「信繁は勝てなかった人たちの守り神になれるのではないかと思いました」三谷幸喜(脚本)2【真田丸インタビュー】

2016年12月19日 / 13:42

 NHKの大河ドラマ「真田丸」で、「新選組!」以来12年ぶりに脚本を担当した三谷幸喜氏。全ての放送が終わった今、ドラマ全体を振り返りながら、改めて主人公・真田信繁(堺雅人)に託した思いなどを明かした。

 

脚本を担当した三谷幸喜氏

脚本を担当した三谷幸喜氏

-今回は当て書き(役を演じる俳優を決めてから脚本を書くこと)が多かったと聞きましたが、三谷さんのイメージを超えた俳優はいましたか。

 僕の中で、役者さんによって一番成長した役は、おこう(長野里美)さんと本多正信(近藤正臣)です。おこうさんは最初は病弱で、物語的には、信幸(大泉洋)が稲(吉田羊)と結婚したあたりでフェードアウトさせようかとも思っていたのですが、長野さんのお芝居がすごく僕にフィットして、キャラクターとして成長していたことに気づきました。それで、逆に正妻の座を離れてから元気になるというのはどうだろうと思いつき、そんな長野さんが見たいと思いました。それで結局最後まで登場するという形になりました。最初はこうなるとは考えもしなかったです。

 正信については、もともといろんな軍師がいる中で、僕は彼が一番好きなんですけれども、近藤さんが演じられることで、人間味や深みが出てきて、近藤さんのせりふを書くのが楽しくて仕方なくなりました。それでどんどんイメージが膨らんで、そのうちに「この『真田丸』は正信で終わるんじゃないか」と思い始めて、いろいろ調べた結果、最後に信之と一緒に大坂から帰ってくるという設定にうまく結びつけることができました。

-「正信で終わる」とは、具体的にはどういう思いだったのでしょうか。

 ああいう悪いイメージを持たれている人は、地元では逆にいいイメージを持たれているケースも多いので、その線でも行けるのではないかと思いました。それで正信が地元ではどんな殿様だったのかを調べてみました。すると、考えようによっては領主の見本のような人だったと取れるところがありました。それが信之に何かしらの影響を与え、信之がその後の真田家の礎を築いていくところにもつながるんじゃないかと考えました。そこから最終回のラストシーンが見えてきました。それもこれも近藤さんが正信を演じられたからこそです。そうでなければ僕はああいう結末にはしなかったと思います。僕はもともと近藤さんが大好きで、「国盗り物語」の明智光秀と「黄金の日日」の石田三成は僕の中のベストなので、そんな近藤さんに最後を締めくくってもらったのは本当にうれしかったです。

-きり(長澤まさみ)、おこうなど無名の女性たちが生き生きと描かれていたのも印象的でした。

 脚本を書き始める前に決めていたことは、誰々の娘とか母とかでしか残っていない人たちを描く時に、そこに縛られないようにするということでした。彼女たちを単なる役割としてではなく、きちんとキャラクターを作ってあげることが大事だと思いました。これは実際にいた人たちに対する姿勢として忘れてはいけないことだと思います。ただ、そうなるとそれぞれのキャラクターを立てていかなければならないわけで、役としての深みは増すけれども、余計なキャラクター付けだと思う方もいるかもしれないとは思いました。でも、彼女たちを“誰々の何々”から解き放つことが僕の仕事だと思っていました。男性よりも女性の方に強いキャラクターの人たちが多かったのはその結果だと思います。

-歴史上の敗者や偉大な父を持った2代目にあえてスポットライトを当てた理由は?

 ぼくは『アマデウス』でモーツアルトの影に隠れてしまうサリエリが大好きなんです。彼は「自分は神から選ばれなかった人間だが、自分はそういう人たちの守護神だ」と最後に言います。それがすごく心に残っていて、今回、真田信繁を描くことになって、信繁とは一体何者なんだろうと考えた時に、敗れていった全ての人たちの代表であるような気がしてきました。しかも彼は2代目で、偉大な父親を持ってあがいていた。そういう人たちの代表でもあると。信繁のそういう面を前面に押し出して描こうと思いました。そうすることによって信繁がただのヒーローではなく、勝てなかった人たちの守り神になれるのではないかと思いました。あの時代、僕が好きなのは三成のように、敗れていった人たちなんです。あとは、偉大な父を持ちながら父を超えられなかった人たちの方にシンパシーを感じます。だから三成(山本耕史)が一時主役になるのも必然だったと思うし、豊臣秀次(新納慎也)をフューチャーしたのも、たまたまではなく、最初からそういうようなプランを持っていました。

-次に大河を書くとしたら、どんな題材を取り上げてみたいと思いますか。

 僕は、大河ドラマを見て育った感じがすごくしているので、その恩返しがまだ足りていない気がしています。だから機会があればまたやってみたいと思います。ただ、僕が書くことで、「軽薄でコントのような、お笑い大河みたいだから見ない」とおっしゃる人もいます。見てくだされば、笑いはあるけれども、決してそれだけではなくて人間ドラマとしてきちんと作っていると言ってもらえる自信はあります。こんなにスタッフ、キャストが頑張っていい作品を作っているのに、僕の名前があるから見ないとか、何か違うイメージを持たれてしまうという状況は、本当に申し訳ないと思っています。ですから、次回やる時はペンネームで(笑)、違う名前でやらしていただこうかと思っています。全く無名の、キャリアのない新人作家が現れて、すごく面白い大河ドラマの脚本を書いたら、それは僕だと思ってください(笑)。

(取材・文/田中雄二)


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