「なつよ…」「来週に続けよ」 意地で入れ続けたナレーションは失敗!? 大森寿美男(脚本家)【「なつぞら」インタビュー】

2019年9月7日 / 08:30

 記念すべき100作目の朝ドラ脚本という大役を成し遂げた大森寿美男。当初は放送が始まる前には書き終えるだろうと楽観視していたものの、ふたを開けてみれば1年半以上も本作に費やしていたのだとか。朝ドラ史上初となるドラマとアニメーションが融合した本作に込めた思い、特徴的なナレーションの裏話、脚本を脱稿した気持ちなどを聞いた。

脚本の大森寿美男

-まずはお疲れさまです。脱稿された今のお気持ちは?

 執筆開始は去年の1月で、脱稿したのは7月22日の週でした。達成感を味わえると思っていましたが、視聴者に満足してもらえるのか最後まで分からないので、今も不安でビクビクしています。アニメパートがどういう仕上げになるかも想像もできないし、何よりも広瀬すずさんが最後まで全力で駆け抜ける姿を見るまでは責任を果たせた気がしません。

-「てるてる家族」(03)以来2度目の朝ドラでしたが、前作と比較していかかでしたか。

 100作目だから当然注目度は高く、プレッシャーは全然違いました。キャスト・スタッフ全員を成功に導きたい意欲はありましたが、自分の世界だけで勝負していいのか? どこを目指せばいいのか? という不安や悩みも最初からずっとありました。年のせいもあって、脚本を書くスピードも全然違い、前作の倍はかかりました。当初は放送前に書き終わると思っていたけど無理でした(笑)。

-その中でも、筆が乗ってスムーズに書けたパートはどこでしょうか。

 なつの成長記であり、ホームドラマでもあるので、北海道の柴田家、新宿の風車、結婚しての坂場家、この三つを舞台に、物語を考えているときはいつも以上に楽しかったです。

-逆に苦労したパートはありますか。

 アニメパートです。自分では絵は描けないし、自分だけの発想でも作れない。また、アニメーターの方々にたくさん作画をしてもらうことも、ドラマ内に登場させることができるアニメーションの分量にも製作的な限界があり、せっかくだからどんどんアニメを取り入れたいんだけど、それはできないので、少ない枠の中でアニメーションをいかに効果的に取り入れるかに悩みました。

-なつ(広瀬すず)を描く上で特に気に掛けていたことは何でしょうか。

 戦災孤児であり、本当の家族ではない柴田家で育ったなつは、欲求のままに動くことや、他人に依存したり、踏み込んだりすることが苦手な性格で、常にどこかで不安や喪失感を抱えています。でも、そのマイナスな気持ちをパワーにして、明るく前向きに生きることがなつらしさなので、その時々で、「今、なつの中にある不安や喪失感は何だろう…」と考えていました。

-広瀬さんにはどのような印象を持たれていますか。

 難しい役を自然体で、かつ強い表現で演じられていると思います。なつは、人とのかかわりを大事にしていますが、根本的に孤独な人間です。そこが広瀬さんと共通している気がして、広瀬さんとなつの資質や性格は、僕の中で分けがたいです。だから、広瀬さんが表現することが、なつとしての正解だと思います。現場では一人でも何とか立ち続けようとしていて、そんな意志に共演者たちの心が動き、支えてあげたいという気持ちになるんじゃないかな。

-キャストインタビューでは“当て書き”をされていると感じている方が何人もいらっしゃいましたが、実際のところはどうでしたか。

 僕が持っている勝手なイメージで書いていましたが、その人の資料をわざわざ読んで当て書きをすることはなかったです。役者のことを細かく知ってしまうと、その要素を取り入れたくなるけど、ネタみたいになって嫌なんですよ。「この人はこういう人かなぁ」と自由に想像している方が楽しいので、役者さんとは距離を置くようにして、あいさつ程度しかしませんでした。

-山田裕貴さんが「自分と雪次郎とのシンクロ率が高い」と大興奮されていましたが、当て書きではなかったのですね。

 「雪次郎の“素晴らしい役者”についての考え方が自分と同じ」などと言われていたようですが、それは当時の新劇の名優が言っていたことで、僕が彼をリサーチして書いたわけではありません。でも、山田くんが役者についてそんなふうに思っているのであれば、昭和の時代に活躍した俳優たちと同じ考えを持っているということなので、いいことなんじゃないかな。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

山時聡真、中島瑠菜「倉敷の景色や街並みや雰囲気が、僕たちの役を作ってくれたという気がします」『蔵のある街』【インタビュー】

映画2025年8月19日

 昔ながらの街並みが残る岡山県倉敷市の美観地区を舞台に、街で花火を打ち上げようと奔走する高校生たちの奮闘を描いた青春映画『蔵のある街』が8月22日から全国公開される。倉敷市出身の平松恵美子監督が手掛けた本作で、倉敷市に住む高校生の蒼と紅子を … 続きを読む

ファーストサマーウイカ「それぞれの立場で“親と子”という普遍的なテーマについて、感じたり語り合ったりしていただけたらうれしいです」日曜劇場「19番目のカルテ」【インタビュー】

ドラマ2025年8月17日

 TBSでは毎週日曜夜9時から、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」が放送中。富士屋カツヒトによる連載漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)を原作に、「コウノドリ」シリーズ(TBS系)の坪田文が脚本を手 … 続きを読む

橋本愛 演じる“おていさん”と蔦重の夫婦は「“阿吽の呼吸”に辿り着く」【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年8月16日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。本作で蔦重の妻・ていを演じているのは、今回が4度目の大河ドラマ出演で … 続きを読む

山里亮太「長年の“したたかさ”が生きました(笑)」 三宅健太「山里さんには悔しさすら覚えます(笑)」STUDIO4℃の最新アニメ『ChaO』に声の出演【インタビュー】

映画2025年8月15日

 『鉄コン筋クリート』(06)、『海獣の子供』(19)を始め、個性的なアニメーションを次々と送り出してきたSTUDIO4℃。その最新作が、アンデルセンのおとぎ話『人魚姫』をベースに、人間の青年・ステファン(声:鈴鹿央士)と人魚王国のお姫さま … 続きを読む

ウィリアム・ユーバンク監督「基本的には娯楽作品として楽しかったり、スリリングだったり、怖かったりというところを目指しました」『ランド・オブ・バッド』【インタビュー】

映画2025年8月14日

 ラッセル・クロウとリアム・ヘムズワースが共演し、戦場で孤立した若手軍曹と、彼を後方から支援する無人戦闘機のベテラン操縦官の闘いを活写したサバイバルアクション『ランド・オブ・バッド』が8月15日から全国公開された。米海軍全面協力のもと、入念 … 続きを読む

Willfriends

page top