【インタビュー】映画『フードロア:Life in a Box』齊藤工監督 世界的プロジェクトへの参加で「楽な気持ち」に… 安藤裕子 6年ぶりの映画出演は再びものづくりを楽しむチャンスに!

2020年2月14日 / 12:00

 アジアの八つの国の気鋭監督による“食”をテーマにした8エピソードからなるアンソロジーシリーズに監督として参加し、『フードロア:Life in a Box』を手掛けた齊藤工。本作に「神がかったキャスティング」によって出演するシンガーソングライターで女優の安藤裕子。2人に、作品に込めた思いや、弁当にまつわる思い出などを聞いた。

 2019年に世界各国で放送され話題を集めた、シンガポールの巨匠エリック・クーが製作総指揮を務めたアンソロジーシリーズ『フォークロア』に続く『フードロア』。齊藤監督による『フードロア:Life in a Box』は、せわしない東京から離れた電車の中で、偶然居合わせた乗客3組4人の孤独な人生が交差したとき、長い間忘れていた“お弁当”にまつわる記憶が呼び起こされ、それぞれが希望の光を見いだしていくさまが描かれる。

齊藤工監督(左)と安藤裕子

-齊藤監督が参加するに至った経緯を教えてください。

齊藤 約3年前、僕の映画『blank13』を見てくださったエリック監督から、映画『家族のレシピ』の撮影中に、「『フォークロア』の日本人枠に推薦してもいいですか」と声を掛けていただいたのが始まりです。そのときは、一枚の畳にまつわる恐怖を描いた『TATAMI』を製作しました。それを経て、「今度は食をテーマにやるので、またやりませんか?」と誘っていただきました。

-世界的なプロジェクトへの参加は、“斎藤さん”にどのような変化をもたらしていますか。

齊藤 日本だと、僕が監督した映画は「斎藤工の作品」という目で見られますが、海を超えると、僕が何者であるかなんて関係なく、作品によって評価されるので、そういう意味では正々堂々と楽な気持ちでいられます。

-スランプに陥った絵本作家役の安藤さんのほか、妻を亡くしたばかりの男を安田顕さん、彼の娘を川床明日香さん、年老いた元プロレスラー役を現役プロレスラーのザ・グレート・カブキさんが演じますが、起用の理由は何でしょうか。

齊藤 起用というとおこがましいです…。ただ、今回のキャスティングはとても神がかっていて、キャストの方は物語と実体験が重なるそうです。例えば、安田さんには役と同じ年頃の娘さんがいるし、去年、奥さまが自分が死んだときのことを考えて「あなたは料理ができないから、せめて卵焼きぐらい作れるようになりなさい」と、劇中にも登場する卵焼きを作らされたことがあったそうです。カブキさんもプロレス団体を抱えていたときは大変な苦労があったようで、「腹が立つぐらい芯を食われている」とおっしゃっていました。

-安藤さんはいかがでしたか。

安藤 曲の依頼だと思ったら、役のオファーだったので、最初は「大丈夫かな…」と思いました。でも、脚本を読むと「これは私?」と自分にリンクする役に驚きました。実は、音楽や絵などものを作って生きてきたし、それが楽しかったのに、ある日突然ワクワクが消えて、自分に対する興味もなくなり、少し前までは休業状態でした。そんな“枯渇”していた時期が2年ほどあり、ようやく曲作りが楽しいと感じるようになった頃に、このお話を頂いたので、チャンスにもなると思いました。

-チャンスとは?

安藤 自分に対して興味が薄れることは怖いですよね。そのまま消えてもおかしくないし、透明人間になった自分には誰も気づかない…。そんな中で名前を呼んでもらい、私はここにいるんだ!と呼び戻され、また以前のようにものづくりを楽しむチャンスを頂いたと思いました。

-『ぶどうのなみだ』以来6年ぶりの映画出演ですが、撮影はいかがでしたか。

安藤 どんなトーンでせりふをしゃべろうかな…と考えていると、突然安田さんが隣に座ってせりふで話し掛けてくださり、そのまませりふのやり取りを続けたことがありました。そのさりげない優しさがとてもうれしかったです。2人で話しているシーンだけど、カメラに映っているのは私だけという場面でも、安田さんはカメラの後ろに立って涙を流すほどの熱のある芝居をしてくださって、本当に助かりました。

齊藤 裕子さんは劇中の絵本のイラストも描いてくださいましたし、とてもナチュラルなお芝居がすてきでした。安田さんは、僕が職業監督ではないので、観客の想像力が湧くように「このせりふはいらないんじゃないかな」とアドバイスをくださったり、現場を温かく見守ってくださったり、よい方向に導いてくださいました。

-今回、「お弁当」をモチーフに選ばれたのはなぜですか。

齊藤 “弁当”という言葉は通じなくても、世界に共通するものだから、お弁当にまつわる話がいいと考えました。その後、今回のロケ地でもある高崎市で40年ぐらい1人でお弁当屋をやられている“なみさん”と出会いました。そのお弁当は一見普通でも丹精込めて作られていて、すごくおいしくて、地元の皆さんに愛されているので、このお弁当の物語にしようと決めました。

-8カ国が参加する中、“日本の食”という点で大事にされたことはありますか。

齊藤 僕はシュタイナー教育(教科書を使わないオルナティブ教育の一つ)を受けて育ったのですが、食事もマクロビオティック(玄米菜食)だから、見た目が真っ茶色で、おやつも煮干しなどでした。それは子どもにとっては結構しんどく、お弁当は苦しい記憶として残りました。でも、年を重ねるとともに、あれは子を思う親からのラブレターだったんだな、幸せだったんだなと気付きました。そんなふうに、日本人にとってのお弁当には、それぞれの家族の物語が詰まっているので、そこを大事にしたかったです。また、お米が主食の国はたくさんあるので、五穀米や雑穀米など、自分が子どもの頃に食べた“茶色いお弁当”にこだわりました。

-目に見えるものだけではなく、音にもかなりこだわっていますよね。

齊藤 食材の中にマイクを仕込んで切っているので、よく聞くと繊維の音が聞こえるほどで、今までの料理シーンを凌駕(りょうが)できた気がします。

 
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