「西郷が次の時代に向かっていく根源的なエネルギーを受け渡したいと思いながら演じていました」渡辺謙(島津斉彬)【「西郷どん」インタビュー】

2018年4月22日 / 20:50

 薩摩藩主として幕政改革を目指した島津斉彬が、志半ばにして非業の死を遂げた。敬愛する主君を失った吉之助(鈴木亮平)の生涯は今後、大きな波乱を迎えることとなる。第1回からその圧倒的な存在感で作品を支えてきた斉彬役の渡辺謙が、撮影の舞台裏、「俳優としての基礎を教わった」という大河ドラマへの思いを語ってくれた。

島津斉彬役の渡辺謙

-斉彬役は視聴者の人気を集めましたね。

 最近のテレビドラマは、役者の表現にしても、脚本の作りにしても、非常に分かりやすく、懇切丁寧に気持ちの奥の奥まで説明することが多い気がします。だから、僕はこの人が何を考えているのか分からなくしたかった。いい人なのか、悪い人なのか。そういう境界をにじませてどんどん曖昧にしたいと。決して目新しいものではありませんが、今のドラマにおけるアプローチとしては、それを面白がってもらえたのではないでしょうか。

-鹿児島ロケでは、渡辺さんが「大儀であった」と言ったときに、涙ぐまれた地元のエキストラの方もいたと聞きます。

 相撲の回(第5回)のことですが、撮影に3日かかりました。その間、暑かったり、寒かったりする中、エキストラの皆さんは裸にふんどし一丁でずっと付き合ってくださった。そのご苦労や、手伝ってくださることへの有り難さはずっと感じていたので、終わった後に「ありがとう」と言いたかったんです。そこで、相撲の場でもあったし、全員に対する「ご苦労様」という意味も込めて、斉彬として「大儀であった」とお芝居をしてみました。

-斉彬という人物の魅力は?

 面白いと思ったのは、今やらなければいけないというものに関しては、ものすごく真っすぐに指示を出していくところ。全く知識がないのに、オランダの本だけを頼りに反射炉で鉄を作るなんてことを、よくやらせたと思います。そこにヨーロッパの人たちも驚いたわけで。数々の失敗もしましたが、それでもいろいろな物を作らせていったということは、相当なエネルギーのある人だったんだろうと。

-斉彬と吉之助の関係については、どのようにお考えでしょうか。

 西郷という男が持つストレートさ、直球でものを受け止め、考え、行動していくということに関しては、とても近いものを感じます。もちろん、抱えているものの大きさが異なるので、いろいろと違いはありますが、「これは面白い。やれ」と言ったことへの対応は、非常にスピーディー。たとえ失敗しても、それを糧にしてどんどん先に進んでいく。そういう発想の距離感は非常に近い。だから、西郷が斉彬に触発されて次の時代に向かっていく根源的なエネルギーを受け渡したいと思いながら演じていました。

-主演の鈴木亮平さんの印象は?

 ナイスガイですよね。もう若手ではないし、いろいろとキャリアを積んできていますから、そんなにあれこれとは言いません。ただ、見ていて気になったことは、時々言うようにしました。あとは、微妙な言い方ですが、ある種の「いい加減さ」というか「そこにあるものだけではなく、ないものも感じながら演じてくれたら」と期待しています。「中盤以降、自分の中にそういうものが生まれてくるだろうから、焦らなくていいよ」とは、彼にも言ってありますが。

-出演が発表されたとき、「大河ドラマで俳優としての基礎を育てていただいた」とコメントされていましたが、具体的にはどんな点でしょうか。

 どこと言えないぐらい、基礎中の基礎を全部たたき込まれました。歩き方や立ち振る舞い、着物やよろいの着方、役に応じて刀をどう差すのか…。とにかく、ありとあらゆることを教えていただいたので、今では所作の先生が遠慮するんです。「あいつが言うんだから間違いない」と。「いやいや。間違えていたらちゃんと言ってくださいね」と思っているんですけど(笑)。

-大河がなければ、その後のキャリアはなかったと?

 全く考えられません。もちろん、いろいろな作品から学ぶことはありますが、ここまで時間を掛けて実践の中で教わる機会は他にありません。そういう意味で大河ドラマは、俳優にとって学ぶためのものすごいチャンス。だから、これからもずっと続いていってほしいです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

二宮和也「子どもたちの映画館デビューに持ってこいの作品です」『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』【インタビュー】

映画2025年5月17日

 テレ東系で毎週月~金、朝7時30分から放送中の乳幼児向け番組「シナぷしゅ」の映画化第2弾。番組のメインキャラクター「ぷしゅぷしゅ」と相棒「にゅう」が、バカンスで訪れた「どんぐりアイランド」を舞台に繰り広げる冒険をオリジナルストーリーで描き … 続きを読む

【週末映画コラム】異色ホラーを2本 デミ・ムーアがそこまでやるか…『サブスタンス』/現代性を持った古典の映画化『ノスフェラトゥ』

映画2025年5月16日

『サブスタンス』(5月16日公開)  50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによってレギュラー番組を降ろされたことから、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、禁断の再生医療「サブスタンス= … 続きを読む

新原泰佑、世界初ミュージカル化「梨泰院クラス」に挑む「これは1つの総合芸術」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年5月16日

 世界中で大ヒットを記録した「梨泰院クラス」が、初めてミュージカル化される。主人公のパク・セロイを演じるのは小瀧望。日本・韓国・アメリカのクリエーターが集結し、さまざまな人種が混じり合う自由な街・梨泰院で権力格差や理不尽な出来事に立ち向かう … 続きを読む

グレッグ・ターザン・デイビス「とにかく、ただ純粋に面白い映画を撮ることだけが、自分たちに与えられたミッションでした」『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』【インタビュー】

映画2025年5月15日

 トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第8作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が、5月23日の公開に先駆けて17日から先行上映される。前作『ミッション:インポッシブル/デッ … 続きを読む

研ナオコ、認知症のおばあちゃん役で9年ぶりの映画主演「主演女優賞を狙ってます(笑)」岡﨑育之介監督「研さんの人生の奥行きがにじみ出た」『うぉっしゅ』【インタビュー】

映画2025年5月12日

 人生に迷いながらソープ嬢として働く若い女性・加那と、彼女に介護されることになった認知症の祖母・紀江の交流を明るくポップなタッチで描いたユニークな映画『うぉっしゅ』が絶賛公開中だ。  本作で、加那を演じる若手注目株の中尾有伽と共に、紀江役で … 続きを読む

Willfriends

page top