主人公・西郷吉之助(鈴木亮平)がついに三度目の結婚をした。その相手は、幼なじみで一度は他家に嫁いだ岩山糸。紆余(うよ)曲折を経てようやく結ばれた2人だが、その前には幕末の動乱が立ちふさがる。演じる黒木華が、革命に向かって突き進む吉之助を支える糸という女性に込めた思いを語った。
-第29回でついに糸は吉之助と結婚することになりました。演じてみた感想は?
あのシーンは、糸の成長を感じた場面でした。吉之助さんのプロポーズを一度断った後、自分から「西郷吉之助の嫁として、新しい国を一緒に見たい」と告げたわけです。今までの家に縛られる女性とは違い、私はあなたの一番近くで、自分ができることをしてそれを見届けたいという、新しい男女の形を示した。それこそまさに、吉之助が目指す「新しい国」を象徴する言葉。だから、演じていても感極まるものがありました。
-ここまでの糸の成長はどのように考えていますか。
久しぶりの登場となりましたが、その間、糸は糸なりに結婚して、別の家に嫁いでいた時間があります。だから、昔の雰囲気も残しつつ、いろいろなことを受け入れて大人の女性に成長したことを意識しながら演じています。
-吉之助と再会した場面の感想は?
まず何よりも「久しぶりだなぁ…」と(笑)。監督からは「少し複雑な気持ちを出してほしい」と言われたので、演じる上ではそういう部分も交えて。ただそれは、「恥ずかしい」といったものではなく、いろいろなことを乗り越えてきた分、昔の吉之助さんとは違うなと…。そんな気持ちです。
-鈴木亮平さんが演じる吉之助の変化はどう感じていますか。
人を思いやる心はずっと変わりません。ただ、人の上に立つ責任や覚悟といったものを背負っている雰囲気が加わってきました。やはり、人の生死と向きあい続けている分、昔の朗らかな感じとは違うなと。それは、亮平さん自身からも伝わってきます。だから余計に、悩み、苦しむ吉之助さんの姿が、見ていて切ない。なので、糸としてもより一層、強さを出して見守ってあげなければいけないなと、気持ちを新たにしているところです。
-奄美大島で吉之助と結婚した愛加那(二階堂ふみ)の存在を、糸はどう考えているのでしょうか。
自分には子どもができないという後ろめたさがあるので、気を使っているはずです。吉之助さんの子どもを2人も生んでくれた人なので、やっぱり糸にとっても重要な存在。後にその事実ときちんと向き合って、吉之助さんから愛加那さんの話を聞く場面もありますが、その過程を経て、2人はきちんと夫婦になったような気がします。そういう事実を受け入れられるところが、糸の強さかな…と。
-結婚して家族の一員になったことで、西郷家に対する印象は変わりましたか。
外から見ていたときとは、関わり方が明らかに違います。革命に向かって突き進む人の家を守るということで、糸自身も大人にならざるを得ません。「西郷吉之助の妻」という肩書は、とても重い。新しい時代を作るという使命に燃える吉之助さんの妻として、糸は大黒柱の代わりにならなければいけない。そのためにいろいろと悩むわけですが、そういう悩みを人に見せないところにも、糸の強さを感じます。
-とはいえ、糸はもともと強い女性でしたよね。
そうですね。ただ、その強さがさらに増して、人としての器もどんどん大きくなっています。愛加那さんの子どもを引き取ることに関しても、将来を考えて…ということは理解できますが、私が同じ立場だったら「母親から子どもを奪うのか…」と考えてしまうでしょう。そういうところからも、糸の成長の跡がうかがえます。そういった部分をこれからどう演じていこうか、考えているところです。
-“革命編”では、糸のほか、大久保一蔵の妻・満寿(美村里江)、坂本龍馬の妻・お龍(水川あさみ)といった女性たちも活躍します。そういった女性たちの印象は?
お龍さんのように古い女性像を打ち破って、愛する男性をそばで支える人もいれば、満寿さんのように夫が外に出て、自分は今まで通り家を守る人まで、糸も含めていろいろな女性が登場してきます。女性は女性なりの戦いをしていたんだなと。それぞれに良さがあり、それぞれに大変な部分がある。そういう中から、今につながる女性も生まれてきたのでしょう。そういった意味では、揺れ動く幕末の時代の空気とリンクしている印象です。糸はそれぞれと関わっていきますが、特に影響を受けるのがお龍さんになります。
-ご自身と役の距離感は、最初の頃と比べて変わってきましたか。
最初の頃よりも近くなってきました。糸も吉之助さんをはじめ、いろいろな人と関わってきて、月日を積み重ねてきた分、自分の中で糸のことが理解できるようになりましたから。年齢的に、今の私に近づいていることもあります。糸の気持ちを疑似体験することで、私自身も成長している気がします。
-糸のような母親役を演じることで、ご自身の中で母親に対する意識も変わって来るものでしょうか。
そうですね。最近、母親役をやることが多いので、自分でも、子どもと向き合うとはどんなことなのか、自分の母親はどうだったのかと、いろいろと考える機会が増えてきました。
-最終的に糸という人物は、第1回の冒頭のシーンに繋がっていくわけですが、これまで演じてきて、そのつながりは見えてきた感じでしょうか。
どうでしょう…?(笑)。ただ、第1回のときは想像しながら演じていましたが、今はこれまで演じてきた経験があります。だから、もし同じ場面をもう一度撮影することになれば、同じせりふがより言いやすくなるのではないかな…と思っています。
(取材・文/井上健一)