X


「監督からいきなり『肋木に足を掛けて…』と言われ、焦りました(笑)」杉本哲太(永井道明)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

 日本初の駅伝の開催や後進の指導など、マラソンの普及に向けて精力的に活動する金栗四三(中村勘九郎)。その四三の恩師の一人が、東京高等師範学校で教授を務める永井道明だ。海外視察の経験を持ち、肋木(ろくぼく)を日本に導入するなど、体育の普及に尽力した功労者の一人でありながら、頑固で厳し過ぎる性格が災いし、周囲と衝突することもしばしば。そんな永井を、どこか憎めない人間味あふれる人物として演じているのが杉本哲太。撮影の舞台裏、演技に込めた思いなどを聞いた。

永井道明役の杉本哲太

-第18回で女子の体育教育を巡り、永井は愛弟子の二階堂トクヨ(寺島しのぶ)から「あなたはもう古い!」と一喝されてしまいましたね。

 トクヨさんは永井イズムを受け継いだ人ですから、「孤立していた戦いに、ようやく味方が…」と思っていたのですが…。悲しい展開が待っていました(苦笑)。ただ、演じている寺島しのぶさんとは、これまで何度も共演している仲。「龍馬伝」(10)でも兄妹役でしたし、今回も息はぴったりです。実は永井はトクヨさんにほれていたのでは…?とにおわせる場面もあるのですが、寺島さんのおかげで、厳しい永井の意外な一面がうまく出せたのではないでしょうか。

-劇中では女子スポーツにスポットが当たるようになってきましたが、永井は厳しい目を向けていますね。

 トクヨさんの授業の内容も生徒の服装も、自分の想像を超えていたので、永井が目をひんむいて怒っていましたね。しかも、可児(徳/古舘寬治)さんまで、とんでもないコスチュームでダンスを披露したので、さらに大変なことになり…(笑)。でも、そういうところが永井の見せ場なので、皆さんに楽しんでいただければうれしいです。

-そんな永井を演じる上で、心掛けていることは?

 いつも大声で怒鳴っている厳しい先生と見られていますが、実は着ている服は、生徒と同じ黒い学生服なんです。残っている本人の写真を見ても、満面の笑みで生徒たちと一緒に写っていたりする。そういうものを見ると、やはり生徒たちを愛していて、父親のような思いもあったんだろうなと。大声で怒鳴るのは、そういう気持ちの裏返しで、永井なりの不器用な愛情表現なんでしょうね。演じる上では、そういうことを意識しています。

-演じる上でモデルにしたような人はいますか。

 今の若い人が見たら、「こんな怖い先生、いないだろう」と思われるかもしれませんが、僕が中学生、高校生の頃は、体育の先生は基本的に厳しかったんです。大声で怒鳴られるのは当たり前でしたし…。そもそも、僕の父親がレスリング部のコーチをやっていて、体育会系の厳しい人でしたから。そういう意味では、モデルになる人は山ほどいます(笑)。

-永井は「ミスター・肋木」と呼ばれ、肋木を全国に普及させた人物ですが、実際に肋木をやってみた感想は?

 実は永井自身が肋木を実演する場面はそれほど多くないんです。とはいえ一応、ストレッチや柔軟体操をやって臨みました。一見、地味で簡単そうに見えますが、実際はかなり大変です。ぶら下がっているだけでも自分の体重が腕にかかってきて、ものすごく痛くなってくる。30秒もやったら限界です。ある日、食堂のシーンを撮影するとき、監督からいきなり「ここは肋木に足を掛けて、体幹を鍛えながら…」と言われたことがあり、かなり焦りました。僕としては「えーっ!」という感じです(笑)。事前に言ってくれれば、それなりに準備もできたんですけど、なんとかやり切りました(笑)。

-永井は嘉納治五郎、可児徳と一緒の場面が多いですが、演じる役所広司さん、古舘寬治さんと共演した感想は?

