城定秀夫監督「山田裕貴さんは主人公の慎一にぴったりでした」 注目の映画監督が人気若手俳優とのタッグで佐藤泰志作品に挑戦『夜、鳥たちが啼く』【インタビュー】

2022年12月9日 / 17:00

 『そこのみにて光輝く』(13)、『きみの鳥はうたえる』(18)で知られる佐藤泰志の小説を映画化した『夜、鳥たちが啼く』が、12月9日から全国公開された。内に秘めた破壊衝動に葛藤する売れない小説家・慎一と、離婚を機に幼い息子アキラを連れて慎一の下へ身を寄せたシングルマザーの裕子。人間関係で傷ついた過去を持つ2人の交流を描いた物語だ。人気若手俳優の山田裕貴が主演する本作の監督は『アルプススタンドのはしの方』(20)、『女子高生に殺されたい』(22)などで注目を集める城定秀夫。作品に込めた思いや山田との初タッグの印象などを聞いた。

城定秀夫監督 (C)エンタメOVO

-佐藤泰志さんの小説は近年続々と映画化されて人気を集めていますが、その中からこの原作を選んだ理由を教えてください。

 佐藤泰志さんの小説は幾つも映画化されていて、どれも傑作ぞろいですが、今回は「生きる厳しさ」みたいなことを描いた今までの作品とは、ちょっと違うテイストのものをやりたかったんです。そういった中で、疑似家族をテーマに、子どもも出てきて、前向きに終われる温かな作品にしたいと思って、短編集『大きなハードルと小さなハードル』に収録されている『夜、鳥たちが啼く』と『美しい夏』をミックスして一つの物語にしました。

-佐藤泰志さんの作品を映画化したいという思いはもともとあったのでしょうか。

 そうですね。最初のきっかけは、『海炭市叙景』(10)を見たことです。あの映画に非常に感銘を受け、それから佐藤さんの小説を読むようになり、自分でもいつか佐藤さんの小説を映画化したいと思っていました。だから、お話を頂いたときは、すごくうれしかったです。

-小説が書けずに葛藤する主人公・慎一を演じる山田裕貴さんの今までにない表情がとても魅力的でした。山田さんを起用した理由を教えてください。

 山田さんの起用はプロデューサーからの提案です。僕は最初、山田さんに、「鋭さ」みたいなイメージを持っていたので、この役に合うのか、やや不安な部分もありました。でも、実際にお会いしてみると、温かさもありつつ、物静かで鋭く見える部分もある。それが、暴力性や葛藤を内に抱えながらも、子どもに優しい一面もある慎一にぴったりだなと。

-実際に山田さんと現場でご一緒した印象はいかがでしたか。

 山田さんも「この主人公の気持ちがよく分かる」と言って、すごく乗って演じてくれました。だから、なるべく山田さんが作ってきた慎一の人物像を生かす形でやっていきました。現場でも、カメラが回ってないところで(裕子役の)松本まりかさんや(アキラ役の)森優理斗くんと雰囲気づくりをしてくれて、撮影が進むにつれ、だんだん本当の家族のようになっていく感じがありました。

-山田さんに関して、特に印象に残ったことはありますか。

 山田さんはたぶん、一つ一つの物事をものすごく深く考えるタイプなんですよね。哲学や倫理など、思考実験みたいなものが好きなようで。森優理斗くんから、例えば「人はなんで生きているの?」みたいな子どもらしい質問をされたときも、ものすごく真面目に答えているのが、すごく印象的でした。そういう意味では、人間の在り方や生き方みたいなものに意識が行っているんじゃないかと思います。

-『アルプススタンドのはしの方』や『女子高生に殺されたい』などを見ると、城定監督の作品は「人と人との距離感」が一つのテーマになっているように感じました。その点は、互いの距離の取り方に戸惑っている本作の慎一と裕子にも通じる気がしますが、いかがでしょうか。

 それはあるかもしれません。あまり分かりやすいメタファーになると、底が割れる気がするので、それほど意識しているわけではありませんが。ただ、「関係性の変化」みたいなものは、そういうところに当てはまりますよね。ドラマの基本は関係性の変化ですし。

-そういうことは、常に意識していると?

 ものにもよりますが、自然とそうなっていくのかもしれません。あまりテーマを先行させないので、出来上がった後に、ふと「こういうテーマだったな」と気付くことの方が多いんです。そもそも、スケジュールの問題などもあり、先に決めてしまうとなかなか思い通りに行かないことが多くて。それと、俳優部や撮影部など、各パートのプロが作り上げた成果を作品として一つにまとめるとき、前もって完成図を用意しておかない方が面白いんですよね。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作『宝島』/純文学風ミステリーの趣『遠い山なみの光』

映画2025年9月18日

『宝島』(9月19日公開)  1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。  村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

Willfriends

page top