【インタビュー】映画『ホテルローヤル』波瑠 ラブホテルを舞台にした群像劇「見てくださった方の背中を押せる作品になればいいなと思っています」

2020年11月12日 / 06:15

 第149回直木賞を受賞した、桜木紫乃の自伝的代表作を映画化した『ホテルローヤル』が11月13日から公開される。本作は、北海道・釧路湿原を背に建つラブホテルを舞台に、ホテルの一人娘とホテルを取り巻く人たちの人間模様を描いた作品。桜木自身を投影した、ホテル経営者の娘・雅代役を演じた波瑠に、役作りへの思いや、撮影中のエピソードを聞いた。

波瑠(ヘアメイク:犬木愛/スタイリスト:黒崎彩)

-原作を読んだ感想を聞かせてください。

 直木賞を受賞された当時に読ませていただきましたが、映画の中で内田(慈)さんと正名(僕蔵)さんが演じられていたパートが好きでした。

-内田さんと正名さんのシーンはどんなところが印象に残っていますか。

 非日常にやってきたご夫婦の日常が垣間見られるというのが、このシーンの魅力だと私は感じました。普段、例えば、奥さんが髪を振り乱して介護をしていたり、子どもの世話をしていたり、という想像をかき立てられて、ある種の切なさを感じました。

-波瑠さんが演じた雅代のキャラクターはどのように捉えていましたか。

 雅代は、いつもどこか傍観者で、起こる状況の中心にはいない人だと感じました。それを自分でも自覚していて、それをコンプレックスにも思っていて、いつも所在なさげで、かわいそうにも思えるけど、悲劇のヒロインには成り切れないような曖昧さがある。その中途半端にも見えるところが、彼女の人間味になればいいなと思って演じていました。

-雅代に共感できる部分はありましたか。

 作品全体を通してでもありますが、雅代にしろ、母親のるり子さんにしろ、「自分がいるべき場所はほかにあるんじゃないか」と、思いをはせてしまう感覚は、私だけでなく、誰にでもあるものなのではないかなと思います。もちろん、その環境にとどまり続けているのは、自分が動かないからで、自業自得ではあるんです。でも、「あれも嫌、これも嫌。何もしない自分が一番嫌だ」という思いは、私も理解できます。

-物語は、雅代が18歳のときからスタートしますが、思春期だからこそ、余計に「居場所を見付ける」というのが、彼女にとっての大きな悩みだったのかなとも感じましたが、いかがですか。

 思春期ってすごく多感な時期ですよね。自分の置かれている境遇に不幸を見つけようとするところもあると私は思うんです。親の気持ちも理解できないから、雅代は「勝手に産んだくせに」とか、「親がラブホテルを経営しているなんて」とか、「子どもは親を選べないのに」といった複雑な思いが絡まっていたんだと思います。

 ただ、この作品は、見る視点によっても全く違った物語になります。私自身も、同世代に親になる人も増えてきて、その中で一人の命をおなかの中で育てて産むということが、どれだけ大変かが分かるようになってきました。そうすると、この作品も親の目線でも見られるようになってきて、雅代の親たちの思いも理解できるのですが、雅代にはまだそれは分かっていなかったのだと思います。

-今回は、全編北海道で撮影をしたそうですが、土地の空気を感じたことで、役作りに生かされた点はありましたか。

 東京で生まれ育った私には、北海道の広い空を故郷に持つ人たちは憧れでもあります。けれど、美しい釧路湿原も、雅代にとっては閉塞感を感じるものにしか見えない。「そこにいて過ごした人」にしか理解できない感覚に苦しめられている女性というのを表現したいと思って演じました。

-ホテルローヤルの客室内のセットも際立っていました。

 ラブホテル感が伝わってくるものだったと思います。物語の中で、(安田顕演じる)大吉さんが、「非日常の中だからいいんだ」と言っていますが、まさしくその言葉を表したお部屋だと思いました。リアルだなと思わせる説得力がありました。

-ラブホテルの内装は独特ですよね。

 そうなんです。いつ来ても非日常を味わえるように、日当りがいい部屋なのに、窓を閉めると真っ暗になるという工夫もされていて、なるほどと思いました。

-雅代の父親・大吉役の安田さんの印象はいかがでしたか。

 映画のプロモーションで、安田さんとご一緒することも多かったのですが、現場でお会いしているときは、大吉さんとしてその場にいてくださっていたので、普段の安田さんを見ると、こんなにお若かったんだと驚きました(笑)。大吉さんは、安田さんよりも年上の設定だったので、老けメイクをされていましたし、安田さんは不自然に思わせないたたずまいをされる方だったので、信頼して撮影に臨めました。質の高い役作りをされる役者さんとご一緒できたんだなと、改めて思い返しています。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

宮藤官九郎「人間らしく生きる、それだけでいいんじゃないか」 渡辺大知「ドラマに出てくる人たち、みんなを好きになってもらえたら」 ドラマ「季節のない街」【インタビュー】

ドラマ2024年4月26日

 宮藤官九郎が企画・監督・脚本を手掛けたドラマ「季節のない街」が、毎週金曜深夜24時42分からテレ東系で放送中だ。本作は、山本周五郎の同名小説をベースに、舞台となる“街”を12年前に起きた災害を経て建てられた仮設住宅のある“街”へと置き換え … 続きを読む

【週末映画コラム】全く予測がつかない展開を見せる『悪は存在しない』/“反面教師映画”『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

映画2024年4月26日

『悪は存在しない』(4月26日公開)  自然豊かな高原に位置する長野県水挽町は、東京からもそう遠くないため移住者が増加し、緩やかに発展している。代々その地に暮らす巧(大美賀均)は、娘の花(西川玲)と共に自然のサイクルに合わせたつつましい生活 … 続きを読む

志田音々「仮面ライダーギーツ」から『THE 仮面ライダー展』埼玉スペシャルアンバサダーに「埼玉県出身者として誇りに思います」【インタビュー】

イベント2024年4月25日

 埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内「角川武蔵野ミュージアム」3Fの EJアニメミュージアムで、半世紀を超える「仮面ライダー」の魅力と歴史を紹介する展覧会『THE 仮面ライダー展』が開催中だ。その埼玉スペシャルアンバサダーを務めるの … 続きを読む

岩田剛典 花岡の謝罪は「すべてが集約された大事なシーン」初の朝ドラで主人公・寅子の同級生・花岡悟を熱演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

ドラマ2024年4月25日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。明律大学女子部を卒業した主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)は、同級生たちと共に法学部へ進学。男子学生と一緒に法律を学び始めた。そんな寅子の前に現れたのが、同級生の花岡悟だ。これから寅子と関わっていく … 続きを読む

瀬戸利樹、セラピスト役は「マッチョな体も見どころ」 役作りは「実際に施術を見学して、レクチャーを受けました」

ドラマ2024年4月24日

 現在放送中のドラマ「買われた男」で主演を務める瀬戸利樹が取材に応じ、本作の魅力や役作りについて語った。  本作は、三並央実氏と芹沢由紀子氏による漫画『買われた男~女性限定快感セラピスト~』が原作。セックスレスの主婦、芸能人、女社長、風俗嬢 … 続きを読む

Willfriends

page top