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「僕らなりに楽しめる歴史ドラマを作りたい。第8回は生田斗真くんが圧巻です」井上剛(チーフ演出)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

 放送開始から2カ月が経過した大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。2月24日放送の第8回で、いよいよ史上初の日本代表となった金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)が、オリンピックの開催地ストックホルムへと旅立つ。序盤の山場に向けて物語が転機を迎えるに当たり、チーフ演出の井上剛氏に第8回の見どころ、作品に込めた思いなどを聞いた。

チーフ演出の井上剛氏

-四三と三島たちがストックホルムに向けて旅立つ第8回の見どころは?

 駅で三島と家族の別れのシーンがありますが、このときの生田斗真くんの芝居は圧巻です。実は、生田くんや白石加代子(弥彦の母・三島和歌子役)さんたち、三島家の面々が全員そろった撮影は、このときが初めてだったんです。それまでほとんど一緒に芝居をしたことがなく、「母上」、「弥彦」と呼び合うのも初めて。それでも、ものすごくいいシーンになりました。改めて「役者ってすごいな…」と感じた撮影でした。

-大観衆の見送りを受けて旅立つようですね。

 注目してほしいのが、群衆の様子です。日の丸やのぼりを掲げた人たちが集まり、壮行会のようになった新橋駅から、四三と三島が送り出されていきます。そういう風景が登場するのは今回が初めてですが、この後、何度も出てくるようになります。ただ、それが戦争の時代に入っていくと、次第に違った風景に見えてくる…。そういうふうに、この先に向けた伏線にもなっているので、歴史ドラマとして、その点も楽しんでいただけたら。また、駅のホームの場面は大井川鉄道の千頭駅をお借りして撮影しましたが、ホームと客車以外は、ほぼ全てVFXで作り込んでいます。改めて、VFXの力を思い知らされました。

-続く第9回(3月3日放送)から、『モテキ』(11)、『バクマン。』(15)などを手掛けた映画監督の大根仁さんが演出陣に加わりますが、NHKの外部から大根さんが参加することになった経緯は?

 もともと、大根さんを僕に紹介してくれたのは森山未來(美濃部孝蔵役)くんなんです。僕が撮った「その街のこども」(09)と、大根さんの『モテキ』の両方に森山くんが出ていたことが縁で。それ以来、もう10年ぐらいの付き合いになります。大根さんはNHKの番組をものすごくよく見ている方で、僕たちとは違ったカラーや得意分野を持っている。そのあたりのチューニングがうまくハマれば、面白いことになるのではないかと思って今回、声を掛けさせていただきました。

-それでは改めて、チーフ演出として、この作品が目指すものを教えてください。

 大河ドラマに限ったことではありませんが、歴史を描く作品は、いつも幕末あたりで終わってしまいます。でも、そこで止まらず、もう少し先へ進んで、僕らなりに楽しめる歴史ドラマを作ってみたい。それが最初に思ったことです。見たことのない時代を調べた上で、「これが自分たちの通ってきた道だ」という地平を切り開きたいと。

-確かに、戦国時代や江戸時代に比べて、明治以降の歴史についてはあまり広く知られていませんね。

 高校の頃、日本史の授業が3学期になると教科書の途中で終わってしまい、「なぜ僕たちは今ここにいるんだろう?」という部分が弱いと感じていました。この作品は、明治の終わりから東京オリンピックの1964年まで、約50年の物語になります。明治、大正、昭和と、わずか半世紀で日本はこんなに激変したんだということを、僕らの肌感覚で取り入れていきたいと考えています。

-その物語を作り上げる脚本家・宮藤官九郎さんの印象は?

 頭の良さに驚くばかりです。膨大な資料を全て頭にたたき込み、そこから取捨選択して、「こんなお話どうでしょう」と並べてくる。それをわずか2、3日でやってくるんです。そのスピードの速さと言ったら…。もちろん、そこから直したり、いろいろなアイデアを盛り込んだりしていくのですが、どうやってこんな話を思い付くんだろうと。

-もう少し詳しく教えてください。

 例えば、幾つかの資料を参考に、それを膨らませてキャラクターを作っていくわけですが、その後、いろいろ調べてみると、あながち間違ったものにはなってはいない。それは、嘉納治五郎(役所広司)さんのような有名人だけでなく、資料が残っていない美川(秀信/勝地涼)くんのような人でも同じ。まるで予知能力です。そういう宮藤さんの筆があるから、無名の人たちばかりなのに、役者さんはものすごくやりやすい。あそこまでキャラクターを描き込んでいく力は、本当にすごいなと。

-本作では、当時の日本橋の風景などをCGではなくミニチュアで再現しているようですが、その狙いは?

 CGのようなつるっとした映像ではなく、手作り感があった方が面白いだろうと。そこで、『シン・ゴジラ』(16)にも参加したVFXスーパーバイザーの尾上克郎さんに相談して、あの映像が出来上がりました。これまでミニチュアで再現された日本橋の風景が何度か登場していますが、今後も時代が移り替わっていく中で、日本橋がキーの場所になります。

-定点観測的な感じで日本橋の変遷を追っていくと?

 そうしたいと思っています。日本橋だけでなく、浅草にある12階建ての凌雲閣も、地面に近いところはセットですが、上の方は模型を合成しています。そういった街の表現にも注目していただければと。劇中には絵巻物のような東京の地図も登場しますが、あれは今のように東西南北を基準にしたものとは違い、隅田川が下で、真ん中に皇居、富士山が上にくるように描かれているんです。昔の人は、こういう地図を見て暮らしていたんだなと。時代に合わせて、それも変わっていく予定です。

-そういった工夫は、時代の空気感を表現するためですか。

 そうですね。第1回で平沢和重(星野源)がオリンピック招致のスピーチをしていましたが、あれは50年懸けてようやく世界を日本に迎えることができるという主旨です。当時、それぐらい日本は世界と遠かった。ヨーロッパから見て、日本がどれほど遠かったのかということも世界地図を使って表現して行くつもりです。そういう意味で、模型や地図は大事に使っていこうと考えています。

(取材・文/井上健一)

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