【インタビュー】『幸福のアリバイ~Picture~』陣内孝則監督「『なんで人間って、写真を撮りたがるのかな』というところから始まった映画です」

2016年11月16日 / 10:03

 俳優の陣内孝則が9年ぶりに監督を務めた『幸福のアリバイ~Picture~』が11月18日(金)から公開される。長編監督3作目となる本作は、『桐島、部活やめるってよ』(12)で注目を集めた気鋭の脚本家・喜安浩平とタッグを組み、冠婚葬祭と写真をテーマに、笑いと涙の人間模様を五つのエピソードでつづったコメディー。陣内監督が、豪華出演者の顔ぶれも見どころの本作の舞台裏と、作品に込めた思いを語った。

 

陣内孝則監督

陣内孝則監督

-『スマイル~聖夜の奇跡~』(07)以来9年ぶりの監督作になりますが、この映画が生まれた経緯を教えてください。

 実は最初、高校の後輩を集めて舞台をやろうと思ったんですよ。うちの高校から僕の後に俳優がいっぱい出ているものですから。松重豊とか、今回出てくれている坂田聡とか。その時、ホン(台本)を誰に書いてもらおうかと考えていまして。以前あるプロデューサーから喜安浩平くんを勧められ脚本を読んだら面白かったんで紹介してもらったんですよ。それで「舞台のホンを書いてくれないか」ってお願いしたんです。

-その舞台はどうなりましたか。

 結局、実現しなかったんですが、喜安くんとは何か仕事がしたいなと思ったんです。僕はジム・ジャームッシュ監督の『コーヒー&シガレッツ』っていう映画が好きだったので、日本なりの湿度で、日本なりの笑いで、そういうものができないかなと考えて、写真で始まって写真で終わる冠婚葬祭の話はどうだろうと。それが5~6年前ですが、話し合っているうちに、彼が『桐島、部活やめるってよ』で賞を取って、急に忙しくなっちゃって。

-では、『桐島、部活やめるってよ』よりも前から、喜安さんとやろうと思っていたのですか。

 そうです。もしこっちの方が先に実現していれば、初めての映画だったんじゃないですかね。

-先見の明があったわけですね。

 意外と僕、先見の明あるんですよ。(初監督作の)『ロッカーズ ROCKERS』(03)の時も、出演してくれた玉木宏と玉山鉄二はオーディションですからね。みんな僕を踏み台にしてのし上がって行くんですよ(笑)。

-では、今回もこの中からブレークする俳優が出てくるかもしれないですね。

 大ブレークしてほしいですね。できれば、二つのエピソードに出ている山崎樹範が一番出番が多いので、こいつにブレークしてほしいと思っているんですけど。この間、山崎に「この作品で大ブレークしたら、当然俺にお礼あるよな」って言ったんですよ。そうしたら「法律事務所に相談させてください」って。それから、人間関係がギクシャクしています(笑)。

-中井貴一さんや柳葉敏郎さんなど、豪華な顔ぶれがそろっていますが、出演者はどのようにして選んだのですか。

 あまり撮影に時間が掛けられないので、「初めまして、よろしくお願いします」で始めたくはなかったんです。探り合う間柄じゃなくて、現場に入ったら1日目から全力回転していただけるような友達で、俳優として尊敬している人たちに声を掛けて出てもらいました。

-「葬式」「見合い」「成人」「誕生」「結婚」という五つのエピソードは、どんなところから思いついたのでしょうか。

 「なんで人間って、写真を撮りたがるのかな」っていうところから始まったんですよ。僕、こういう仕事をしているのに、写真が嫌いなんです。それで逆に、写真を撮る時に見えてくる人間模様が面白いんじゃないかと思ったんです。写真といえば冠婚葬祭で、葬式なら遺影、結婚式なら結婚写真や集合写真など、いろんな写真があるじゃないですか。だから、写真で始まって写真で終わる形で、その中の人間模様を切り取れないかな、というところからの発想です。

-それは陣内監督が発想して、喜安さんにお話を持って行ったのですか。

 そうです。僕もプロットを何本か書いたんですが、喜安くんのアイデアの方が面白かったので、すべて喜安くんに任せました。

-過去に監督した『ロッカーズ』と『スマイル』は、若い人を起用した青春ドラマでしたが、今回は年齢層が広がって作風が変わった印象です。以前と何か違いはありますか。

 今回は、人に委ねたところが大きいですね。

-というと?

