【インタビュー】『アメリカン・アニマルズ』バート・レイトン監督「自分が彼らと一緒に犯罪を行っているような気分を実感できる映画。心拍数が上がる映画になっていると思います」

2019年5月14日 / 15:48

 狙うは大学の図書館に眠る時価12億円のビンテージ本。その本が手に入れば、俺たちの人生が変わる…。米ケンタッキー州で実際に起きた4人の大学生による強盗事件を映画化した『アメリカン・アニマルズ』が5月17日から公開される。事件を起こした本人たちが劇中に登場。劇映画とドキュメンタリーを融合させたユニークな手法が目を引く。ドキュメンタリー映画の製作を経て、本作が長編劇映画の監督デビュー作となったバート・レイトンに話を聞いた。

バート・レイトン監督

-早速ですが、描いた事件のことはいつ知りましたか。また、なぜこの題材を映画化しようと考えたのでしょうか。

 この事件を知ったのは、前作の『The Imposter=ペテン師』(12)を作っていた頃だったので、6、7年前になります。いかにも映画のようなプロットだと思ったのが最初の印象です。特に興味を引かれたのは、裕福な家庭に生まれ、チャンスにも恵まれ、とても犯罪をするようには見えない4人の若者たちが、なぜリスクを負ってまでこんなことをしたのかという疑問についてでした。それで、当時4人はまだ服役中でしたが、彼らに手紙を書いてその理由を聞きました。その後、彼らと文通を続けるうちに、事件の奥にもっと面白いストーリーがあると感じて、映画化しようと決めました。また、この事件は少し前の出来事ですが、人から認められなければならない、何か大きな功績を残さなければならないというプレッシャーの中で生きている若者たちの姿は、今の社会にも通じると思いました。

-本物の犯人たちが劇中に登場して証言をし、彼らに扮(ふん)した俳優たちの演技と重なることで、ドキュメンタリーと劇映画の融合というユニークなスタイルが生まれましたが、なぜこうした手法で撮ろうと考えたのでしょうか。

 生きる方向性を見失ってアイデンティティーを探り、ファンタジーを求めて犯罪にのめり込んでいく若者たちを描くので、ノンフィクションとファンタジーの部分に強弱をつけるにはどうすればいいのかと考えた末に、この方法にたどり着きました。ドキュメンタリーはフィクションよりも観客の感情移入が強く出ると思いますが、私にドキュメンタリーの経験がなければ思いつかなかったアイデアだったと思います。また、彼らが犯罪を計画するうちに、観客も彼らと同じように「成功するのではないか」という錯覚に陥り、ファンタジーの世界に入り込むようにしたかったので、カメラの動きや音楽の使い方に工夫を凝らしました。さらに、そこに本物の人物を出すことによって、改めて観客に「これは実話なんだ」と気付かせる効果も狙いました。

-俳優たちは、演じる本人が出てくるのでやりにくかったのではないですか。

 本人たちのまねをしなければならないという義務感にとらわれないためにも、俳優たちには彼らの存在を忘れるように頼み、なぜこんなことを起こしたのかということを自分たちなりに考え、直感に従って演技をするように指導しました。

-若者が共通して抱く不満のはけ口としての犯罪に対して、多分に同情的で、彼らに共感を持って描いていると感じましたが、その半面、あまりにも雑な計画と行動、ドジでぶざまな姿、彼らが失ったものの大きさを描くなど「犯罪は割に合わない」という教訓も入っているように思いました。

 確かに「犯罪は割に合わない」というメッセージも入っていますが、「何か特別なことをしたい」「人とは違うことをしたい」と考える人たちにとって、その考えを持ち続けながら、果たして一線を越える直前でとどまることができるのか、ということも描きたかったのです。彼らは若気の至りで判断を誤りファンタジーの世界にのめり込んでしまいましたが、根っからの悪人ではありません。彼らも後悔しています。ただ一線を越える前にやめるべきだったと思います。自分たちは10年も服役し、彼らの親たちもいまだに苦しんでいるのですから。私としては、そうした、犯罪とそれを起こした人物像とのギャップを皆さんに見せたかったということもありました。
 また、観客も、「やめるべきだ」と思いながら、「でも成功してほしい」という矛盾した思いを抱くと思います。それは自分ではできないことを彼らがしているからです。映画の中の彼らを通して、自分も冒険を体験しているような気分になる。でも、その後ファンタジーと現実が衝突したときに目が覚める。そんなところも描きたかったのです。

 
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