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『鬼平犯科帳 血闘』(5月10日公開)
火付盗賊改方長官・長谷川平蔵(松本幸四郎)のもとに、彼が若い頃に世話になった居酒屋の娘おまさ(中村ゆり)が現れ、密偵になりたいと申し出る。平蔵にその願いを断られたおまさは、平蔵が芋酒屋主人と盗賊の2つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)を探していることを知り、独断で調査に乗り出すが…。
これまで何度も映像化されてきた池波正太郎の「鬼平犯科帳」シリーズを、十代目・松本幸四郎主演で新たに映像化したシリーズの劇場版。主人公の鬼平こと長谷川平蔵の過去と現在を交錯させながら、それぞれの時代で愛する者を救うために闘う平蔵とおまさの献身を描く。
テレビスペシャル「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」に続いて、若き日の鬼平・長谷川銕三郎を幸四郎の実子である八代目・市川染五郎が演じた。そのほか平蔵の妻・久栄を仙道敦子が演じ、劇場版ゲストとして志田未来、北村有起哉、松本穂香、中井貴一ほかが出演。
中村吉右衛門=鬼平のテレビシリーズを見慣れた者にとっては、おいの幸四郎の主演で新たに復活したことは喜ばしい。しかも正調時代劇としてしっかりと力を入れて作っている。
もちろん、鬼平役の吉右衛門と幸四郎、おまさ役の梶芽衣子と中村をはじめ、ドラマ版との役者の格の違いは否めないところもあるが、新シリーズはまだ始まったばかり。今後の成長に期待したい。ベテラン勢では相模の彦十役の火野正平がなかなかよかったし、敵役の北村も好演を見せる。
時代劇は伝承していくべきものだから、形はどうあれ、とにかく作り続けていくことが大事。そういう意味では、この映画の出来のよさはうれしい限りだ。くしくも、草なぎ剛主演の時代劇『碁盤斬り』も今週から公開される。新作時代劇が新作ラインアップに並ぶのは気持ちがいい。
ただ、惜しむらくは、吉右衛門版のエンディングを飾ったジプシー・キングスの「インスピレイション」が踏襲されなかったこと。エンディングを見ながら、頭の中で勝手に「インスピレイション」を流している自分がいた。
(田中雄二)