エンターテインメント・ウェブマガジン
言葉を発することなく、無言の姿からにじみ出す圧倒的な威圧感。NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で、井伊家を支配する戦国大名・今川義元の殺気あるたたずまいに、思わずうなった視聴者も少なくないに違いない。メークを施した姿からは分かりにくいが、演じているのは意外にも人気落語家の春風亭昇太だ。義元の地元・静岡県出身で長年、義元ファンを公言してきた昇太が、ほとばしる熱い思いと噺家らしいユーモアを交えて、これまでとは一味違う義元役に懸ける意気込みを語った。
ものすごくうれしかったです。子どものころから図書館に行って本を読むほどの今川好きでしたから。冗談で「いつか今川義元をやりたい」とずっと言っていたんです。でも、まさか現実になるとは思っていなかったので、衣装を着た時は興奮して、自撮り写真を撮りまくりました。夢のようでした。
今川義元は、織田信長の引き立て役として長い間、公家風の軟弱な戦国大名といった扱われ方をしてきました。でも実は、領国経営でも先進的なことをやっていますし、常識的に考えて駿河、遠江、三河と領土を広げて行った戦国大名が軟弱なわけはありません。しかも、義元は今川家の五男にもかかわらず家督を相続しているので、その一件だけを見ても、相当な経験をしてきたことが分かります。だから、信長に敗れた桶狭間の一戦だけで評価されてしまうのはかわいそうです。
僕にしてみたら、戦場で散った義元と家来のだまし討ちに遭った信長、どちらが武将らしいかと言ったら、義元だと思いますけどね。戦国大名の中で最も誤解されている人だと思いますが、今は中世史の研究も進んでいるので、義元がどんな人だったのかというのは、これからだんだん世間に知られていくのではないでしょうか。
静岡の人たちからすごく言われました。「今川義元お願いします!」って。戦国のドラマをやるたびに、“駄目大名”みたいな扱いを受けてきたので、静岡の人たちはずっとモヤモヤした気分を抱えたまま、仕方なく徳川家康に逃げていたわけです(笑)。でもやっぱりみんな義元が好きなので、本当にいろいろな人から「お願いします!」って言われました。
なるべく無表情でクールに演じてほしいということだったので、僕はほとんどしゃべっていないんです。側近の方に耳打ちするばかりで。最初は、せりふを覚えなくていいので、楽だと思っていたんです。そうしたらとんでもない。しゃべらないで芝居をするのが、こんなに大変なものかと。せりふを言っていると、自分がどんな顔をしているのかだいたい分かるんですけど、しゃべらないとそれが分からないんです。そもそも、落語家を呼んでおいて黙って芝居をさせるって、どういうことですか(笑)。難しかったですけど、一生懸命やりました。照明なども工夫してくれたので、何とかさまになったのではないでしょうか。
すごくかわいらしくてチャーミングな方です。僕らにとって浅丘さんは大スターで、ちょっと別の存在ですから、一緒に仕事ができるのはとてもうれしいですね。僕の両親が生きていたら卒倒すると思います(笑)。
松也くんがきれいなんですよ。一緒にいる時に思わず「松也くん、きれいだね!」って言いましたから(笑)。やっぱり華がありますよね。そんな部分が役にうまく反映して、とてもいい氏真になるのではないでしょうか。でも、親子役ですけど、僕から尾上松也くんは生まれないですよね。浅丘ルリ子さんからも僕は生まれないし(笑)。仲間からは「それちょっとおかしいんじゃないの」って言われたので、「隔世遺伝だ」って言ってやりました。
今まではスポット的な出演で、1日だけの撮影だったので、共演者やスタッフの方とお話しする機会はほぼありませんでした。今回は時間があるので、いろいろな方の仕事ぶりを見せていただいたら、すごく丁寧にドラマを作っていることが分かりました。衣装さんやメークの方や、大道具さん、小道具さんを含めてプロ意識の高い人たちが集まっていて、本当に頭が下がりました。僕もしっかりしなきゃ、という気持ちになりました。
普段、落語は一人で作っていますが、テレビドラマは出演者以外にも関わっている人の数がすごく多いですよね。そういう大人数で作るものの素晴らしさを感じます。それと同時に、1人でそういう舞台を作れる落語もすごいなと。だから、落語をやると芝居も素晴らしいと思うし、芝居をやっていると落語ってすごいなと思うし、僕の中ではすごくいい感じになっています。今回はいい機会を頂けて、とてもありがたいです。
直虎(柴咲コウ)は、家を守るために女性でありながら当主になるわけですけど、義元の母の寿桂尼も、“女戦国大名”と呼ばれるほど実権を握って今川家を支えてきた人です。だから、立場が似ている寿桂尼と直虎の関係に、とても興味があります。義元に比べて今までほとんど大河ドラマに登場してこなかった息子の氏真の活躍も楽しみです。僕は氏真も大好きなので。それと、義元がしゃべる数少ないシーンは見逃さないでほしいです。噺家なので、しゃべらないとね(笑)。
僕のような身分の低い人間にやってほしくないと思っているのでは…(笑)。本当に散々な扱われ方をしてきた方なので、少しは喜んでくれるのではないでしょうか。これをきっかけに、今後はよりカッコいい、敵を斬りまくるような今川義元が出てきてくれるといいですね。もちろん僕以外の役者さんで(笑)。
(取材・文/井上健一)
映画2026年10月1日
大腸がんによって24歳で他界した遠藤和(のどか)さんが亡くなる10日前までつづり続けた手記を映画化した『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』が、10月2日から全国公開される。本作で、主人公の和と夫の将一を演じた、川口春奈と高杉真 … 続きを読む
映画2026年10月1日
余命1年の音楽教師・京香(広瀬アリス)と、喜び以外の感情を失った高校生・沖晴が織りなす、切なくも温かい感動の人生賛歌『沖晴くんの涙を殺して』が10月2日から全国公開される。本作で、訳あり高校生の沖晴を演じた木戸大聖に話を聞いた。 -沖晴の … 続きを読む
舞台・ミュージカル2026年9月30日
小瀧望が主演する舞台「ロックンロール」が、11月6日から上演される。本作は、世界的な劇作家トム・ストッパードが祖国チェコスロバキアを舞台に、20年以上にわたる歴史のうねりを描きながら、自由の尊さをうたう物語。愛するロックンロールと母親を守 … 続きを読む
映画2026年9月30日
10月2日から全国公開となる『時給三〇〇円の死神』は、累計発行部数36万部を突破した藤まるの同名小説を原作にしたファンタジーだ。生きる希望を失った大学生・佐倉真司(西畑大吾)が、謎めいた同級生・花森雪希(福本莉子)に誘われ、この世に未練を … 続きを読む
2026年9月29日
K-POPや韓国ドラマは、エンターテインメントであると同時に、韓国社会を映す鏡でもある。何気ない言葉やしぐさ、習慣の背景をたどると、その国ならではの価値観や歴史、人との関わり方が見えてくる。この連載では、韓国カルチャーを入り口に、知ってい … 続きを読む