 面白いですね。校長室のシーンはまとめて撮ることが多いのですが、いろいろな人が出入りする中でも、僕と役所さんと古舘さんはいつも一緒。ずっと大声を張り上げているので大変ですが、3人のアンサンブルは大好きです。治五郎さんには懐の深さがありますし、中間管理職的な可児さんも魅力的。可児さんと2人で酔っ払ってクダを巻いて、安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)の悪口を言う場面(第8回)は、撮影の前日ベンチで休憩していたら、古館さんから「あの場面、哲太さんとアドリブでやれたら楽しいなー」と言われたりして、ちょっと緊張しましたが楽しかったです(笑)。

-金栗四三役の中村勘九郎さんの印象は?

 僕がミスター・肋木なら、勘九郎さんはミスター・ストイックマンです(笑)。体作りを含めた役作りに余念がない。話を聞いてみたら、撮影前にジムで筋トレをしてきたり、撮影が終わった後にジムに行ったりしているそうです。360度、どこから見ても四三さん。まるで乗り移っているようで、四三さんなのか、勘九郎さんなのか、分からないくらいです。

-永井を含め、どの登場人物も熱く個性的で、今の日本人とはだいぶ印象が異なりますが、演じていてどんなことを感じますか。

 最近は、自分の思いや主張はあっても、表に出したり話したりするのはかっこ悪いことと思われているのかな。でも、このドラマに出てくるのは、それとは正反対で熱い人ばかり。もしかしたら、「暑苦しい」と感じる人もいるかもしれません。でも、僕らの先生や先輩を含めて、そういうふうに自分の主張をはっきり持っている熱い人がたくさんいらっしゃった。もちろん、大声を出せばいいというわけではありませんが、そういう「熱さ」も日本人の良さの一つではないかと思うんです。このドラマの「熱さ」から、何かを感じてもらえたらいいですね。

(取材・文/井上健一)

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「ジョンは初恋の人、そしてかけがえのない友達」『ジョン・レノン 失われた週末』メイ・パン【インタビュー】

映画2024年5月9日

 ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻が別居していた「失われた週末」と呼ばれる、1973年秋からの18カ月の日々。その時ジョンは、彼とヨーコの元・個人秘書で、プロダクション・アシスタントを務めていた中国系アメリカ人のメイ・パンと恋人関係にあった … 続きを読む

北村匠海「長谷川博己さんのお芝居は、やっぱり迫力がすごい」 日曜劇場「アンチヒ-ロ-」【インタビュ-】

ドラマ2024年5月8日

 長谷川博己が主演を務める日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS系)が放送中だ。本作は殺人犯をも無罪にしてしまう“アンチ”な弁護士・明墨正樹(長谷川)の姿を描き、視聴者に“正義とは果たして何なのか? ”“世の中の悪とされていることは、本当に悪い … 続きを読む

玉置玲央「柄本佑くんのおかげで、幸せな気持ちで道兼の最期を迎えられました」強烈な印象を残した藤原道兼役【「光る君へ」インタビュー】

ドラマ2024年5月5日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月5日放送の第十八回で、主人公まひろ/紫式部(吉高由里子)にとっては母の仇に当たる藤原道長(柄本佑)の兄・藤原道兼が壮絶な最期を迎えた。衝撃の第一回から物語の原動力のひとつとなり、視聴者に強烈 … 続きを読む

「光る君へ」第十七回「うつろい」朝廷内の権力闘争の傍らで描かれるまひろの成長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年5月4日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。4月28日に放送された第十七回「うつろい」では、藤原道長(柄本佑)の兄である関白・藤原道隆(井浦新)の最期が描かれた。病で死期を悟った道隆が、嫡男・伊周(三浦翔平)の将来を案じて一条天皇(塩野瑛 … 続きを読む

妻夫木聡「家族のために生きているんだなと思う」 渡辺謙「日々の瞬間の積み重ねが人生になっていく」 北川悦吏子脚本ドラマ「生きとし生けるもの」【インタビュー】

ドラマ2024年5月3日

 妻夫木聡と渡辺謙が主演するテレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル「生きとし生けるもの」が5月6日に放送される。北川悦吏子氏が脚本を担当した本作は、人生に悩む医者と余命宣告された患者の2人が「人は何のために生き、何を残すのか」という … 続きを読む