【インタビュー】映画『水上のフライト』中条あやみ「私の中でも、人生を変えてくれるような作品になりました」

2020年11月9日 / 06:26

 『超高速!参勤交代』シリーズの脚本家・土橋章宏が、実在のパラカヌー日本代表選手との交流に着想を得て、オリジナルストーリーとして脚本を執筆。『キセキ -あの日のソビト-』などの兼重淳監督がメガホンを取った『水上のフライト』が11月13日から公開される。主人公は、交通事故で二度と歩けない体になった元走り高跳び選手の藤堂遥。彼女がカヌーと出会い、周囲の人々に支えられながら、新たな夢を見つけていく姿を描いた本作で、遥を演じた中条あやみに話を聞いた。

中条あやみ(ヘアメイク:横山雷志郎/スタイリスト:上田リサ)

-最初にこの役のオファーを受けたときはどんな気持ちでしたか。

 もちろんカヌーもやったことはなかったですし、遥という役を自分が演じるには、まだ早いんじゃないか、今の自分にできるのかな、とすごく不安でした。それで、一度は「できないかもしれません」と…。でも、台本をしっかり読んでいくと、とても繊細なお話で、遥が障害を個性と考えて、みんなと一緒に前を向いていく、ポジティブに成長していくお話だと思い、自分も、遥を演じることで一緒に成長させてもらえたらと思って、ぜひやらせてくださいとお願いしました。

-走り高跳びとカヌーの訓練は、それぞれどのような形で行ったのですか。

 走り高跳びに関しては、だいたい3回ぐらいの練習でした。指導者の方から「踏み切りまでのポイントをつかんでしまえば大丈夫」と言っていただいたので、主に、走り込みの歩幅合わせと、飛び込む瞬間の姿勢を教えていただきました。カヌーの方は、2カ月ぐらいかけて本格的に練習をしました。最初は大学のプールで、カヌーから落ちる練習から始めたのですが、ベルトで体を固定されているので、水中でカヌーから脱出するのが大変でした。その後、競技用の細いカヌーに乗り始めたのですが、バランスを取るのが難しくて、乗った瞬間に落ちてしまいました。この時点で挫折しそうになりました。ただ、普段から、モデルのお仕事をするときには、体幹に気を付けてトレーニングをしていたので、割とすぐに乗れるようになりました。先生から「オリンピックにまだ間に合う。センスがある」と言われたので、自分には別の才能があるかなと思って(笑)、とてもうれしかったです。

-『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(17)でのチアダンスに続いて、今度は走り高跳びとカヌーの選手役。競技系の役は大変なのではないですか。

 本当に、女優のお仕事は大変だなと思います。自分でも、毎回すごく体を張っているなあと(笑)。『チア☆ダン~』のときも、(音楽バンドを描いた)『覆面系ノイズ』(17)のときも、「私は歌と踊りはできないから、やりたくないです」と言っていたのですが、両方来てしまって…。次はどんな試練が待っているのかな、と思っていたら、カヌーが来て、「今度はこれか!」と思いました。

-カヌーをしている場面は、代役なしで演じたのでしょうか。

 そうです。最初は、ボディダブルの方がいないと絶対にできないと思っていましたが、ちょっと調子に乗って、プロデューサーさんに「合成(撮影)代を浮かせます」と言ってしまったので、ちゃんと頑張らないと、と思って一生懸命練習しました。

-遥は、最初のうちは共感しづらいキャラクターとして描かれていましたね。

 最初の方の、他の人と関わらずに、自分一人で闘う遥の姿を、何回も撮り直しました。私自身は、割と人に気を使ってしまうタイプなので、強い口調でせりふを言うことが難しかったんです。すると、兼重監督から「(素の)あやみちゃんが出ているよ。最初は、親しみにくい遥をやらないといけないから、もっと強く、生意気な感じで演じてほしい」と言われました。それで、完成した映画を見ると、「やっぱりあのシーンを何度も撮り直したことはとても重要だったんだ、監督の言っていた通りだな」と思いました。

-そんな遥が、どんどんポジティブになっていきますね。

 クランクインしてすぐに、旧中川での撮影で、遥のモデルになった選手の方とお会いしたのですが、とても明るくて、天真らんまんな方だったので、その姿を見て、遥が、この方のように、すてきに、明るく成長していく過程を演じられたらいいなと思いました。

-遥に共感したり、自分と似ていると感じたところはありましたか。

 負けず嫌いなところは似ています。自分に対して「何でこういうことができないんだろう」と。遥も「何で私が歩けなくなったんだろう。こんなはずじゃない」と思ったはずだし、私も同じ立場ならきっとそう考えると思います。ただ、そうなったとしても、遥みたいに前を向けるかな、とも思いました。

-この映画のテーマは「一人じゃない」ということですね。

 私も、最初は「カヌーなんて絶対にできない」と思っていたし、「遥を演じることが私にできるのか」とも思いましたが、車いすやカヌーについて教えてくださった方や、遥について一緒に考えてくださった監督がいたからこそ頑張れたし、本当にこの映画をやってよかったと思えるので、周りの方から、チャレンジする機会を頂いていると感じています。演技をすることは孤独だと思うこともありますが、この映画を通して、実は一人じゃないんだなと考えさせられました。

 
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