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ストックホルムオリンピックでの敗北を糧に、金栗四三(中村勘九郎)はマラソンの強化に向けて動き始める。一方、四三と同じ時代を生きる人物として狂言回し的に登場するのが、後の“落語の神様”古今亭志ん生こと美濃部孝蔵だ。酒に酔って初高座に上がり、大失敗した揚げ句、修行に出た旅先で無銭飲食をして警察に捕まるなど、その波瀾(はらん)万丈な生きざまも物語の見どころとなっている。そんな孝蔵を躍動感たっぷりに演じる森山未來が、熱演の裏に込められた思いを語ってくれた。
正直、緊張しました。松尾さんは素晴らしい作家であり、演出家であり、役者です。一見、高圧的な雰囲気はないものの、近寄りがたさを感じる部分もある。その一方で、愛情ある一面も持っている。円喬と孝蔵の関係性にとっては、それが非常によかったな…と。だから、円喬の死を知るシーンでは、自然に松尾さんのことが思い浮かび、心の中に温かいものがスッと入ってきました。
志ん生は、ラジオやレコードの音源、テレビの映像などもある程度残っています。ただ、それは全て60~70代ぐらいに差し掛かった戦後の姿。戦前の様子については、よく分かっていません。自分で語った話もあるにはあるのですが、はなし家なので話が盛られているんです(笑)。例えば、改名の回数はそのときによってまちまちだし、自分の生まれた年もまちまち。「円喬に弟子入りした」というのも、本人が言っているだけで、実は違うのではないか、という話もあるぐらいで…(笑)。そんな状況なので、本人の話と戦前の姿を知る人の言葉から推測するしかない。だから、半分は架空の人物、半分は史実にある人物を演じているような感覚です。
金栗四三と田畑政治(阿部サダヲ)という2人の主人公がいて、同時代の生き証人として狂言回し的なポジションを与えられているのが孝蔵。全体を俯瞰して見るナレーションの役割もありますが、軸となる物語を背負っているわけではありません。そういう意味では、孝蔵を巡るエピソードの面白さに乗っかっていけばいいのかな…と思いながら演じています。
ただ、面白いと言っても、それは志ん生の口を通して語られるから面白く聞こえるだけで、実際はものすごく凄惨(せいさん)なひどい人生だったのではないかと思うんです。とはいえ、この物語の中で、孝蔵の存在は一つのアクセントになっています。そういう意味では、孝蔵のパートをリアルにやってしまうと、その役割が果たせません。だから、「志ん生が落語を語っているかのように、ポップにしたほうがいい」ということは、最初に監督たちとも話し合いました。
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