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井伊家の家臣・奥山家から、小野政次(高橋一生)の弟・玄蕃(井上芳雄)のもとへ嫁ぎ、玄蕃亡き後、小野家に残って政次を支えるなつ。政次へ密かに思いを寄せる気配もうかがわせたが、第25回の、政次に抱きつくという大胆な行動に驚いた視聴者も多いに違いない。こうなると今後の2人の関係も気になるところ。なつを演じる山口紗弥加が、そのシーンの裏話や、高橋との共演について語った。
今思い出しただけでも、どっと汗が出ます(笑)。リハーサルの段階から、もうただただ恥ずかしくて。私が知るなつは理性の人。私情を表に出すような人ではなく、政次さんへの思いは当然、秘密の片思いで終わるものだと…まさかあんなシーンを演じることになるなんて想像すらしていなかったものですから。台本に“抱きつく”と書いてあるのに、体が動かず困っていたら、所作の先生から「抱きつくんだよ!」と怒られた上に、「こうやればいいんだよ」とお手本まで見せていただいて(笑)。私がなつなのか、なつが私なのか、よく分からなくなるほどに緊張し、その後、ドカンと落ち込みました(笑)。
何度もお願いすることになってしまったのに、「何度でもどうぞ」という感じの泰然たる態度でお付き合いしてくださって。でも、あまりの回数にさすがに最後は苦笑いしていましたけど(笑)。ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ないという気持ちと、有難い気持ちでいっぱいでした。その時、殿(柴咲コウ)がちょうど同じリハーサル室にいたんですけど、なかなか抱きつけない私を、写メでこっそり撮っていたようで…スマイルマーク付きでLINEに送られてきました(笑)。かつては竜宮小僧だった殿も、今ではただのいたずら小僧です(笑)。
直虎さんを筆頭に、井伊の女性たちは、自分のことはさておき、誰かに思いをはせて行動するような人が多く、なつも“人思いの人”だと思っています。もちろん、そこには自分の幸せがあって、誰かの幸せが、結局はなつの幸せにつながっている訳ですが、姉のしの(貫地谷しほり)や兄の六左衛門(田中美央)だったり、井伊のお家のことだったり、常に自分以外の誰かに心を寄せている人です。とはいえ、一番は政次さんなのでしょうけど。でも、あまりにお人好しなので、じれったくて、演じながらムズムズすることも多いです。予想外のところで見せる大胆不敵な行動力にはタジタジですけどね(笑)。
所作に関しては、動きが硬くならないように、柔らかさを意識しています。着物を畳むなど、日常の何げない動作一つにしても、動きをゆっくりにしたり、繊細に丁寧に、一つ一つを重ねるようにしています。声については、高過ぎず、低過ぎず、柔らか過ぎず、冷た過ぎずという”適温”を探りながら。私は普段早口なので、監督から何度か「もう少しスピードを緩めて」と言われたこともあり、ゆっくりしゃべることを心掛けています。
最初は、夫だった玄蕃さんとの愛息、亥之助を小野の家の男子として立派に育てあげたい、玄蕃さんの代わりに、微力でも義兄の力になりたいと、小野の家に来たわけです。ですが、たくさんの人たちの悲しみや痛みを1人で背負い、率先して悪となり、盾となり、井伊家を、殿を守ろうとする義兄の姿を一番近くで見ているうちに、誰になんとうわさされようとも、一番の味方でありたいと思うようになった。政次さんの“心”を見てしまったのだと思います。共感以上の共鳴をしたところから、恋ともつかない、思慕の念を抱くようになったのではないでしょうか。だから、政次さんが井伊家の縁の下の力持ちだとしたら、なつはさらにその下の土のような存在で、縁の下を支える大地になりたい、政次さんの邪魔にならないところから、そっと見守っていたい、と思っているのでは…。私としては、なつには政次さんのすぐ隣で、笑顔でいてほしいんですけどね(笑)。
恐ろしいですよ、あの方は(笑)。対峙(たいじ)していると、うそがつけないというか…見透かされているようで偽れないんです。相手に芝居をさせない人、というのが正しいのかも。そのままでいれば勝手に引き出してくれるので、逆に言えば楽なんですけどね(笑)。あの年齢で、なかなかできることではないと思います。尊敬する俳優さんです。
まさしくそうです。役を演じているというのではなく、もう政次さんなんです。玄蕃さんが亡くなった後、私が「お世話になります」とあいさつをして、政次さんが「来てくれて良かった」と応える場面は、台本には涙のことは一切書かれていませんでした。でも、政次さんの涙に何とも言えない温かいものを感じて、気付けばもらい泣きしていました。高橋さんは相手の目を、探るようにじーっと見るんですよ。いろいろな秘密がバレてしまうんじゃないかと内心ヒヤヒヤしながら応戦しています(笑)。一体この人の本音はどこにあるのだろうと。全部がうそのようにも思えるし、全部本当のようにも思えるし…。誤解を恐れずに言うなら、まるで詐欺師です(笑)。ここではあえて最高の褒め言葉として使わせていただきますが、正対するのが怖い人、高橋さんはそんな俳優です。
時間というのは、すごく大きいなと感じています。撮影が始まってもう9カ月ぐらいになりますが、頭で考える前に体が勝手に動いたり、口からは、せりふをしゃべっているようで感情が洪水のようにあふれてきたり…。長い時間を懸けて演じられる幸せをかみ締めています。皆さんよく「役と一緒に成長する」と仰いますけど、もしかしたらこういうことなのかなと、実感しているところです。“大河”は“大きな河”と書きますが、たくさんの支流が集まって大河になるわけで、私もその1本として、うそ偽りのないお芝居をしていきたいです。
全然できないです。やっぱり1年という期間は大きくて、いろいろなものが変化していきます。最初のころは、政次さんに抱きついて思いを伝えるようななつは想像できませんでした。役者同士の関係性も変化していって、一つのシーンを撮影する前後で、空気感や距離感がガラッと変わったりするので、お芝居って本当に面白いなと。ただその場で「用意、スタート」、「はいカット!」で終わりではないんです。そこから少しずつ積み重ねられていくものがあって…。だから、これから先もすごく楽しみです。
(取材・文/井上健一)
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