【インタビュー】『バック・トゥ・ザ・フューチャー』宮川一朗太 アメリカ人から「何でマイケル・J・フォックスが日本語をしゃべっているんだ」と言われたことが心の支えに

2020年10月12日 / 06:06

 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の製作35周年を記念して、「バック・トゥ・ザ・フューチャー トリロジー 35th アニバーサリー・エディション 4K Ultra HD + ブルーレイ」が10月21日から発売される。今回は、マイケル・J・フォックス演じる主人公マーティ・マクフライの吹き替えを担当した宮川一朗太に、マイケルへの思いや、吹き替えの裏話を聞いた。

マイケル・J・フォックス演じる主人公マーティ・マクフライの吹き替えを担当した宮川一朗太

-宮川さんのマイケル・J・フォックスの吹き替えというと、ドラマ「ファミリータイズ」(日本では1986年から放送)のイメージが強いのですが、あれが最初の吹き替えでしたか。

 そうですね。あれは20代前半のときです。吹き替えの仕事は初めてでしたので、果たして僕の声が本当にマイケルに合うのだろうかと、とても不安に思いながら始めました。また、当時のマイケルは超人気者でしたから、彼のファンから不評を買うのではないかと心配しましたが、実際は好評を頂きまして、ホッとしたのと同時に、「これでいいんだ。受け入れてもらえたんだ」と感じて、肩の荷が降りたことをよく覚えています。それからは自信を持ってやれるようになりました。

-その後、数多くの作品でマイケルの声を吹き替えてきましたが、なぜか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の吹き替えだけは最近(2014年)までなかったのですね。

 僕も「当然いつかはできるだろう」と思っていたのですが、それが何年たっても声が掛からない…。なので、僕は「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だけはやっていない。マーティをやりたい。やらないと死ねない。死んでも死に切れない」と言い続けてきました(笑)。ただ、そうは言っても、「夢は夢のままで終わるのかな」という諦めの気持ちもありました。ところが、6年前にBSジャパンさんからお話を頂いて、そのときは「ついに来た」と、もう震えました。そしてBSジャパンの担当者の方が、「ファミリータイズ」からずっと僕のファンでいてくださっていて、いつか僕の声でマーティをやってほしいと思いながら、ずっと働いてきたと。そして、いよいよ責任のある立場になれたので実現させた、という話を聞いて、とても感激しました。ですから、本当にいろんな方々の尽力で実現した、僕にとっては感無量の作品になりました。

-今回のセットでは、三ツ矢雄二さん、山寺宏一さん、そして宮川さんと、3人のマーティの声を同時に聴いたり、同じせりふを聴き比べたりもできるわけですが…。

 三ツ矢さんと山寺さんに比べたら、僕はやっぱり下手なんです。もちろん声優としての力量はお二人の足元にも及びませんし、僕は声優にはタブーとされている、せりふの途中や語尾に息を混じらせたり、息を漏らす、ということをやっています。これは役者の発生法で声優さんはやりません。漏らさないでちゃんと有声音で止めます。でも、それが、マイケルのへたれさや情けなさ、いいかげんさにはすごく合うんです(笑)。僕のマーティは、「こういうへたれなやつ、いるよね」とか、「あいつに似ているね」というように、一番身近に感じてもらえるマーティだと思います。そういう目と耳で楽しんでいただければ、僕にとっては幸いです。

-宮川さんの声の裏返り方も面白いのですが、それも意識的にやっているのですか。

 もちろんそうです。これは「ファミリータイズ」のときに無意識にやっていたのですが、3話目か4話目のときに、「マイケルの声って裏返らせるととても効果的だな」と気が付いたんです。彼は身振り手振りが大きいので、これに合わせて声に強弱や高低を付け、それに加えて、声をひっくり返らせることで、彼の適当さや、いいかげんな感じが、とてもよく出ることに気付きました。それからはずっと、いかに効果的にそれを使うかが、僕にとっては重要なチェックポイントになっています。

-今の自分よりも随分若いマーティの吹き替えは大変だったのではありませんか。

 マイケルが主演した「スピン・シティ」(96~02)の吹き替えのときに、プロデューサーから「ちょっと子どもっぽい。もう少し青年ぽくやってくれないか」と言われました。それからは「マイケルも年を取ったので、それなりのイメージにしなければ」と思いながらやってきたのに、6年前に、この約30年前のマイケルの声を吹き替えるとなったときは、僕自身も「思い出さなきゃ」というところで悩んだ記憶はあります。それに、ずっと「やりたい」と言い続けていた作品がついに来たけど、今度は「失敗できない」というプレッシャーがのしかかってきました。「あそこまで言い続けたやつが、やってみたら大したことなかった」と言われたら最悪です(笑)。だからもう気合を入れて、この『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だけは、原盤と台本をもらって、家で自分の携帯に全部声を合わせて入れて、画面に合わせながら再生して聴いて、細かい部分をチェックして、もう一度録り直して、また聴いて…。つまり自分で一度収録したんです(笑)。1作につき、10時間ぐらい作業しました。3作だから全部で30時間ですか。それぐらい全身全霊を懸けて臨んだ作品です。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

富田望生「とにかく第一に愛を忘れないこと」 村上春樹の人気小説が世界初の舞台化【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月30日

 今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む

【映画コラム】実話を基に映画化した2作『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』『栄光のバックホーム』

映画2025年11月29日

『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』(12月5日公開)  太平洋戦争末期の昭和19年。21歳の日本兵・田丸均(声:板垣李光人)は、南国の美しい島・パラオのペリリュー島にいた。漫画家志望の田丸はその才能を買われ、亡くなった仲間の最期の雄姿を遺族 … 続きを読む

氷川きよし、復帰後初の座長公演に挑む「どの世代の方が見ても『そうだよね』と思っていただけるような舞台を作っていきたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月29日

 氷川きよしが座長を務める「氷川きよし特別公演」が2026年1月31日に明治座で開幕する。本作は、氷川のヒット曲「白雲の城」をモチーフにした芝居と、劇場ならではの特別構成でお届けするコンサートの豪華2本立てで贈る公演。2022年の座長公演で … 続きを読む

Willfriends

page top