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NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。幕府から朝廷への大政奉還が行われ、徳川昭武(板垣李光人)に従ってパリに滞在していた主人公・渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)も帰国の途に就いた。いよいよ時代は明治に移っていくが、8月22日放送の第二十五回では、栄一の養子となった従弟の渋沢平九郎が、幕府崩壊後の動乱の中で壮絶な最期を迎える。平九郎を好演してきた岡田健史が、放送を前にこれまでを振り返った。
最期のシーンの撮影では、自然と涙があふれてきました。それは、天国の渋沢平九郎さんが「おまえに演じてもらって俺はうれしい」とか思ったりしてくれたかな…という思考に至った結果ですが、実在の人物の最期を演じることで「こういう気持ちになるんだな…」と新鮮な思いも湧き上がってきました。ただ、最期のことだけを言えば、変な話、僕でなくても壮絶なシーンになるに違いありません。そうではなく、そこに至るまで“平九郎”という人物をどのように作ってきたのか。それこそが、僕にしかできない平九郎だと思っています。それは、良し悪しで測れるものではなく、そうやって僕がここまで作ってきた“平九郎”が至ったのが、その最期のシーンなんだろうな…と。
変化というか、新しく気付かされたことはあります。何かが変わったのではなく、新しく発見したものが追加されていった、という感覚です。実在の人物を演じることは膨大なエネルギーを要するとともに、こんなにも濃厚に生きることができるのか…という驚きもありました。
これまで、架空の人物を一から作りあげていく作品に出演してきましたが、過去に実在した人物を演じるのは今回が初めて。先の展開や最期がどうなるか分かっているからこそ、簡単には演じられない、ということに気付かされました。例えば、「渋沢栄一役をやりたい」と口で言うのは簡単ですが、実際に演じるとなると、全然簡単ではないでしょう。もちろん、架空の人物を作ることも簡単ではありませんが、それとは異なる難しさがあり、命を削るというか、まさに「命がけで演じることができた」という手応えを感じています。
一番印象的だったのは、第七回でしょうか。この回では、栄一と(兄の尾高)惇忠(田辺誠一)が漢詩を詠みながら藍売りの旅に出ますが、出発前にそれを聞いた平九郎が、栄一に「へぇ。詩かぁ。いいなぁ」と一言こぼす場面があります。僕が平九郎を演じる上で真骨頂だと考えていたのが、純粋な憧れの対象である“兄ぃ”たちとの関係性を徐々にズームアップしていくこと。最期を演じるに当たっても、僕が考えたのは“兄ぃ”たちのことでした。そんなふうに“兄ぃ”たちを慕っている平九郎の中身を濃く作っていくために一番考えて、その後のリズムをつかむことができたのがそのシーンでした。そういう意味で、あのシーンが最も印象に残っています。
平九郎の根底には「いいなぁ、兄ぃたち」という憧れの気持ちと同時に、自分にできないことができる兄たちに対するコンプレックスもどこかあったに違いありません。僕自身、幼少期に兄たちに対して同じようなことを感じていました。大人とは違い、幼少期に感じる年の差は、非常に大きいものがあります。だから、自分が持っているものと年上の人たちが持っているものの違いに対するコンプレックスは、すごく大きいんだろうな…と。
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