【インタビュー】「月の獣」岸井ゆきの「眞島さんと一緒に年を取っていけたら」

2019年8月30日 / 12:00

 2019年12月に上演される舞台「月の獣」。第一次世界大戦中に起きた「アルメニア人迫害」の実話に基づいて描かれた本作は、アルメニア人の青年アラムと少女セタがお互いの苦しい過去を受け入れ、真の夫婦、そして家族になっていく姿を描く。世界20カ国以上で上演され、日本での初演は15年。再演となる本作ではアラム役を眞島秀和、その妻セタ役を岸井ゆきのが演じ、演出は初演から引き続き、日本を代表する演出家である栗山民也が担当する。今回は、ビジュアル撮影で、時代、国、民族、社会などに翻弄されながらも、懸命に生きるセタの深くはかないまなざしを表現した岸井に、撮影や出演に対しての心境などを語ってもらった。

セタ役の岸井ゆきの

-ビジュアル撮影を終えての感想を教えてください。

 いろいろ不安なこともあったのですが、眞島さんは、栗山さんが演出されていた舞台「チャイメリカ」に出演されていたので、舞台でのいろいろなお話を聞けて、すごく心強かったです。あと、以前TVドラマ「十九歳」でもご一緒させていただいていたので、何だか懐かしい気持ちになりました。もう完全に頼りにしています(笑)。

-ビジュアル撮影で眞島さんとの撮影中はどんな話をしていたのですか。

 眞島さんが、本作の初演に出演された占部房子さん、金子由之さんから「この作品のような重いテーマを扱うお芝居はダークな気持ちになっちゃうときがあるから、精神的につらいかも」みたいなお話を伺ったと。実は私も占部さんと別現場で一緒だったので、そのときの話をしたり。今までどこか現実味のない感じだったんですけど、今日眞島さんとお話して、ビジュアル撮影をして…。いよいよだなと実感が湧いてきました。

-栗山さんの印象は?

 栗山さんが演出された作品を観劇したことはあるんですけど、まだお会いしたことがないんです。演出されている舞台を見た印象は、自然にシンプルに役者さんがそこにいるなということ。この役をやっている人はこの役者だという余計な情報を忘れられて、ナチュラルに役の存在を受け入れられる。役者が自由に動いているとも感じたんですけど、占部さんから、栗山さんは細かく演出をされる方だと伺ったんです。でも、やらされているとは感じさせずに、それがなじんでいるんですよね。それってすごいことだなって。

-夫婦と家族をテーマとした作品ですが、背景には「アルメニア人迫害」という、あまり日本人にはなじみのない出来事がありますね。

 「アルメニア人迫害」の6年後からの物語ですけど、その最中のことも私自身がきちんと理解していたいと考えています。夫婦の話というのは見ている方に伝わると思うんですけど、ベースに何があるのかというのが伝わりづらいのかもと感じたので、私が勉強しておかないと、と。150万人もの方が虐殺されていて、その中でアラムとセタが生き残ったということもすごいですし、だからこそ幸せになろうとする力も強いんだと思います。でも、最初はその幸せについての考え方が2人の間では違うんです。「何が幸せなのか?」ということで。でも、2人とも大人にはなりきっていないので、歩み寄るということをまだ知らない。それがどう変わっていくのかが描かれているし、だからこそ、この背景は常に胸に持っていないといけないと考えています。

-本作では15歳から40代までのセタを演じますが、岸井さんはTVドラマ「まんぷく」でも14歳から成長していくタカという女性を演じていました。その点を本作と重ね合わせるようなことはありますか。

 「15歳かぁ…」みたいな感じで、そこはあまり考えてなかったです(笑)。それこそ、眞島さんは19歳の役ですから、大丈夫だと思っています(笑)。眞島さんと一緒に年を取っていけたらいいですね。「まんぷく」のタカは14歳でお父さんが帰ってくるかどうか分からない経験をしていて、セタも15歳で両親が迫害されて虐殺されたという過去を持っている。そこは、私が14歳だったころとは背負っているものが全く違うので、そういう背景も表現できたらいいなと思っています。

 
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