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クランクイン前、視覚障害支援センターに伺い、視覚に障害をお持ちの方に「目が見えない分、他の感覚が研ぎ澄まされていく」というお話を伺ったんです。衣擦れの音や声のトーンだけで、人の気持ちが理解できるようになるんだそうです。鳥山検校も、そんなふうに全てが見えていたはずです。彼の人生は、苦痛でしかなかったのではないでしょうか。そこに初めて差した一筋の光が、瀬川だった。吉原で初めて会ったとき、「花魁は初回、口を利かない」というルールを破り、瀬川は本を読んでくれました。そのとき、鳥山検校は共に共犯者になれたような気持ちだったに違いありません。そんなふうに寄り添う覚悟を持ってくれた瀬川に引かれたのでないかと。
妻となった瀬以の心を自分に振り向かせることができない状況が苦しかった。そういう意味では、蔦重が現れたことで鳥山検校の中に湧き上がったのは、「嫉妬」ではなく、自分へのいら立ちや憎悪だったと思っています。正直、そこまで蔦重の存在は意識していませんでした。
瀬以との距離感については、非常に悩みました。鳥山検校は、疑いを抱きつつ、それでも瀬以と寄り添っていきたいという矛盾を内に抱えていました。そのぎこちない距離感を、どう表現すればいいのか。結果的には、そんなふうに悩み続けるさまが鳥山検校と重なり、それを視聴者の皆さまに感じていただけることが一番の答えなのではないかと思いながら演じていました。
コンタクトレンズを装着すると、視界が20%くらいに制限され、ほぼ見えない状態だったので、本番のみ装着するようにしました。早めに先に現場に入り、“稽古前稽古”といった形で、どう動けばいいのか、念入りに確かめるようにしました。芝居も、目をつぶるか、開けたままやるか迷った末、目をつぶってしまうと生々しさがなくなるので、開けたままにしました。その上、盲目でありながら、すべてを見透かしていると思わせるように振る舞わなければいけないので、その加減がとても難しかったです。ただ、そこを考え続けることが役作りだと考え、その迷いが出れば…と思っていました。
ちょっとした声や動きだけで、現場の空気を引き寄せる力があり、唯一無二の魅力を持つ方で、とても尊敬しています。撮影は、重いシーンが多かったのですが、常に風花ちゃんが花の咲いたような笑顔でいてくださったおかげで、私もすごく救われました。だから最後に、「あなたのお芝居のファンです」とお伝えしました。ご一緒できて幸せでした。
一生忘れられない役になりました。どれほど寄り添おうとしても、寄り添えない役があるんだな、と気付かされたという点で。いくら私が鳥山検校に寄り添おうとしても、境遇がまったく違うので、100%理解することはできません。でも、寄り添おうとする最初の1%の気持ちを持つことが、役者の仕事にとっては大事なんだなと。自分の中ではそれが一つの答えになりました。
(取材・文/井上健一)

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