X


「ストックホルムロケで、とんでもないものが出来上がりました」中村勘九郎(金栗四三)西村武五郎(演出)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

 オリンピックの開催地ストックホルムに到着した金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)が、異国の地で苦しみながらも絆を深めていく姿が描かれた第10回。ここから第13回まで4週にわたり、現地ロケで撮影された“ストックホルム編”が放送される。ここでは、放送に先駆けて行われた第10回、第11回のマスコミ試写会の際、記者会見に出席した中村勘九郎、演出を担当した西村武五郎ディレクターの言葉を届ける。

三島弥彦役の生田斗真(左)と金栗四三役の中村勘九郎

-ストックホルムロケの感想は?

勘九郎 昨年の8月、3週間掛けてストックホルムに行ってきました。100年以上前のオリンピックで実際に使われたスタジアムで撮影しましたが、当時のまま残っている姿を初めて目にしたときは、「ここで撮れるんだ」といううれしさと、「すごいものにしなければ」というプレッシャーで、全身の毛穴が開くような感覚に襲われました。これほど長期の海外ロケは初めての経験でしたが、あれほど濃密な日々を送れたことは、僕にとって大きなプラスになり、今後の自信にもつながりました。

西村 ストックホルム編は、われわれが力を込めて作り上げてきた前半のクライマックスです。金栗さんと三島さんという若い2人が、現地の人とどう交流し、どう戦ったか。それをリアルに表現したいと考え、海外キャストの起用には、それぞれの国でオーディションを行ないました。北欧感を出すため、カメラを国内編より被写界深度の深いものに変え、撮影にもこだわっています。ストレートな青春編として、素直に感動していただけるものになったのではないかと思います。

-第10回では、落ち込む三島を四三が励ましたことをきっかけに、2人の距離がぐっと縮まりましたね。

勘九郎 16歳から負け知らずのとつけむにゃあ(=とんでもない)男、三島天狗があれほどの姿になるというのは、台本を読んだときも衝撃的でした。それと同時に、これがきっかけで、練習相手になったりもするので、三島さんがより近くに感じられた瞬間でもありました。ただ、ストックホルムであまりに濃密な時間を過ごしたため、帰国後にスタジオでホテル内のシーンを撮影した際、三島さんと恋人のように映ってしまい…(苦笑)。「ここはもうちょっと距離があります」と指摘され、改めてシフトチェンジしたことを覚えています(笑)。

-四三と三島の密着ぶりがすごかったですね。

勘九郎 ほぼ台本通りです(笑)。ただ、スランプになって3階の窓から飛び降りようとした三島さんを止める場面は、普通なら「ありがとう」と抱き合って終わるところ。そこに、(大森)安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)が2人の関係を誤解する一幕を加える宮藤(官九郎/脚本)さんは天才だな…と(笑)。

西村 男2人で海外に行き、周りに頼れる人もいない彼らの状況を追体験して行くと、密着していかざるを得ないのかな…という印象はなんとなく受けました(笑)。

勘九郎 だから金栗さん、完全に恋人は三島さんです(笑)。僕がヒロインパートだという自覚もあります(笑)。

-これまで以上に、四三の人間的な部分が表現されていたのも印象的でした。

勘九郎 今まで描かれていなかっただけで、もともと金栗さんにも“肥後もっこす”らしい気質はあったと思うんです。ところが、ストックホルムに行ってみたら、選手は三島さんだけだし、最も頼りにしていた嘉納(治五郎/役所広司)先生も最初はいない。そういう環境でフラストレーションをため込み、ああいうふうに自分を出していかないと、心を保てなかったのではないかと。それほどの不安とプレッシャーと孤独と寂しさの中で戦っていたのでしょう。演じるときは、「この辺まで行っちゃって大丈夫ですか」と何度も相談しましたが、西村さんからは「どんどん出してほしい」と。出来上がったものを見て、その通りだと納得しました。

-ストックホルム編の基になっている金栗さんの手記「盲目旅行 国際オリンピック競技参加之記」を読んでみた感想は?

勘九郎 内容よりも、書かれている文字が金栗さんの性格をつかむヒントになりました。とても繊細で、小さな文字だったので…。揺れる列車の中で書いたため、読めないというのも本当の話です。

西村 それを読める熊本の方に、一枚ずつ文字に起こしていただいてから、スタッフが小道具としてリアルに書き直しています。勘九郎さんは芝居の前にそれを見て、「この日、(金栗さんの)お父さんの命日ですけど、大丈夫ですか?」などと話していました(笑)。

-撮影以外の思い出は?

