真木よう子「今泉さんとなら絶対にできるなと思った」今泉力哉監督「漫画としても素晴らしいけれど、生身の人間が演じることで伝わることはある」『アンダーカレント』【インタビュー】

2023年9月28日 / 07:00

 かなえ(真木よう子)は家業の銭湯を継ぎ、夫の悟(永山瑛太)と共に幸せな日々を送っていた。ところがある日、悟が突然失踪してしまう。かなえは途方に暮れながらも、一時休業していた銭湯の営業をどうにか再開させる。数日後、銭湯組合の紹介で、堀(井浦新)と名乗る謎の男が現れ、住み込みで働くことに。かなえは友人に紹介されたうさんくさい探偵の山崎(リリー・フランキー)と共に悟の行方を捜しながら、堀との奇妙な共同生活を送るようになる。豊田徹也の長編コミックを、今泉力哉監督が実写映画化した『アンダーカレント』が、10月6日から全国公開される。主人公のかなえを演じた真木と今泉監督に話を聞いた。

今泉力哉監督(左)と真木よう子 (C)エンタメOVO

-真木さんは5年ぶりの主演映画ということですが、最初に脚本を読んだ時にどう思いましたか。

 原作は、20代の前半に読んでいて、この作品を依頼された時にまさか自分に主役がくるとは思っていなかったし、すごく大好きな漫画の一つだったので、私以外にやらせたくないなと思いました。脚本を読んでも大きなズレというのはさほどなかったので、チャレンジしてみたいと思う作品でした。

-ご自身が原作に対して持っていたイメージももちろんあったと思いますが、実際に演じてみていかがでしたか。

 かなえに寄り添って、一番の理解者でなければならないし、彼女が抱えている過去もすごく重いもので、決してそれを忘れているわけではないという、複雑な役だったので、小手先で演じられるような役ではなかったし、とても難しくて、苦しかったというのはありました。ただ、やっぱりこういう役の方が好きなんです。すごく考えて、役のところまで感情を落とし込んでいって、時々ちょっと溺れがちになりながらも…というぐらい、やりがいのある役が好きなんです。今回も、出来上がったものを見てどうこうというふうには、まだ自分では客観的に見られないので、今は自分の精いっぱいを尽くしたとしか言えません。

-今泉監督は、もちろん事前に原作は読んだと思いますが、今回、これを映画にしようと思ったきっかけは?

 プロデューサーから話をもらってというのが最初です。それで原作を読んで、本当に面白かったのですが、もともと映画のような漫画だと言われていたので、映画にすることを迷うほどでした。ただ、真木さんの「他の人にやらせたくない」じゃないですけど、やるならやっぱり自分がやってみたいというのがありました。それで、どういうふうにやるかをすごく考えました。もちろん漫画としても素晴らしいけれど、生身の人間が演じることではじめて伝わるものがあると思って。

 でも、さっきの真木さんと一緒で、できたものに対しての距離感は、まだ自分でも分からないんです。もうちょっと軽かったり、コメディー的な映画の時は、試写で笑いが起きたりとか、感じられるものがあったりするんですけど、この作品は、まだ距離感が分からない。しかも、試写などで、いろんな方からお褒めのコメントを頂いたりして、評判が良ければ良いほど分からなくて。これは賛否があるべき作品だから、早く公開して多くの人の目に触れて、いろんな意見を聞きたいというのが、正直なところです。

-監督は原作が小説のものも撮っているし、今回のように漫画のものも撮っています。漫画にはすでにビジュアルとしてのイメージがありますよね。それを新たに映画にする時に、難しさを感じることはありますか。

 漫画にもよりますが。トレースしてめちゃくちゃ絵に似せるべき作品もあるし、見た目ではなくもうちょっとその世界や空気を忠実に描くべき作品もあると思います。今回は、作品のトーンとしてはビジュアルを原作に寄せていくようなものではないと思いました。ただ、原作と雰囲気が合う人はもちろん選んでいて、特にリリー・フランキーさんは、もともと原作者がリリーさんをモデルにして描いていたようなところもあったので、リリーさんをキャスティングできたらいいですねという話はしました。ただ、原作が出てからもう18年たっているので、原作に比べるとリリーさんの年齢がだいぶ上なんですけど、原作者の中にあった明確な人物像はリリーさんだったので、とてもハマっていましたね。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

板垣李光人「最初から、戦争を考えて見るのではなく、実際に見て感じたことを広めていっていただければ、それが一番うれしいです」『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』【インタビュー】

映画2025年12月5日

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(8)百年ぶりの復活へ 四代目が掲げた三つの大願

舞台・ミュージカル2025年12月4日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。    2016年に四代目・玉田玉秀 … 続きを読む

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

富田望生「とにかく第一に愛を忘れないこと」 村上春樹の人気小説が世界初の舞台化【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月30日

 今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む

Willfriends

page top