった次期総理候補の息⼦が謎の死を遂げたことをきっかけに、政界に潜む巨悪の正体に近づいていくが…。先 … 続きを読む

海宝直人&村井良大、戦時下の広島を舞台にした名作漫画をミュージカル化 「それでも生きていこうというエネルギーをお見せしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年5月9日

 太平洋戦争下の広島県呉市に生きる人々の姿を淡々と丁寧に描いた、こうの史代氏による漫画「この世界の片隅に」がミュージカル化され、5月9日から上演される。主人公の浦野すず役をWキャストで務めるのは、昆夏美と大原櫻子。すずが嫁ぐ相手の北條周作を … 続きを読む

「ジョンは初恋の人、そしてかけがえのない友達」『ジョン・レノン 失われた週末』メイ・パン【インタビュー】

映画2024年5月9日

 ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻が別居していた「失われた週末」と呼ばれる、1973年秋からの18カ月の日々。その時ジョンは、彼とヨーコの元・個人秘書で、プロダクション・アシスタントを務めていた中国系アメリカ人のメイ・パンと恋人関係にあった … 続きを読む

北村匠海「長谷川博己さんのお芝居は、やっぱり迫力がすごい」 日曜劇場「アンチヒ-ロ-」【インタビュ-】

ドラマ2024年5月8日

 長谷川博己が主演を務める日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS系)が放送中だ。本作は殺人犯をも無罪にしてしまう“アンチ”な弁護士・明墨正樹(長谷川)の姿を描き、視聴者に“正義とは果たして何なのか? ”“世の中の悪とされていることは、本当に悪い … 続きを読む