勘九郎 日本にいるときは、キャスト同士で食事をする機会はなかなかありませんが、ストックホルムでは、みんなで食事をしながら作品や芝居について話すことができたので、とても楽しかったです。ご飯もとてもおいしくて…。ただ、金栗さんは裸になる場面が多いので、おなかいっぱい、というわけにはいかなかったのですが(苦笑)。三島さんも川に入る場面があったので、斗真と2人で西村さんに「(川に入る場面を)前半に撮ってほしい。そうすれば、僕たちも思う存分食べられる」と直談判しましたが、駄目でした(笑)。

西村 現地ロケの後、日本に帰ってきたら、皆さんの間にものすごいグルーブ感が生まれていました。おかげでセットの撮影では、勘九郎さんも生田さんも、今までと全く違う表情が撮れたのではないかと思っています。

-生田斗真さんとはどんなお話を?

勘九郎 「とにかく一生懸命、命懸けで、オリンピックに初めて出場した金栗さんと三島さんを演じよう」と。第11回では、三島さんが短距離走に出場します。中でも、クライマックスの400メートル走は、実際に400メートルを走った後、倒れ込んで芝居をして、せりふを言うところまですべて一連で撮っています。「鬼のような撮影」と思いましたが、それを斗真は命懸けで演じていました。その姿に心から感動し、「マラソンもきちんとやらなければ」という気持ちにもなりました。きっと金栗さん本人も、同じように感じたはずです。ストックホルム編は第13回まで続きます。さらにとんでもないものが出来上がっているので、楽しみにしていてください。

(取材・文/井上健一)

三島弥彦役の生田斗真(左)と金栗四三役の中村勘九郎

 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第十八回「岐路」女にすがる男たちの姿と、その中で際立つまひろと道長の絆【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年5月11日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月5日に放送された第十八回「岐路」では、藤原道長(柄本佑)の兄・道兼(玉置玲央)の死と、それによって空席となった関白の座を巡る道長と藤原伊周(三浦翔平)の争いが描かれた。  妻・定子(高畑充希 … 続きを読む

【週末映画コラム】映画館の大画面で見るべき映画『猿の惑星/キングダム』/“お気楽なラブコメ”が久しぶりに復活『恋するプリテンダー』

映画2024年5月10日

『猿の惑星/キングダム』(5月10日公開)    今から300年後の地球。荒廃した世界で高い知能と言語を得た猿たちが、文明も言語も失い野生化した人類を支配していた。そんな中、若きノア(オーウェン・ティーグ)は、巨大な帝国を築く独裁 … 続きを読む

「場所と人とのリンクみたいなのものを感じながら見ると面白いと思います」今村圭佑撮影監督『青春18×2 君へと続く道』【インタビュー】

映画2024年5月9日

 18年前の台湾。高校3年生のジミー(シュー・グァンハン)はアルバイト先で4歳年上の日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)と出会い、恋心を抱く。だが、突然アミの帰国が決まり、落ち込むジミーにアミはあることを提案する。現在。人生につまずいた3 … 続きを読む

田中泯「日本の政治に対する僕自身の憤りに通じる部分も多かった」世界配信となる初主演のポリティカル・サスペンスに意気込み「フクロウと呼ばれた男」【インタビュー】

ドラマ2024年5月9日

 あらゆるスキャンダルやセンセーショナルな事件を、社会の陰に隠れて解決してきたフィクサー、“フクロウ”こと⼤神⿓太郎。彼は、⼤神家と親交の深かった次期総理候補の息⼦が謎の死を遂げたことをきっかけに、政界に潜む巨悪の正体に近づいていくが…。先 … 続きを読む

海宝直人&村井良大、戦時下の広島を舞台にした名作漫画をミュージカル化 「それでも生きていこうというエネルギーをお見せしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年5月9日

 太平洋戦争下の広島県呉市に生きる人々の姿を淡々と丁寧に描いた、こうの史代氏による漫画「この世界の片隅に」がミュージカル化され、5月9日から上演される。主人公の浦野すず役をWキャストで務めるのは、昆夏美と大原櫻子。すずが嫁ぐ相手の北條周作を … 続きを読む