「人が人を好きになることの尊さ、その思いの素晴らしさを感じてもらえる映画」『水は海に向かって流れる』前田哲監督【インタビュー】

2023年6月7日 / 08:00

 田島列島の同名漫画を映画化した『水は海に向かって流れる』が6月9日から全国公開される。26歳のOL榊さん(広瀬すず)と高校1年生の直達(大西利空)を中心に、くせ者ぞろいのシェアハウスのにぎやかな日常を描いた本作の前田哲監督に、映画に込めた思いなどを聞いた。

前田哲監督 (C)エンタメOVO

-この映画で、広瀬ずずさんが大人の女優としての新たな一歩を踏み出したような気がしましたが、演出していてどのように感じましたか。

 彼女にとって、年下の人を相手にするというのは、今まであまりなかったでしょうから、今回は新鮮だったと思うし、それでトライしようと思ってくださったんでしょう。榊という役を演じてもらうに当たって、今までとは違う広瀬すずを撮ろうという意気込みがあったわけではなくて、榊という役にどのようにして入っていってもらったらいいのかなという思いでやっていました。その結果、彼女のエモーショナルな美しさが撮れました。そこがしっかり押さえられたので、よかったと思います。彼女は、テイクワンでエモーショナルなものがあふれてくるので、それを撮り逃さないようにしようと思っていました。それを映画の中に取り込めたからこそ映画が輝いた。それは彼女が輝いているからだと僕は思っています。

-「広瀬さんは、テイクワンがすごいんです」という監督のコメントもありました。

 例えば、(大西)利空が泣きながら、榊さんへ感情をぶつけるシーンのリアクションは、たまっていたものが思わずあふれ出してくるところなので、カメラは止められません。最初はカット割りをする予定でしたが、その必要もないと思って、ずっと彼女の横顔を撮っていましたが、僕もスタッフもみんな見入ってしまいました。それだけの吸引力があったということですね。 

-相手役の大西利空さんの真っすぐな若者像も魅力的でした。今回はオーディションで選んだそうですが、役のイメージにぴったりだったということでしょうか。

 彼は(子役出身の)超ベテランなんですが、すれた感じや場慣れした感じがなくて、いつも初々しいというか、素朴な感じなんです。それと少し天然なところもあります。そこが直達にはぴったりでした。それから、人に対して壁を作らない。そばにいても心地いいという雰囲気を持っている人でした。

-実際に演出してみてイメージ通りでしたか。

 もちろんイメージは作っていきますが、すずさんに対してもそうですけど、いかにそこから逸脱していくかというのが僕の演出の考えです。自分の考え通りに物事が動くと映画が小さくなっていくので、広がりを持つようなことを、どう出していくのかということです。ただ、そこには俳優同士のコラボレーションもあるし、お芝居はリアクションが大事だと思うので、そこでの相性やぶつかり合いで生まれたものがリアルなものだと思います。2人は生の感覚を大切にできて、それが演技にも出せるので、非常に相性がよかったと思います。無理をしている感じがないのでリアルだし、すごくすてきでした。

-本作のほかにも、最近の監督の活躍は目覚ましいのですが、そのどれもが、さまざまな形で家族や共同体の問題を描いた群像劇だと思います。統一感というか、意識していることはありますか。

 僕の信条としての一つは「未来に向けて映画を作る」ということです。もう一つは「少しでも社会がよくなってほしい」という思いがいつもあります。映画によっていろいろな考え方があります。例えば、『ロストケア』(23)なら警鐘を鳴らす、国や行政に物申すですが、今回は、若者の背中に手を添えて、「大丈夫だよ」と優しいエールを送るような映画です。ある意味、親の勝手な都合でひどい目に遭った彼らはヤングケアラーのようだと思います。子どもは無力だけれども、それに負けずに生きてほしい、自分の人生を生きてほしいという思いがあります。基本は「一人一人が幸せに暮らせるように」というのが、僕の中に通底してあると思います。

  家族だからとか、男だから女だから、大人だから子どもだからという考え方ではなく、もっと一人一人が自由に生きていいんじゃないかというのが根底にあります。『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)でいうと、障がい者だから我慢が必要だなんて、誰が決めたんですか。食べたいからバナナを買いに行ってもらう。『大名倒産』(23)はリーダー論と幸福論をやりたかったんです。「リーダーはどうあるべきか」「人が幸せに生きるとはどういうことか」という。

 究極的には「人はどう生きればいいのか。何のために生きているのか」ということになりますが、人生は不条理でとても残酷なんです。だからこそ、しんどいよね、つらいよね、頑張っているよねというよりは、からっと明るく、下を向きそうなときこそ前を向きましょうよ。ちょっとだけ目線を上げてみませんかという映画を作りたいと思っています。「人はみんな自分を励まして生きている」という気持ちです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

夏帆「AIによって、誰でも一線を踏み越える可能性はある」AIを題材にしたドラマに主演「ある小説家の日記」【インタビュー】

ドラマ2026年3月6日

 現在、社会的に大きな注目を集める「AI」。そのAIを題材にしたサスペンステイストのヒューマンドラマ「ある小説家の日記」が、3月8日夜11時からNHK総合で放送される。  人気ミステリー作家・芹澤環(板尾創路)の事故死から1年。新作で編集を … 続きを読む

田村芽実、入野自由「この映画のどこかに自分自身を投影できるキャラクターが必ずいると思います」『ウィキッド 永遠の約束』【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年3月6日

 童話『オズの魔法使い』に登場する魔女たちの物語を描いた大ヒットブロードウェーミュージカル「ウィキッド」を実写映画化した2部作の続編となる『ウィキッド 永遠の約束』が3月6日(金)から全国公開された。本作の日本語版で、前作に引き続いて、ネッ … 続きを読む

「身代金は誘拐です」“鶴原”川西賢志郎を殺害した犯人が判明 「お前が犯人だったのか」「蒼空くんのパパは誰」

ドラマ2026年3月6日

 勝地涼と瀧本美織がW主演するドラマ「身代金は誘拐です」(読売テレビ・日本テレビ系)の第9話が、5日に放送された。(※以下、ネタバレを含みます)  本作は、娘を誘拐された夫婦が「娘の命を救うために、他人の子どもを誘拐できるか?」という極限の … 続きを読む

椎名桔平「いろんな人たちを取り込みたい」青柳翔「一体感が伝わる作品」小沢仁志「スクリーンの俺たちと一緒に踊ってほしい」『スペシャルズ』【インタビュー】

映画2026年3月5日

 『ミッドナイトスワン』(20)の内田英治監督によるオリジナル作品で、佐久間大介(Snow Man)を主演に迎え、殺し屋たちが暗殺計画のためにダンス大会出場を目指す姿を描く『スペシャルズ』が3月6日から全国公開される。本作で、佐久間演じるダ … 続きを読む

長野凌大、星野奈緒、パク・ユチョン「この映画を見て、自分が置かれている状況から一歩踏み出したいと思っていただけたらうれしいです」『361 – White and Black -』【インタビュー】

ドラマ2026年3月5日

 あるトラウマを抱えるオンライン囲碁のチャンピオン・上条眞人と幼なじみの棋士たちとの隠された秘密を描いた、大山晃一郎監督の『361 – White and Black -』が、3月6日から全国公開される。本作で主人公の眞人を演じ … 続きを読む

Willfriends

page top