「勘違いさせるようなことはしませんと祈りながら、小野家の墓前で手を合わせました」高橋一生(小野政次)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

2017年2月13日 / 06:00

 次郎法師(柴咲コウ)、井伊直親(三浦春馬)と幼いころから固い絆で結ばれた鶴丸こと小野政次が、第5回から成長した姿で登場した。演じているのは、これまで「軍師官兵衛」(14)などの大河ドラマに出演してきた高橋一生。家老として井伊家を支える一方、幼なじみの2人との関係にも苦悩する政次役に込めた思いを語った。

 

小野政次役の高橋一生

小野政次役の高橋一生

-おとわ、亀之丞、鶴丸の子ども時代が続いて、第5回から満を持しての登場となりました。

 おとわ、亀之丞、鶴丸の3人は、第4回まで子ども時代が続きましたが、見てくださった方はきっと、「これは絶対必要だった」と分かってくださるはずです。あの幼少期でしか出せない説得力があり、それは僕たちが登場した後の展開にとても響いてくるはずなので。そう考えると必要なルート取りなのですが、それでも最低限になっていたのが残念なくらいです。10回ぐらいやればいいのにと思うほど、大事なパートでした。

-幼少期からのつながりは意識していますか。

 子役の方たちの演技を参考に、子どものころだったらどんな感じだろうと考えながら演じています。例えば子どものころ、鶴丸がおとわに向かって「ばか」と言って怒る場面がありました。そういうことがあると、鶴丸は意外と怒りっぽいんだな、ということが分かります。すると、大人になった政次も表面上は穏やかでも、内心ではあの時のように怒っているんだろうな、と想像できる場面が出てきます。そういう時は子どものころとのつながりを意識して演じています。その辺りを、見ている皆さんにも感じ取ってもらえるといいですね。

-最初に台本を読んだ時の感想はいかがでしたか。

 最初に12冊ぐらいまとめて台本を頂きました。小説を読むのとは違い、台本を読む時は自分の役を「どんなふうに演じようか」と考えながら読むので、1冊読むとくたびれてしまって、普通は時間を空けないと続きが読めないんです。でも今回は12冊一気に読んでしまいました。それぐらい台本が面白かったです。

-政次という役について、演じる上でこれは外せないと考えている部分はありますか。

 それはやはり、おとわに対する思いですね。心の流れとして、表向きはこう見えるけど、その実どう思っているのか、という部分は並行して考えなくてはなりません。場面によっては、視聴者をミスリードする必要もあるので、表面と裏面は常に意識しています。表と裏が逆転して、裏が一瞬表に出てしまい、表が裏に引っ込むような瞬間もありますから。その辺りは意識してハンドルを握っているつもりです。

-政次は、次郎法師=おとわをどのように見ているのでしょうか。

 子どものころのおとわは、自分が女の子であることをほぼ意識していない幼少期特有の状態だと思います。時には男の子のように見えたり、またある時には女の子っぽく見えたりするけど、政次からは女の子にしか見えない。本人だけがそれに気づいていないという構図ですね。政次は、そのころのイメージをずっと引きずっていて、“直虎”を名乗るあたりから、みんなのために生きる“竜宮小僧”と思う時もあれば、女性として見てしまう時もあるのではないでしょうか。

-では、亀之丞=直親についてはいかがでしょう。

 子どものころの直親は、井伊家の当主にならなければいけないと気構えつつ、その一方で体が弱いことも自覚していました。健康的でさわやかな青年に成長して井伊谷に戻ってきた時、その姿を見た政次の弟の玄蕃(井上芳雄)が、「いろいろ苦労されたけど、真っすぐ育たれて」と語る場面があります。でも政次は、政治を行う上では時に非情な判断も求められるので、腹黒いところも持ち合わせようとして強くなっているのだろう、というところまで見抜いていると思います。

-父親の小野政直(吹越満)と政次の関係はどのように捉えていますか。

 成長するに従って、父親の気持ちが分かるようになってくるのではないでしょうか。子どものころは単純に悪いことを考えている父親だと思っていましたが、自分が後を継いだことによって、父が自ら悪役を引き受けていたという現実に直面することになります。父親からは「おまえは必ず自分と同じようになる」とも言われます。それに腹を立てつつも、井伊家の家臣である以上はそうならざるを得ないというメッセージだと受け止めていたりもするのかな、と思っています。

