「南渓和尚は、イチローを育てた仰木監督のような存在です」小林薫(南渓和尚)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

2017年1月29日 / 20:45

 NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で、知恵袋的存在として井伊家を支える龍潭寺の住職・南渓和尚。演じるのは、35年ぶりの大河ドラマ出演となった小林薫である。ひょうひょうとしたつかみどころのない人物を人間味豊かに演じる小林が、演技の裏に込めた思いを語った。

 

南渓和尚役の小林薫

南渓和尚役の小林薫

-「峠の群像」(82)以来、35年ぶりの大河ドラマへの出演ですが、出演を決めた理由を教えてください。

 大河ドラマについては、いろいろな方がやったほうがいいと考えていたことなどもあり、長い間、出演してきませんでした。でも、そろそろ年齢も年齢だし、声を掛けてくれる人がいるうちが華なのかな、と考えていたところに、この作品のお話を頂きました。聞けば、脚本家は以前、「天皇の料理番」(15/TBS系)で初めてお仕事をご一緒させていただいた森下佳子さんとのこと。森下さんにはその時にお世話になったという気持ちもあったので、お返しの意味も含めて、これはもう縁だと思って出演することにしました。

-撮影に入った感想はいかがですか。

 ずいぶん大勢の人が番組に携わっているんだなと、この年になって改めて思いました。昔はそこまで俯瞰して見ていませんでしたが、美術や演出のような制作スタッフ以外にも、いろいろな人が関わっていることを実感しました。現場でそういう人たちと関われるのは楽しいですね。

-南渓はどんな人物なのでしょうか。

 南渓がなぞなぞのような問答をした上で「答えは一つじゃない、他にもあるかもしれないぞ、もっとあるかもしれないぞ」と言う場面があるのですが、その言葉は南渓の人柄に通じる部分もあります。だから、「こう見える面もあれば、こういう違った一面もある」という多面性があって、見ている方が「どっちなの?」と思うようなつかみどころのない人物にできたらいいなと思っています。でも、あまり考えていないようにも見えるので、もしかしたら誰かの言葉を代わりにしゃべっているだけで、南渓自身は大したことがないのかもしれません(笑)。

-演技については、どのように考えていますか。

 前もって決めずに、どんな演技をしたらいいのか手探りでやっています。細かいことですが、時代劇風の口調でしゃべるのか、ナチュラルなしゃべりにするのかといったようなところからですね。

-もう少し詳しくお聞かせ下さい。

 ドラマを面白くするためには、演じる上で、ある程度、品のいいうそは必要だと思います。だけど、見ている方たちがそれを不愉快だと感じるのであれば、抑えなければいけない。それは人によって見方が異なるので、どの程度までやればいいのか、加減しながら演じています。台本を読んで、こうした方がいいんじゃないか、と感じた部分については、監督と相談して言い回しを変えるなど、ちょうどいいところを探りながらですね。少し演技を変えることで、周りの人たちとのグラデーションが生まれて、その人物の色が強く出てきたり、違った景色に見えたりすることもありますから。

-南渓は直虎をどんなふうに見ているのでしょう。

 例えば、同じプロ野球選手でも、イチローみたいな人はまねしようとしてもできませんよね。誰でも頑張ったら大谷(翔平)選手に成れるのかといったら成れません。直虎にも、イチローや大谷選手のような天性のものがあると思います。女の子ではあるけれども、そういう運命を背負った子どもで、井伊家を託す上で十分な器量を持っているというふうに見ています。

-それでは、直虎にとって南渓はどんな存在でしょうか。

 イチローがイチローになるためには、彼を育てた仰木(彬)監督がいたわけです。南渓和尚は、そんな仰木監督のような存在ですね。とはいえ、あまり大きなことを考えるのではなく、現実的な視点でやるべきことを考えてサポートできる人物だと思います。

-主人公の井伊直虎を演じる柴咲コウさんの印象はいかがでしょうか。

 主役なので、プレッシャーなど肩に背負っているものが僕らとは違いますよね。だから、あまりこちらから声も掛けず、そっとしておいているのですが、彼女なりの思いを持って役に入っていると思います。

-今までで印象に残った場面は?

 おとわ(後の直虎=新井美羽)を今川家の人質に差し出すかどうか、問題になったくだりです。この時、南渓たちは人質を回避するため、結婚できないように出家させることを考えますが、そのための試練として、おとわはたった1人で今川の館に入っていきます。普通の子なら今川という大きな存在に飲まれてしまうのが当然なのに、人並み以上の器量を持っていたおとわは、奇跡的に許しを得て帰って来る。その姿を見て驚いた南渓は、家で女の子らしい生活を送るよりも、出家して寺で修行させた方がこの子のためにはいいだろうと考えるわけで、象徴的な場面です。

-この作品の面白さはどんなところでしょう。

 井伊家は周囲の大国に翻弄され続けます。このドラマでは、そういう人たちが生き延びて行くためには、どういう戦略を持たなければいけないかということを描いています。出たとこ勝負の場合もあるし、考えてできないこともあるし、新たな事態に直面すれば、予定と違う行動を取らなければならない可能性もあります。悲惨な目にも遭いながら、数々の苦労を重ねて小国が生き抜いてきたというお話なので、“天下統一”のような大きなドラマよりも身近なところがとても面白いですね。

(取材・文/井上健一)


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(3)無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力

舞台・ミュージカル2025年9月12日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む

北村匠海 連続テレビ小説「あんぱん」は「とても大きな財産になりました」【インタビュー】

ドラマ2025年9月12日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルにした柳井のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)夫婦の戦前から戦後に至る波乱万丈の物語は、ついに『アンパンマン』の誕生にたどり着いた。 … 続きを読む

中山優馬「僕にとっての“希望”」 舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~の再始動で見せるきらめき【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年9月11日

 中山優馬が主演する舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~が10月10日に再始動する。本作は、天藤真の小説「大誘拐」を原作とした舞台で、2024年に舞台化。82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り、百億円を略取した大事件を描く。今 … 続きを読む

Willfriends

page top