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7月11日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」は、主人公・渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)が、幕府使節団の一員としてパリ万博を訪問。初めて触れる西欧文化に驚きつつも、新しい世界に目を向けていく様子が描かれた。
この回は、コロナ禍の影響で現地ロケが不可能になった代わりに、当時のパリの風景をリアルに再現したVFXが大きな話題を集め、その迫真の映像には筆者も目を見張った。
そして、もう一つ心に残ったのが、故郷・血洗島に残してきた家族の姿をきちんと描いていたことだ。その様子は、当時、幕府からの海外渡航者に定められていた後継ぎにまつわるエピソードとして描かれた。
栄一は自分の後継ぎとして、いとこの尾高平九郎(岡田健史)を養子にしたいと、渡航前に申し出ていた。それを家族がそろった場で栄一の父・市郎右衛門(小林薫)や、自分の兄・惇忠(田辺誠一)から聞かされ、突然のことに驚く平九郎。それを見た平九郎の姉である栄一の妻・千代(橋本愛)は幼い娘・うたに目をやり、こう語る。
「うたにも、毎日言い聞かせているんだに。うたはお侍さんの子だ。父っさまは、お国のために、憎んでおられた異国にまで渡られ、立派にお勤めになっている。それに恥じねえ娘にならなきゃいげねえよ、と」
ドラマ全体からすれば、ほんの数分でありながらも、遠く離れたパリにいる栄一を思う家族の気持ちが伝わる温かなシーンだった。
これに対して、この回で栄一が具体的に家族に言及することはなかったが、その心情がしのばれたのが、パリで新しく暮らし始めたアパートの隣人一家からポトフをもらった場面だ。
親切な隣人の幼い娘から恐る恐るあいさつされた栄一は、つたないフランス語で「ボンジュール」と返す。口にこそしなかったものの、その優しいまなざしからは、自分の娘・うたのことを思い出していたであろう様子がうかがえた。
江戸から京都、そしてパリへ。次第に遠方へと移っていく栄一の活躍を描く一方で、家族の姿を通してその起点が故郷・血洗島にあることを明確に示す。それにより、離れていく距離と反比例するように、家族を思う栄一の人間味が際立ってくる。
同時にその距離感の広がりは、栄一の人間的な成長や人としての幅が広がっていくさまを象徴しているようにも見える。これが仮に、栄一の周辺だけで物語が展開していたら、そこまでの成長は実感できなかったに違いない。