「僕から尾上松也くんは生まれないですよね」春風亭昇太(今川義元)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

2017年1月22日 / 20:45

 言葉を発することなく、無言の姿からにじみ出す圧倒的な威圧感。NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で、井伊家を支配する戦国大名・今川義元の殺気あるたたずまいに、思わずうなった視聴者も少なくないに違いない。メークを施した姿からは分かりにくいが、演じているのは意外にも人気落語家の春風亭昇太だ。義元の地元・静岡県出身で長年、義元ファンを公言してきた昇太が、ほとばしる熱い思いと噺家らしいユーモアを交えて、これまでとは一味違う義元役に懸ける意気込みを語った。

 

今川義元役の春風亭昇太

今川義元役の春風亭昇太

-地元の戦国大名である今川義元を演じるお気持ちは?

 ものすごくうれしかったです。子どものころから図書館に行って本を読むほどの今川好きでしたから。冗談で「いつか今川義元をやりたい」とずっと言っていたんです。でも、まさか現実になるとは思っていなかったので、衣装を着た時は興奮して、自撮り写真を撮りまくりました。夢のようでした。

-昇太さんが考える義元とは、どんな人物でしょうか。

 今川義元は、織田信長の引き立て役として長い間、公家風の軟弱な戦国大名といった扱われ方をしてきました。でも実は、領国経営でも先進的なことをやっていますし、常識的に考えて駿河、遠江、三河と領土を広げて行った戦国大名が軟弱なわけはありません。しかも、義元は今川家の五男にもかかわらず家督を相続しているので、その一件だけを見ても、相当な経験をしてきたことが分かります。だから、信長に敗れた桶狭間の一戦だけで評価されてしまうのはかわいそうです。

-義元への愛にあふれていますね。

 僕にしてみたら、戦場で散った義元と家来のだまし討ちに遭った信長、どちらが武将らしいかと言ったら、義元だと思いますけどね。戦国大名の中で最も誤解されている人だと思いますが、今は中世史の研究も進んでいるので、義元がどんな人だったのかというのは、これからだんだん世間に知られていくのではないでしょうか。

-地元での評判はいかがですか。

 静岡の人たちからすごく言われました。「今川義元お願いします!」って。戦国のドラマをやるたびに、“駄目大名”みたいな扱いを受けてきたので、静岡の人たちはずっとモヤモヤした気分を抱えたまま、仕方なく徳川家康に逃げていたわけです(笑)。でもやっぱりみんな義元が好きなので、本当にいろいろな人から「お願いします!」って言われました。

-実際に演じてみていかがですか。

 なるべく無表情でクールに演じてほしいということだったので、僕はほとんどしゃべっていないんです。側近の方に耳打ちするばかりで。最初は、せりふを覚えなくていいので、楽だと思っていたんです。そうしたらとんでもない。しゃべらないで芝居をするのが、こんなに大変なものかと。せりふを言っていると、自分がどんな顔をしているのかだいたい分かるんですけど、しゃべらないとそれが分からないんです。そもそも、落語家を呼んでおいて黙って芝居をさせるって、どういうことですか(笑)。難しかったですけど、一生懸命やりました。照明なども工夫してくれたので、何とかさまになったのではないでしょうか。

-今川家側の共演者の方について伺います。義元の母・寿桂尼を演じる浅丘ルリ子さんの印象はいかがでしょう。

 すごくかわいらしくてチャーミングな方です。僕らにとって浅丘さんは大スターで、ちょっと別の存在ですから、一緒に仕事ができるのはとてもうれしいですね。僕の両親が生きていたら卒倒すると思います(笑)。

-息子の今川氏真を演じる尾上松也さんは?

 松也くんがきれいなんですよ。一緒にいる時に思わず「松也くん、きれいだね!」って言いましたから(笑)。やっぱり華がありますよね。そんな部分が役にうまく反映して、とてもいい氏真になるのではないでしょうか。でも、親子役ですけど、僕から尾上松也くんは生まれないですよね。浅丘ルリ子さんからも僕は生まれないし(笑)。仲間からは「それちょっとおかしいんじゃないの」って言われたので、「隔世遺伝だ」って言ってやりました。

-「軍師官兵衛」(14)、「花燃ゆ」(15)に続いて3作目の大河ドラマ出演ですが、過去の作品と比べていかがでしょうか。

 今まではスポット的な出演で、1日だけの撮影だったので、共演者やスタッフの方とお話しする機会はほぼありませんでした。今回は時間があるので、いろいろな方の仕事ぶりを見せていただいたら、すごく丁寧にドラマを作っていることが分かりました。衣装さんやメークの方や、大道具さん、小道具さんを含めてプロ意識の高い人たちが集まっていて、本当に頭が下がりました。僕もしっかりしなきゃ、という気持ちになりました。

