【インタビュー】『ブレードランナー2049』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「この映画は前作へのラブレターです」

2017年10月26日 / 12:00

 SF映画の名作『ブレードランナー』(82)の、35年ぶりの続編となる『ブレードランナー2049』が、いよいよ10月27日から公開される。前作のリドリー・スコットから監督の座を引き継いだのは、『メッセージ』(16)でアカデミー賞の監督賞候補となった鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴ。来日した彼に、前作への思いや本作製作の裏側を聞いた。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

-有名な『ブレードランナー』の続編を、ご自分が監督することになった時の心境は?

 いろいろと複雑な思いがしました。最初に脚本を渡された時、私にこの映画を託してくれることにとても驚きながら、同時に感動を覚えました。そして、実際に脚本を読んでみると、圧倒されながら、興奮しました。そこには、私にとって分かりやすい、親しみのあるテーマが含まれていたからです。ですから、自分が監督にオファーされたことに納得がいきました(笑)。
 ところが、そうは思いながらも、今度は「ではどう撮ればいいんだ。本当に私が続編を作っていいのか」と不安にかられ、パニックに陥りました。そこで「名作の続編を作ることは、とてもまずいアイデアだ。成功するチャンスはとても少ないぞ」と自分に言い聞かせました。
 でも、あまりにも脚本が良かったことと、「あの名作の続編に自分が関わることができるんだ」という思いに負けて引き受けることにしました。私は『ブレードランナー』が大好きでしたし、映画監督になりたいと思わせてくれた作品でした。なので「引き受けたからには、前作に敬意を払う作品にするための努力は惜しまない」と決意しました。

-この映画は、前作へのラブレターのようにも見えましたが、そこに自分らしさを込めた部分はありましたか。

 私も、この映画については“ラブレター”という言葉をよく使います。ですから、前作の世界観からあまり離れないように撮ることを心掛けましたが、景色を撮る時も、人物を撮る時も、そこには私の感性が出ていると思います。それが他の監督には無い強みでもあれば弱みでもあると思います。

-前作を踏襲しながら、新たな物語を作る上で苦労した点はありましたか。

 苦労はたくさんありましたが、デッカードを再登場させることがその最たるものでした。何しろ、ハリソン・フォードが気持ち良く演じてくれることが一番大事なことでしたから、強い責任を感じました。

-この映画は、前作はもちろんですが、以前ご自身が監督された『複製された男』(13)と色調がとても似ている感じがしましたが…。

 実は『複製された男』は『ブレードランナー』にとても影響を受けた映画でした。都市の風景というか、都市が抱えるパラノイアや閉塞感が一つのキャラクターになっているところや、公害がストレスになっている社会など…。これは初めてお話しますが、『複製された男』で描いたさまざまな解釈を、より広げて今回の映画に生かしました。でも、それは意識的にしたのではなく、自分自身の欲求から自然に生まれたものだったと思います。

-主役のブレードランナー“K”を演じたライアン・ゴズリングはいかがでしたか。

 ライアンは、微妙な動きや表情の変化で感情を表現することができる俳優です。カメラの前に立つだけで何かを伝えることができます。ベニチオ・デル・トロとも通じるところがありますね。基本的には、内面から表現する演技なのですが、それをとても強く伝えることができるのです。今回はカリスマ性を必要とする役でしたので、彼にはぴったりでした。
 また、彼は単なる俳優ではなくて、ストーリーテラーとしても有能です。今回は私の仕事も手伝ってくれました。どういうせりふを言えば観客に伝わるかを、ライアンと一緒に何日もかけて考えました。常に一緒に責任を背負ってくれている感じがしてとても心強かったです。

-前作にも本作にも、未来世界のイメージの中にさまざまな日本のデザインが登場しますが、その理由は? 『メッセージ』には“ばかうけ”も登場しましたね(笑)。 

 きっと日本が未来そのものなんですね(笑)。今回はちょうど台風が来ている時に日本に来ましたが、写真を撮って「これがまさに『ブレードランナー』の世界だよ」と(撮影監督の)ロジャー・ディーキンスに送りました(笑)。
 日本の文化からはとてもインスピレーションを受けます。日本のデザインは純粋で、スタイリッシュで、洗練されていて、とても感心させられます。コンセプトアーティストには「日本人らしくデザインを考えて」と言います。線の使い方などは日本人が最もうまいと思います。いろいろな文化が融合しているところも美しいと思います。
 リドリー・スコットは、前作を作った1980年代に、将来的には日本や中国といったアジアの国の文化が一番上にくると予測していたのかもしれません。そういう意味では、今回の私の映画でもアジアを強く意識しました。これは今、私が日本にいるからお世辞で言っている訳ではありませんよ(笑)。日本が影響を与えているのは事実なのですから。

(取材・文・写真/田中雄二)

『ブレードランナー2049』


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(3)無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力

舞台・ミュージカル2025年9月12日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む

北村匠海 連続テレビ小説「あんぱん」は「とても大きな財産になりました」【インタビュー】

ドラマ2025年9月12日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルにした柳井のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)夫婦の戦前から戦後に至る波乱万丈の物語は、ついに『アンパンマン』の誕生にたどり着いた。 … 続きを読む

Willfriends

page top