「道三は先見性のあった人。『野心の塊』とは違う人間らしさを表現したい」本木雅弘(斎藤道三)【「麒麟がくる」インタビュー】

2020年2月16日 / 20:50

 好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。群雄割拠の戦国時代を舞台にした本作で、主人公・明智光秀(長谷川博己)の主君に当たるのが、美濃の守護代・斎藤道三(利政)である。下剋上を実践した戦国大名の代表的な存在として知られるが、研究が進んだことで、「油売りから一代でのし上がった」と言われたかつてとは、評価が変わってきた人物でもある。そんな道三を演じるのは、「徳川慶喜」(98)以来、22年ぶりの大河ドラマ出演となる本木雅弘。新たな道三役に込めた思いや、役作りについて語ってくれた。

斎藤道三役の本木雅弘

-斎藤道三の印象は?

 道三を描いた作品としては、司馬遼太郎さんの『国盗り物語』が有名ですが、新しい資料が見つかったことで、近年ではその頃と解釈も変わり、道三が一代で油売りから成り上がったのではなく、父親と親子2代で国盗りをしたというのが通説になっています。ということは、道三自身は武士の子として生まれ、戦のやり方など、武士としての素養を携えて育ち、一国の主になったわけです。当時の武士にとっては、戦をするのが仕事。大名組織を一つの大きな会社に例えるなら、道三は有能な経営者だったと言えるのではないでしょうか。大勢の兵を率いて、勝ちにいく…。それは、かなりの先見性と具体的な戦略を持っていなければできませんから。

-なるほど。

 そういう意味では、単なる「野心の塊」ではなく、革新的ともいえる現実主義者だったのかもしれません。明智光秀や織田信長を見いだす先見性があったわけで、基本的には人間に興味があったはず。それはすなわち、生きることにこだわりや愛情があったということです。だから、ただ単に「怖さ」、「得体の知れなさ」だけでなく、道三なりの人に対する独特な愛情表現があることをにおわせるようにしたいなと。(脚本の)池端(俊策)さんからは、「戦国の人たちは、もっと喜怒哀楽が豊かで、基本的によく泣いた。もっとみずみずしく、濃く生きていたはず」とも聞いていますし。

-池端さんは道三のことを「ケチ」と語っていますが、そのあたりはどんなふうに受け止めていますか。

 台本にも「ワシは得にならぬことはやらぬ」と、恥ずかしげもなく言い放つシーンがありますが、それはすごく大事なこと。一国の主として、何か大きな目標を達成しなければならない局面で、経済の問題は避けられない現実です。何かと虚飾することも威嚇効果を得る戦略の一つだったあの時代に、自らを飾り立てずに、堂々とケチでいる。実は信長以前に「楽市楽座」も始めていた。そういうことができるのは、もしかしたら商人のDNAを持つ道三の新しさだったのではないでしょうか。少なくとも、私利私欲のための銭稼ぎはしていなかったはずです。

-道三のようなアクの強いキャラクターを演じる感想は?

 とにかくヘビーですね(笑)。僕自身はもっと薄味の生き方をしているので、毎回、自分を奮い立たせなければいけませんから。すごみを見せるような場面でも、大声を出せばいいだけではなく、静かに声を押し殺したり、妙な間を作るなど、工夫するのに苦労しています。今後のお芝居でも、「脇目も振らずにおえつし、怒りと悲しみがない交ぜに…」といった場面もあり、道三は感情の吹き出し方も一筋縄ではいかないので困ります(笑)。

-難しさもありそうですね。

 ただ今回は、黒澤和子さんの衣装が見事なので、その力にだいぶ助けられています。高画質な4Kでの撮影ということもあり、素材感までよく見えるそうです。道三の羽織は紗がかかっており、その奥に柄ON柄の着物がレイヤーになっています。それが同時に、道三の読み解きにくい複雑な多面性を表現してくれている。ですから、そういうものも武器にして、やっていけたら…と。

-演じる上で心掛けていることは?

 今回は今までのようにストイックな方向で役をデザインするのではなく、多少、たがが外れてもいいかな…と思っています。ただそれは、「羽目を外す」ということではなく、ボウリングに例えるなら「ガターが出てもいい。それも味だ、というふうに見ていく」という感じです。

-というと?

 先日、池端さんとお話をしたとき、「当時の人たちは、究極の選択が訪れたとき、最後の最後はやっぱり感情で動くはず」と言われたんです。それがかなり衝撃的でした。あんなに相手の裏をかいて駆け引きをするような者たちであれば、できるだけ感情を排して考え進めていくのでは…と思っていたので。ただ、それを聞いて「そうか!」とも思いました。例えば、普段であれば「ポーンと上げちゃうお芝居は恥ずかしい!」と思うようなところでも、「抑制し過ぎずに、ポーンと出てみるか」というようなトライをしていこうと。そんなことを心掛けています。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

 7月13日(日)にスタートする、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」(TBS 毎週日曜夜9時~9時54分)。原作は富士屋カツヒト氏による連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」 (ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は、「コウノド … 続きを読む

南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

映画2025年7月4日

 第42 回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃の小説を原作にした鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』が、7月4日公開となる。浪費家の母(河井青葉)に代わってアルバイトで生活を支えながら、奨学金で大学に通う主人公・宮田陽彩が、過酷な境遇を受 … 続きを読む

紅ゆずる、歌舞伎町の女王役に意欲「女王としてのたたずまいや圧倒的な存在感を作っていけたら」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年7月4日

 2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。  物語の舞台は歌舞 … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

舞台・ミュージカル2025年7月3日

 グローバルな広がりを見せるKカルチャー。日韓国交正常化60周年を記念し、6月28日に大阪市内で上演された「職人の時間 光と風」は、数ある韓国公演の中でも異彩を放っていた。文化をただ“見せる”のではなく、伝統×現代、職人×芸人、工芸×舞台芸 … 続きを読む

Willfriends

page top