エンターテインメント・ウェブマガジン
売春や麻薬の常習犯である21歳の香川杏(河合優実)は、人情味あふれる刑事の多々羅(佐藤二朗)と出会い、多々羅や彼の友人でジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)の助けを借りながら更生の道を歩み始める。ところが突然のコロナ禍によって3人はすれ違い、それぞれが孤独と不安に直面していく。入江悠監督が自らの脚本を映画化した『あんのこと』が6月7日(金)から全国公開される。公開を前に入江監督に話を聞いた。

入江悠監督 (C)エンタメOVO
ある新聞記事が基になっています。それは杏のモデルになった女の子の半生みたいな話でした。それとは別に、刑事による性加害みたいな問題があって、その二つがつながっていることに気付いて、これを脚本にしてみようかなと思いました。もう一つは、コロナ禍を体験して、僕自身があの時に感じたことを残しておきたいという思いがありました。その二つのことが頭にあって脚本を書き始めました。
最初はあまり考えていなかったのですが、作っていく中で、本当にあったことを描く責任感みたいなことに気付いて、これは大変なことをやっているなと思ったんです。今までやってきたのは、自分の脳内で考えてきたキャラクターであり、事件だったんですけど、今回はモデルになる人がいて、河合優実さんが演じた人と佐藤二朗さんが演じた人には物理的に会えない状況だったので、問い合わせることもできない。だから、モデルになった人に敬意を払いつつ、こちらで想像しなければならない部分もあって、失礼があってはいけないみたいな気持ちも抱きつつ撮影をした感じです。実在の人物に対する責任感みたいなことは、これまで感じたことはなかったので、それが大きな違いでした。
それはかなりありました。自分が生きている世界と地続きで描いていくというか、フィクションとして、自分で考えたことはできるだけ少なく、記録していくような気持ちで撮ろうと思いました。
もともと記事に書かれていたことなので、本当に起きていたことに自分が何かを足そうということはありませんでした。記事には、その後の彼女がそうしたものを断ち切って、もう一度自分で学校に通い出す、踏み出していく過程が書かれていたので、映画としても、では彼女がどうやってそれらを断ち切って、前に進もうとしたのかを描ければいいと思いました。
そうですね。単なるフィクションであればラストを変えてもいいんですけど、スタート地点が現実に起きたことを記録しておきたいというのがモチベーションだったので…。撮りながら僕もつらかったですが、でもこれこそが、僕たちがあの事件に気付かなかったということなんだと思いながら撮っていました。苦しいシーンもいっぱいありましたが、彼女にとって、少しでも幸せな瞬間があってほしいと願いながら撮っていました。
役柄に対して取り組む姿勢がすごく真摯(しんし)です。そこがちょっと尋常ではないというか。だから、こうした実在の人物を演じるときに、僕なんかが想像できないぐらい丁寧にアプローチをして、ふっと出てきた表情や笑顔がすごく光るんです。そこにうそがないというか、本当に杏はこの瞬間笑っただろうなというふうに見えるというか。そういう意味では、これからすごい俳優になると思います。僕が演出しなくても、彼女が脚本を読んで、「杏ってこういう子だったんだ」と想像しながら演じていました。ご本人は「何か一緒に歩いているような感じ」と言っていましたけど、本当に杏が隣にいるような感じでした。
映画2025年11月14日
日本海沿岸の小さな漁師町を舞台に、元ヤクザの漁師・三浦と目の見えない少年・幸太という、年の離れた孤独な2人の絆を描くヒューマンドラマ『港のひかり』が、11月14日から全国公開中だ。 主演に舘ひろしを迎え、『正体』(24)の俊英・藤井道人 … 続きを読む
2025年11月14日
YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼玉田永教と神道講釈 銭湯の湯け … 続きを読む
映画2025年11月13日
40人の武装強盗団が、ニューデリー行きの特急寝台列車を襲撃! 刀を手に乗客から金品を奪う強盗団のリーダー、ファニ(ラガヴ・ジュヤル)は、大富豪タークルとその娘トゥリカ(ターニャ・マニクタラ)を人質に取り、身代金奪取をもくろむ。だがその列車 … 続きを読む
映画2025年11月11日
何かに夢中になると他のことが目に入らなくなってしまうジュゼッペ(声:佐野晶哉)は、街の人々から「トリツカレ男」と呼ばれている。ある日、ジュゼッペは、公園で風船売りをしているペチカに一目ぼれし、夢中になるが…。作家・いしいしんじの同名小説を … 続きを読む
ドラマ2025年11月10日
草なぎ剛主演の月10ドラマ「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜午後10時)。第3話で強烈なインパクトを残したゆずは(八木莉可子)の母(雛形あきこ)が、再びHeaven’s messenger … 続きを読む