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NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で、知恵袋的存在として井伊家を支える龍潭寺の住職・南渓和尚。演じるのは、35年ぶりの大河ドラマ出演となった小林薫である。ひょうひょうとしたつかみどころのない人物を人間味豊かに演じる小林が、演技の裏に込めた思いを語った。
大河ドラマについては、いろいろな方がやったほうがいいと考えていたことなどもあり、長い間、出演してきませんでした。でも、そろそろ年齢も年齢だし、声を掛けてくれる人がいるうちが華なのかな、と考えていたところに、この作品のお話を頂きました。聞けば、脚本家は以前、「天皇の料理番」(15/TBS系)で初めてお仕事をご一緒させていただいた森下佳子さんとのこと。森下さんにはその時にお世話になったという気持ちもあったので、お返しの意味も含めて、これはもう縁だと思って出演することにしました。
ずいぶん大勢の人が番組に携わっているんだなと、この年になって改めて思いました。昔はそこまで俯瞰して見ていませんでしたが、美術や演出のような制作スタッフ以外にも、いろいろな人が関わっていることを実感しました。現場でそういう人たちと関われるのは楽しいですね。
南渓がなぞなぞのような問答をした上で「答えは一つじゃない、他にもあるかもしれないぞ、もっとあるかもしれないぞ」と言う場面があるのですが、その言葉は南渓の人柄に通じる部分もあります。だから、「こう見える面もあれば、こういう違った一面もある」という多面性があって、見ている方が「どっちなの?」と思うようなつかみどころのない人物にできたらいいなと思っています。でも、あまり考えていないようにも見えるので、もしかしたら誰かの言葉を代わりにしゃべっているだけで、南渓自身は大したことがないのかもしれません(笑)。
前もって決めずに、どんな演技をしたらいいのか手探りでやっています。細かいことですが、時代劇風の口調でしゃべるのか、ナチュラルなしゃべりにするのかといったようなところからですね。
ドラマを面白くするためには、演じる上で、ある程度、品のいいうそは必要だと思います。だけど、見ている方たちがそれを不愉快だと感じるのであれば、抑えなければいけない。それは人によって見方が異なるので、どの程度までやればいいのか、加減しながら演じています。台本を読んで、こうした方がいいんじゃないか、と感じた部分については、監督と相談して言い回しを変えるなど、ちょうどいいところを探りながらですね。少し演技を変えることで、周りの人たちとのグラデーションが生まれて、その人物の色が強く出てきたり、違った景色に見えたりすることもありますから。
例えば、同じプロ野球選手でも、イチローみたいな人はまねしようとしてもできませんよね。誰でも頑張ったら大谷(翔平)選手に成れるのかといったら成れません。直虎にも、イチローや大谷選手のような天性のものがあると思います。女の子ではあるけれども、そういう運命を背負った子どもで、井伊家を託す上で十分な器量を持っているというふうに見ています。
イチローがイチローになるためには、彼を育てた仰木(彬)監督がいたわけです。南渓和尚は、そんな仰木監督のような存在ですね。とはいえ、あまり大きなことを考えるのではなく、現実的な視点でやるべきことを考えてサポートできる人物だと思います。
主役なので、プレッシャーなど肩に背負っているものが僕らとは違いますよね。だから、あまりこちらから声も掛けず、そっとしておいているのですが、彼女なりの思いを持って役に入っていると思います。
おとわ(後の直虎=新井美羽)を今川家の人質に差し出すかどうか、問題になったくだりです。この時、南渓たちは人質を回避するため、結婚できないように出家させることを考えますが、そのための試練として、おとわはたった1人で今川の館に入っていきます。普通の子なら今川という大きな存在に飲まれてしまうのが当然なのに、人並み以上の器量を持っていたおとわは、奇跡的に許しを得て帰って来る。その姿を見て驚いた南渓は、家で女の子らしい生活を送るよりも、出家して寺で修行させた方がこの子のためにはいいだろうと考えるわけで、象徴的な場面です。
井伊家は周囲の大国に翻弄され続けます。このドラマでは、そういう人たちが生き延びて行くためには、どういう戦略を持たなければいけないかということを描いています。出たとこ勝負の場合もあるし、考えてできないこともあるし、新たな事態に直面すれば、予定と違う行動を取らなければならない可能性もあります。悲惨な目にも遭いながら、数々の苦労を重ねて小国が生き抜いてきたというお話なので、“天下統一”のような大きなドラマよりも身近なところがとても面白いですね。
(取材・文/井上健一)
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