-落語と比べて、ドラマの撮影はいかがですか。

 普段、落語は一人で作っていますが、テレビドラマは出演者以外にも関わっている人の数がすごく多いですよね。そういう大人数で作るものの素晴らしさを感じます。それと同時に、1人でそういう舞台を作れる落語もすごいなと。だから、落語をやると芝居も素晴らしいと思うし、芝居をやっていると落語ってすごいなと思うし、僕の中ではすごくいい感じになっています。今回はいい機会を頂けて、とてもありがたいです。

-昇太さんが考えるこの作品の見どころはどこでしょう。

 直虎(柴咲コウ)は、家を守るために女性でありながら当主になるわけですけど、義元の母の寿桂尼も、“女戦国大名”と呼ばれるほど実権を握って今川家を支えてきた人です。だから、立場が似ている寿桂尼と直虎の関係に、とても興味があります。義元に比べて今までほとんど大河ドラマに登場してこなかった息子の氏真の活躍も楽しみです。僕は氏真も大好きなので。それと、義元がしゃべる数少ないシーンは見逃さないでほしいです。噺家なので、しゃべらないとね(笑)。

-もし、義元が昇太さんの演技を見たら、どう思うでしょうか。

 僕のような身分の低い人間にやってほしくないと思っているのでは…(笑)。本当に散々な扱われ方をしてきた方なので、少しは喜んでくれるのではないでしょうか。これをきっかけに、今後はよりカッコいい、敵を斬りまくるような今川義元が出てきてくれるといいですね。もちろん僕以外の役者さんで(笑)。

(取材・文/井上健一)


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【インタビュー】舞台「この声をきみに~もう一つの物語~」尾上右近、演劇作品への挑戦が「自分にとって豊かな財産になっている」

舞台・ミュージカル2019年12月11日

 2017年に放送された、大森美香脚本によるNHKオリジナルドラマ「この声をきみに」がスピンオフとして舞台化される。竹野内豊が主演した同ドラマは、朗読教室を舞台に、現代に生きる大人たちの恋愛を描き、高い評価を得た。舞台版では、大森自らが脚本 … 続きを読む

【インタビュー】『カツベン!』周防正行監督、成田凌 「これが映画の始まりなんだ、ということを、意識して見てほしいです」

映画2019年12月11日

 今からおよそ100年前の日本。活動写真と呼ばれ、まだモノクロでサイレントだった映画をより楽しむため、楽士の奏でる音楽に合わせて、自らの語りや説明で映画を彩った活動弁士(通称カツベン)がいた。弁士に憧れる若き青年を主人公に、映画黎明(れいめ … 続きを読む

「東京オリンピックの聖火リレー最終ランナーという重要な役。プレッシャーを感じています」井之脇海(坂井義則)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

ドラマ2019年12月8日

 いよいよ大詰めを迎えた「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。次回、最終回でついに田畑政治(阿部サダヲ)らの悲願であった1964年東京オリンピックが開幕する。その開会式の見せ場となる聖火リレー最終走者に抜てきされたのは、広島に原爆が … 続きを読む

【インタビュー】「本気のしるし」土村芳「オーディションに受かったときは驚きました」深田晃司監督「男をドキッとさせるようなせりふを、土村さんはナチュラルに言ってくれた」唯一無二のヒロイン誕生の舞台裏!

ドラマ2019年12月6日

 虚無的な日々を送る会社員の辻一路(森崎ウィン)はある日、葉山浮世という女性と出会う。だが浮世には、無意識のうちにうそやごまかしを繰り返し、男性を翻弄(ほんろう)する一面があった。そんな浮世にいら立ちながらも、なぜか放っておけない辻は、次第 … 続きを読む

【2.5次元】松岡充「華やかで優しくて男らしいステージをお届けしたい」 舞台「私のホストちゃん THE LAST LIVE」~最後まで愛をナメんなよ!~ インタビュー

舞台・ミュージカル2019年12月6日

 人気モバイルゲームからドラマ化、そして2013年には舞台化された「私のホストちゃん」。ホストのきらびやかで厳しい世界を、歌やダンス、実際に観客を口説くシーンなど、臨場感あふれる演出で描き、大きな話題を呼んだ作品だ。以降、シリーズ化され、こ … 続きを読む

page top