【インタビュー】『本気のしるし ≪劇場版≫』深田晃司監督 カンヌ絶賛の最新作に込めた思い「原作漫画は、女性を描く自分の原点」

2020年10月12日 / 14:12

 会社員の辻一路(森崎ウィン)が、偶然出会った女性・葉山浮世(土村芳)。彼女には、無意識のうちにうそやごまかしを繰り返し、男性を翻弄(ほんろう)する一面があった。そのために次々と厄介事に巻き込まれる辻は、いら立ちながらも、次第に浮世に引かれていくが…。10月9日から全国順次公開された『本気のしるし ≪劇場版≫』は、星里もちるの同名漫画を原作に、一組の男女がたどる運命を、緊迫感あふれる心理描写でつづったサスペンスだ。テレビドラマを再編集した作品でありながら、今年のカンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション2020に選出され、「(深田監督の)最高傑作」と絶賛された。熱望していた原作の映像化を実現させた深田晃司監督に、本作に対する思いを聞いた。

深田晃司監督

-深田監督は長年、『本気のしるし』の映像化を熱望していたそうですが、それはいつ頃からですか。

 20年前、二十歳の時に読んでから、ずっと「映像化したい」と言い続けてきました。とにかく、連載漫画ならではの、物語が次々と転がっていくストーリーテリングが面白かった。だから「これを映像化したら絶対に面白くなるはず」と。映画学校に通っていた頃から、人と会って「いい漫画原作ない?」という話になるたびに、「『本気のしるし』がいいですよ」と言っていました。

-その中でも、ヒロインの浮世に魅力を感じたとのことですが、その理由は?

 浮世は、ぽろっと男性の気を引くような発言をしてしまう女性です。ただ、それ自体は青年誌のヒロイン像によくあるキャラクターなんですよね。男性をメインの読者層に想定している青年誌に出てくるヒロインは、大なり小なり、男性の恋愛対象になり得るかどうか、というところで描かれがちです。でも、そういう男性目線で構築されたヒロインが、本当にリアルな世界にいたら、どれほどアンバランスな存在であるか。そういうことを描いているのが浮世だと思ったんです。しかもそれは、今までラブコメの世界観で浮世のような人物を明るく描いてきた星里先生にとっては自己批判的でさえあるように思えた。さらに、それが男性社会に対する批判にもつながってくる。そこがすごく面白かったし迫力を感じました。

-なるほど。

 だから、me too運動を経て、なお男性優位の強い日本で、そこにフォーカスを当て、映像化するのは面白いのではないかと。というよりも、今これを映像化するなら、そこにフォーカスせざるを得ないと思っていました。

-me too運動やジェンダーの問題は、映像化する上で強く意識していたということですか。

 意識していました。といっても、原作にそういう要素が多分にあるので、そこをきちんとすくい取っていこうということです。「浮世が男に押し切られ、不幸な目に遭うのは、彼女自身がだらしないからだ」と言う辻に対して、浮世の友人がはっきりと「NO」を突き付ける場面があります。このシーンはとても重要で、「女性が性的被害に遭うのは、女性側に非があるからだ」とする現実は、今も男性社会に根強く残っています。それに対して『本気のしるし』は、20年も前に「NO」を突き付けていた。そこはきちんとすくい取らなくてはいけない。さらに今回は、今の時代に合わせて、浮世が主体性を獲得して自立していく過程を、原作以上に強調して描くようにしました。

-原作が時代を先取りしていたということでしょうか。

 そうですね。あの時代にあの作品が出たのは、やっぱりちょっと異様でしたね。ジェンダー問題への社会的な認知はまだ不十分で、セクハラがようやく問題になり始めた頃ですから。そんな時代に星里先生があの作品を青年誌に連載していたのは、やっぱりすごい。今思えば、女性の描き方に対する異様な迫力は、当時にして先進的なジェンダー観に支えられていたんだな…と。

-深田監督は、昨年公開の『よこがお』(19)を始め『さようなら』(15)、『ほとりの朔子』(13)など、女性にスポットを当てる作品が多く、『淵に立つ』(16)でも女性が重要な役割を担います。そこには『本気のしるし』の影響もあるのでしょうか。

 そうかもしれません。それまで星里先生の作品では、女性キャラはメインの男性キャラの相手役という立ち位置が多かったですが、『本気のしるし』ではヒロインの浮世は、ほぼ相手役の辻と対等で、浮世のキャラクターがじっくり掘り下げられていく。そこがすごく面白かったですし。

-そうすると、ある意味この原作は、深田監督が女性を描く上での原点と言えるのでしょうか。

 そうですね。「男性社会の中で女性がどう生きるか」については、自分が男性だからこそ、関心を持たざるを得ません。自分がとても好きな小説家に富岡多恵子さんがいるのですが、その作品では男性社会の中で傷つきながら生きていく女性の姿が繰り返し描かれていて、影響を受けた作家によく名前を挙げるのですが、でも、考えてみたら、読んだのは『本気のしるし』の方が先なので、こちらが原点だったかもしれないな…と。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

吉高由里子「忘れかけていたことをいきなり思い出させてくれる」 念願の蓬莱竜太と初タッグ パルコ・プロデュース2025「シャイニングな女たち」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月28日

 吉高由里子が2022年の「クランク・イン!」以来、3年ぶりに舞台主演を果たす。吉高が挑むのは、日常に潜む人間の葛藤や矛盾を丁寧にすくい取り、鋭い視点の中にユーモアを織り交ぜる作風で共感を呼んできた蓬莱竜太が描く新作舞台、パルコ・プロデュー … 続きを読む

【映画コラム】新旧監督の話題作が並んで公開に『TOKYOタクシー』『金髪』

映画2025年11月22日

『TOKYOタクシー』(11月21日公開)  タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)を東京の柴又から神奈川県の葉山にある高齢者施設まで乗せることになった。  すみれの「東京の見納めに、いくつか寄ってみたい … 続きを読む

中川晃教「憧れることが原動力」 ミュージカル「サムシング・ロッテン!」で7年ぶりにニック役に挑戦【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月22日

 数々のミュージカル作品へのオマージュが登場するコメディーミュージカル「サムシング・ロッテン!」が12月19日から上演される。2015年にブロードウェイで初演された本作は、「コーラスライン」、「アニー」、「レ・ミゼラブル」などの人気ミュージ … 続きを読む

岩田剛典、白鳥玉季「全編を通してくすっと笑えるコメディー映画になっていますので、気楽な気持ちで映画館に来ていただきたいです」『金髪』【インタビュー】

映画2025年11月21日

 日本独特のおかしな校則、ブラックな職場環境、暴走するSNSやネット報道といった社会問題を背景に、大人になりきれない中学校教諭が、生徒たちの金髪デモに振り回されながら成長していく姿を、坂下雄一郎監督がシニカルな視点で描いた『金髪』が全国公開 … 続きを読む

加藤清史郎&渡邉蒼「僕たちも今、夜神月に巻き込まれている」 子役出身の二人が挑む「デスノート THE MUSICAL」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月21日

 映画やドラマ、アニメなど幅広いメディア展開を遂げてきた人気漫画「DEATH NOTE」のミュージカル版「デスノート THE MUSICAL」が11月24日から上演される。2015年に日本で世界初演された本作は、原作のスリリングな物語を世界 … 続きを読む

Willfriends

page top