「今までミュージシャンとして培ったものを生かして一生懸命、アナウンサーを演じているところです」トータス松本(河西三省)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年8月11日 / 20:50

 開幕したロサンゼルス五輪でメダルラッシュの快進撃を見せる日本水泳陣。日本国内にその喜びを伝えたのが報道陣だ。だが、当時のスポーツ報道は発展途上で、さまざまな苦労が伴った。第30回では、現場で見た競技の様子を、あたかも目の前で行われているようにラジオ局のスタジオで再現する「実感放送」が登場。今では考えられないその手段に、驚かされた視聴者も少なくないだろう。この実感放送を考案した一人が、アナウンサーの河西三省。後にベルリンオリンピックで「前畑ガンバレ!」の名文句を発したことでも知られる人物だ。演じるのは、ロックバンド・ウルフルズのボーカルとして活躍するトータス松本。実感放送や、「前畑ガンバレ!」の裏話を交えながら、撮影の舞台裏を語ってくれた。

河西三省役のトータス松本

-第30回、河西さんがロス五輪のときに行った伝説の「実感放送」が再現されていました。演じてみた感想は?

 実況中継ができなくなって急遽思いついたものだそうですが、「そんなこと本当にあったの?」と思うぐらい、おかしな話ですよね(笑)。だから、演じる上では思い切りエモーショナルな感じの方がいいだろうと思い、振り切った感じにしてみました。実際に河西さんがやったものよりも誇張されていると思いますが、「そんなアホな!」という雰囲気は伝わったのではないかと。僕も楽しかったです(笑)。

-実感放送をはじめ、当時まだ発展途上だったスポーツ報道に取り組んだ河西さんの心境は、どんなものだったのでしょうか。

 いろいろと手探りの部分が多かったでしょうね。いかに自分が見ている情景を、聞く人が思い浮かべられるように伝えるか。そのことを考え抜き、自分で発明した言い回しも、たくさんあったはずです。例えば、河西さんと一緒にロサンゼルスへ行った松内アナウンサー(ノゾエ征爾)。彼は野球の実況で、今では当たり前になっている「ピッチャー、振りかぶって、第1球投げた」の「振りかぶって」というフレーズを考案した方なんだそうです。「ピッチャー投げた」「バッター打った」では、あまりにも平坦だからと。そんなふうに、苦労も多かったと思いますが、「これから自分が作っていくんだ」という楽しさを感じていたのではないでしょうか。

-改めて、出演オファーを受けたときのお気持ちを聞かせてください。

 「いだてん」の制作が発表されたときから、「絶対に見る!」と楽しみにしていたんです。それと同時に、出演者の顔ぶれを見ていたら、何の根拠もないのに「もしかしたら、(自分にも出演の)話が来るんじゃないか?」という予感もありました。だから、お話を頂いたときは「本当に来た!」と、ものすごくうれしかったです。でも、どんな役か聞いたら「アナウンサー」だと…。それを知って、「やれるかい!」という気持ちと、「できそうな気がする…!」という気持ちの両方が湧いてきました。

-その理由は?

 「やれるかい!」というのは、使ったことのない標準語を話すという部分に対して。「できそうな気がする」は、僕も一応、歌を歌っていて、強い声を持っているという自負はあるので、そこを望まれているのであれば、できるかも…と。その二つが自分の中でせめぎ合っていました(笑)。

-アナウンサーを演じる上で、話し方の練習は?

 事前に指導を受けましたが、ものすごく難しかったです。最初は、現代の人が日常会話で使う標準語とも違うので、せりふを話しているような感覚でやればできるかな…と思っていたら、大間違い(笑)。実感放送はエモーショナルにやれたのでよかったのですが、難しかったのは「ラジオをお聞きの皆さん、こんにちは」みたいな、アナウンサー然とした話し方。「こんにちは」のたった一言に、まったくOKが出なくて…。「違います」と延々駄目出しをされ、こんなに難しいのかと驚きました。

-芝居について、監督やアナウンス指導の方に相談は?

 相談はしていません。僕は普段から芝居の仕事をバリバリやっているわけではないので、芝居をする筋力みたいなものがそれほどない。だから、相談すること自体に慣れていないし、アドバイスをもらっても、恐らく僕自身がそれに対応できない。だったらそれよりも、僕が今までミュージシャンとして培ったものを生かして、阿部(サダヲ)くんや(松澤一鶴役の)皆川(猿時)くんのセッションに参加していった方がいいだろうと。そういう心構えで、一生懸命やっているところです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【週末映画コラム】『六人の嘘つきな大学生』/『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日公開)

映画2024年11月22日

『六人の嘘つきな大学生』(11月22日公開)  大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1カ月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。  全員での内定獲得 … 続きを読む

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

「光る君へ」第四十三回「輝きののちに」若い世代と向き合うまひろと道長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月10日に放送された第四十三回「輝きののちに」では、三条天皇(木村達成)の譲位問題を軸に、さまざまな人間模様が繰り広げられた。  病を患い、視力と聴力が衰えた三条天皇に、「お目も見えず、お耳 … 続きを読む

Willfriends

page top