 前の2本は、かなりガチガチに決めて作っていたんですよ。ワンカットずつコンテも書きましたし、ストーリーに関しても徹底的にディスカッションして、『ロッカーズ』は自分の体験を基にしたエピソードとせりふを入れてもらったり、『スマイル』の脚本は1回書いてもらった後に自分で書き直したり。でも今回は、とにかく喜安くんのホンに乗ってみようと。芝居はとにかく、みんな自由にやっていただこうと。今までは、自分の形に俳優さんをはめようとしていたみたいで、みんな演技が僕に似ているんですよ。それで「あっ、これはいかんな」と。みんながアイデアを持って集まるわけじゃないですか。だから、みんなを生かした作り方をしてみたいと思ったんですよ。

-陣内さんは、俳優としては『超高速!参勤交代』(14)など、クセのある悪役の印象が強いですが、監督作では人間味にあふれた温かい物語が多いですよね。監督の時と役者の時で、作品に対する意識は変わりますか。

 ものを作る時は、やっぱり自分が出るんですよ。僕は、そんなに品のいい家庭で育っていないんですけど、いつも大勢の人がいて温かかったので、そういうものを求めているような気がします。お客さんを呼ぶには、もっとエロがあったり、暴力があったり、血が噴き出したりした方がいいのかもしれないとは考えるんです。僕はもともと、やくざ映画の出身でもあるし、そういう路線もあるよなっていつも揺れるんですけど、結局、こういうヒューマンコメディーなどにいっちゃうのは、心の中の磁力が働くんじゃないかと思います。

-監督が向いているのかもしれませんね。

 いや、日本には優秀な監督がゴマンといますから。でも、僕みたいな俳優をやってきた人間が監督をする場合、その監督たちが撮らないものを撮った方がいいと思って、常にそれは狙っています。バンドものは誰も撮らないと思ったから『ロッカーズ』をやったし、『スマイル』はスポ根ものでもアイスホッケーは誰も撮っていなかったので、撮ってみたり。今回は、僕らなりの発想で、僕らなりの面白いものが撮れたらなと思って作ったんですけど。

-確かに、オムニバス映画ってあまりないですよね。

 そうなんですよ。今はどうしても小説のベストセラー、漫画のヒット作、連続ドラマで大ヒットしたものでないと企画が通りにくい。腕の確かな職業監督であれば別でしょうけど、こういう映画オリジナルのものって少ないでしょ。まして、俳優が撮るとなると二の足を踏むのが当然だと思うんです。もう泥船に乗るようなものですね。その上、山崎が主役なんていったら、沈むと分かったタイタニックに乗るような映画ですからね(笑)。でも、マイナス要素がいっぱいあるものの方がヒットしたり、興味を引いたりすることが多々あるので、僕はそっちに懸けているんです。普通に撮っても面白くないのでチャレンジです。

-お客さんには、この映画をどのように受け止めてほしいですか。

 この映画は決してセンセーショナルな話でもないし、先ほど言ったようなエロや暴力が満載の強烈な作品ではありませんが、本当に好きな人が好きでいてくれるオンリーワンの作品になってくれればいいです。実は、俳優で出ている時は行かないんですけど、監督の時は映画館に見に行くんです。こっそり一番後ろの席に座るんですけど、前の人が意外なところで笑ってくれたり、狙ったところでしくしく泣いてくれたりすると、後ろから抱きしめたくなるんですよ。「ありがとうございます!」って(笑)。

(取材・文:井上健一)


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