-それでもやはり、政次は父のようにはなりたくないと思っているのでしょうか。

 そうですね。でも血がそうさせるのか、運命がそうさせるのか分からないけど、そうなっていく。それが自覚できていることは悲しいでしょうね。

-撮影に入る前、小野家のお墓を訪ねたそうですが。

 龍潭寺に井伊家とその家臣たちのお墓があるのですが、その中でも小野家代々の墓はメーンストリートに存在するんです。小野政次という人物は、井伊家にとって裏切り者だったと言われているにもかかわらず、お墓はメーンストリートにある。しかも、案内してくれた方の説明によると、小野家はかなりきちんと政治をやっていたそうです。「百聞は一見にしかず」という言葉がありますが、そういった事情を知ると、裏切り者と呼ばれる小野家も、実は井伊家を守った一つの要素だったことが実感できました。だから、絶対に小野家を勘違いさせるようなことにはしませんと祈りながら、その場で手を合わせました。

-最後に、本作に対する意気込みをお聞かせください。

 大河ドラマには、史実を踏まえるという前提がありますが、井伊家の資料は非常に少なく、僕が演じる小野家に関してもあまり残っていないそうです。それでも、なるべく史実を反映させていく形にはなりますが、あまりこだわり過ぎると窮屈になってしまいます。テレビドラマも映画も、物語というものは基本的には全部作られたものです。脚本家や俳優や監督が作り上げる世界観によって、説得力が生まれると思うんです。その点に関しては、スタッフの皆さんが「本当は違う」と思われないように、ものすごく尽力してくれています。だから全部委ねて、僕は台本に集中して、見てくださる方の心を動かせるように、伸び伸びやらせていただくつもりです。

(取材・文/井上健一)


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

寺西拓人 声優初挑戦は「とても刺激的で楽しい経験でした」 「マクロス」、「アクエリオン」シリーズの河森正治監督の長編アニメーションに出演『迷宮のしおり』【インタビュー】

映画2025年12月30日

 2026年1月1日全国公開となる『迷宮のしおり』は、「マクロス」、「アクエリオン」シリーズなどで知られる河森正治監督初のオリジナル長編アニメーションだ。  引っ込み思案な女子高生・前澤栞(声:SUZUKA(新しい学校のリーダーズ))は、親 … 続きを読む

織山尚大、芸能活動10周年を迎え「今のこの年齢で演じる意味がある」 舞台「エクウス」で3年ぶりの主演【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月29日

 映画『うちの弟どもがすみません』やドラマ『リベンジ・スパイ』など、数々の映画やドラマ、舞台で活躍する織山尚大の3年ぶりの主演舞台となる「エクウス」が1月29日から上演される。本作は、実際に起きた事件を基に描かれた、ピーター・シェーファーに … 続きを読む

【映画コラム】「2025年映画ベストテン」

映画2025年12月28日

 今回は、筆者の独断と偏見による「2025年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。 【外国映画】  2025年公開の外国映画を振り返った時に、今年の米アカデミー賞での受賞作は最近の映画界の傾向を象徴するようで興味深いもの … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】家族の情緒が国境を越える、俳優ムン・ソリが語る「おつかれさま」ヒットの理由

ドラマ2025年12月26日

 今年のヒットドラマ、Netflixシリーズ「おつかれさま」。子どもから親へと成長していく女性の人生とその家族を描き、幅広い世代から支持され大きな話題を呼んだ。IU(アイユー)との二人一役で主人公エスンを演じたムン・ソリに、ドラマの振り返り … 続きを読む

田中麗奈「こじらせ男の滑稽で切ない愛の行方を皆さんに見届けていただきたいと思います」『星と月は天の穴』【インタビュー】

映画2025年12月24日

 脚本家としても著名な荒井晴彦監督が、『花腐し』(23)に続いて綾野剛を主演に迎え、作家・吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』が12月19日から全国公開された。過去の恋愛経験から女性を愛することを恐れながらも愛されたい願望をこ … 続きを読む

Willfriends

page top