【大河ドラマコラム】「青天を衝け」第一回「栄一、目覚める」今後への興味をかき立てた吉沢亮の熱演と鮮やかな脚本

2021年2月17日 / 15:23

 遠方から街道を疾走してくる騎馬集団の前に、「渋沢栄一でございます!」と叫んで飛び出す主人公・渋沢栄一(吉沢亮)といとこの喜作(高良健吾)。だが、集団が素通りすると、慌てて追い掛けながら、「今既に、徳川のお命は尽きてございます!」と言葉を飛ばす。

 これを聞き、足を止めた集団の中から進み出た徳川慶喜(草なぎ剛)に「そなた今、何と申した?」と問い詰められた栄一は、平伏してこう述べる。

 「既に、徳川のお命は尽きてございます。あなた様は、賢明なる水戸烈公のお子。もし、もし、天下に事のあったとき、あなた様がその大事なお役目を果たされたいとお思いならば、どうか、どうか、この渋沢をお取立てくださいませ!」

 ここで慶喜から「面を上げよ」と命じられた栄一は、顔を上げ、馬上の慶喜を真っすぐに見据える…。

渋沢栄一役の吉沢亮(左)と渋沢喜作役の高良健吾

 2月14日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」第一回冒頭で描かれた栄一と慶喜の出会いの場面だ。

 この回は、子役が演じる栄一の少年時代がドラマの中心だったため、主演の吉沢の出番はオープニングタイトル前のこのシーンのみ。だが、慶喜を見据える力強いまなざしからは、栄一の思いだけでなく、主演俳優として作品を背負っていく吉沢自身の覚悟も感じられ、強い印象を残した。

 大河ドラマには、俳優が長期にわたって一人の人物を演じることで、役との一体感が高まり、芝居の深みが増す面白さがある。前作「麒麟がくる」で明智光秀を演じた長谷川博己や、織田信長役の染谷将太が視聴者を魅了したことは、記憶に新しい。

 渋沢栄一は、幕末から昭和まで、91歳の長寿を全うした人物だが、その生涯を27歳の吉沢がこれから1年、どのように演じ、どんな芝居を見せてくれるのか。第一回の初登場シーンには、その期待を、いや応なしに高めるだけの熱量があった。

 そして、この吉沢の熱演を引き出した大森美香の脚本も鮮やかだった。農家の長男として愛情深い両親の下でわんぱくに育った栄一と、水戸藩主・徳川斉昭(竹中直人)の子として将来を嘱望された慶喜。

 出会いからさかのぼり、当時の世相を交えて2人の少年時代を交互に描きつつ、対照的な境遇を際立たせる語り口は見事で、今後、彼らがどんな道をたどって巡り合うのか、次回以降への興味を大いにかき立ててくれた。

 ところで、大森と言えば第24回橋田賞を受賞するなど高評価を得た連続テレビ小説「あさが来た」(15~16)が代表作だが、本作には「あさが来た」との共通点も多い。

 「あさが来た」は幕末、京都の豪商の次女として生まれた主人公・あさ(波瑠)が、商売の才能を開花させ、時代の変化やさまざまな困難を乗り越えて数々の事業を興していく物語。農家と商人、男女といった違いはあるものの、主人公が実業家として成功を収める点は、「青天を衝け」と共通している。

 また、「あさが来た」では、あさと対照的な人生を歩む姉・はつ(宮崎あおい)の姿も並行して描かれたが、これも渋沢と並行して慶喜の物語をつづる「青天を衝け」に通じるものがある。

 「あさが来た」を生き生きとした女性の一代記に仕上げた大森が、再び実業家を主人公に、今度はどんな物語を紡ぎ出すのか。その点でも、「青天を衝け」には注目している。

 なお、キャストではディーン・フジオカが、「あさが来た」と同じ五代才助(友厚)役で出演することも既に発表されている。これを踏まえると、「あさが来た」には渋沢栄一も登場した(演じたのは三宅裕司)ので、個人的には「青天を衝け」にあさのモデルとなった広岡浅子が登場するクロスオーバー的な展開を期待したいところだ。

 
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