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寅子のモデルになった三淵嘉子さんは、原爆裁判に最も長く関わった裁判官です。8年の長期に及ぶ裁判で、判決文や裁判記録などの資料が残されており、どんな手続きが、いつ行われたのか、弁護士の方が残した記録がネット上で公開されています。それを基に、裁判の経緯を把握した上で、ドラマに落とし込みました。ただし、裁判官の合議の内容については、「合議の秘密」があるため、三淵さんを含め、詳細な発言の記録は残されていません。そのため、ドラマでも判決自体は変わりませんが、寅子たちがどんな議論を経てその判決に至ったのかは、事実に寄り添いながら、寅子ならこう考えるのでは、というフィクションとして描いています。
寅子も戦争で夫の優三(仲野太賀)と兄の直道(上川周作)を亡くしているので、当然大きな悲しみを抱えているはずです。ただこの作品では、戦争は終戦を迎えたからといってスパッと終わるのではなく、その後も続いているものとして捉えています。そういう意味では、戦争の時代を分厚く描くよりも、戦争を引きずったまま戦後を生きる人々を描くことを選択したと言えます。航一が総力戦研究所でのつらい経験を背負い続け、原爆の被害に苦しみ続けた被爆者の方たちの裁判を描いている点にも、それは表れています。
この作品の幹となる「女性の生きづらさ」というテーマは変わりません。そこから話が広がり、戦争によって苦しみ、傷ついた人々の姿まで描くようになったということだと思います。戦争で傷ついたのは女性だけではなく、そこには男性もいれば、玉(羽瀬川なぎ)のように車椅子生活を送ることになった人もいるわけですから。
この作品に限らず「戦争」は、戦前から戦中の時期を挟む朝ドラで繰り返し描いてきた大切なテーマです。その中で、2024年の作品である「虎に翼」が「戦争」を描くとしたら…と考えた結果、必然的にこういう形になったのだと思います。
力のあるせりふを書かれる作家さんだと常々思っています。ご自身の主張とエンターテインメント性を両立させることが吉田さんの脚本の大きな魅力ですが、その中で、常に見ている人の心に響くようなせりふが出てくるんです。それによってドラマの中の出来事を、見ている人が自分自身に引き寄せて考えるようになる。そこが、吉田さんのすごいところではないでしょうか。
伊藤さんの「変わらなさ」がすごいと実感しているところです。朝ドラの主役ということで、ご自身の苦労も多いはずなのに、現場に行くといつも伊藤さんの笑い声が聞こえてきて。そういうポジティブな姿勢は、撮影終盤を迎えた今も最初の頃とまったく変わりません。そんなふうに、変わらないままここまできているのは、本当にすごいことだと思っています。
原爆裁判を経て、寅子は再び家庭裁判所の仕事に戻り、新しい時代の少年犯罪に向き合っていくことになります。ただし、年齢を重ねても、寅子の本質はこれまでと変わりません。そんな寅子を吉田さんがどのように描き、伊藤沙莉さんがどう演じるのか、ぜひご期待ください。
(取材・文/井上健一)

(C)NHK
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