【インタビュー】映画『嘘八百 京町ロワイヤル』武正晴監督「悪いやつを笑い飛ばすことこそ、映画の使命」

2020年1月29日 / 16:35
 あの骨董(こっとう)コンビが帰ってきた!古美術商・小池則夫(中井貴一)と陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)が、骨董品をめぐって一世一代の大勝負…! 俳優陣の名演と巧みなストーリーで全国を笑いの渦に巻き込んだコメディー『嘘八百』(18)の続編『嘘八百 京町ロワイヤル』が、1月31日(金)から全国公開となる。さらにパワーアップした本作では、広末涼子をマドンナに迎え、戦国時代に活躍した武将茶人・古田織部の幻の茶器をめぐって、抱腹絶倒の大騒動が巻き起こる。前作に続き監督を務めたのは、『百円の恋』(14)、「全裸監督」(19)の武正晴。公開を前に、本作誕生の舞台裏、作品に込めた思いなどを聞いた。
 

武正晴監督

 

-2年ぶりの続編ですが、生みの苦しみなどはあったのでしょうか。

 難しかったです。続編は初めての上に、原作のないオリジナル作品なので、ゼロから物語を作り上げなければいけませんから。主人公の2人が引き続き出ると決まっていても、話をどうすればいいのかと。とりあえず脚本を書き始めてみたものの、どうしても前作と同じような話になってしまう。「新しいキャラクターが必要だよね」ということで、「謎めいた女性を出そう」となったところから、ようやく話が転がり始めた感じです。
 

-陶芸というモチーフは、前作を経験している分、扱いやすかったのでしょうか。

 いや、やっぱり難しかったです。千利休は前作でやっているので、もう使えませんから。古田織部の名前が挙がってきたのは、舞台が京都だったからです。それから参考に…と思って、漫画の『へうげもの』を読み始めたら、面白くてつい、全巻そろえてしまいました(笑)。そうこうしているうちに、「ゆがみの美学」みたいなものが、テーマとして浮かび上がってきて。「ゆがみや傷があってもいい」という織部の美学を、今描けば面白くなるんじゃないかと。
 

-前作では、佐輔が「贋物(がんさく)を作る」ことから、自分の進むべき道を見いだすという展開で、陶芸が人の生きざまに通じるものがありました。今回は「ゆがみ」がそれに当たると?

 そうですね。最近は「コンプライアンス」みたいなことが声高に言われ、何でも真面目にやらなきゃいけないような風潮が幅を利かせています。ちょっと失敗すると、ネットですぐに叩かれる。映画でも、不良やアウトローみたいなものは描きにくくなっていますし。でも、本当にそれが正しいのかと。「そんなに責めなくてもいいんじゃない? そもそも、みんな何かしらの傷を持っているんじゃないの?」という疑問は常々感じていましたから。
 

-武監督は『百円の恋』(14)や「全裸監督」(19)など、さまざまな作品を手掛けていますが、本作のようなコメディーに対しては、どんな思いを持っていますか。

 僕は『銃』(18)という映画を除いて、基本的に全てコメディーだと思って作っています。『百円の恋』もブラックコメディーです。最近は「感動もの」や「いい話」みたいな映画が多く作られていますが、僕は「もっと笑い飛ばせばいいんじゃない?」と思うんです。やっぱり、映画を見るなら笑わせてほしい。人間の生活なんて、笑える瞬間がいっぱいあるわけですから。
 

-なるほど。

 しかも、「悪いやつを笑う」というのは、暴力の要らない大きな武器だと思うんです。「こんなばかなやつを笑ってやろうぜ」という皮肉こそが、映画のあり方じゃないのかと。だから、この映画にも悪いやつが出てくる。ああいうやつらを笑い飛ばすことこそが、自分たちの使命だろうと。何か問題が起きたときに正面から「反対!」とやるのもいいんですが、僕にはちょっとやぼな感じがする。それよりも、笑い飛ばす方がスマートじゃないのかなと。
 

-そういう意味では、前作に続き見事なコンビぶりを見せる中井貴一さん、佐々木蔵之介さんをはじめ、新たに加わった広末涼子さん、加藤雅也さんなど、俳優陣の芝居もノリノリで、終始笑いっぱなしでした。

 普段やらないような役を与えると、俳優は喜んでやってくれますよね。今の日本ではいろいろな制約もあり、年齢と共に役の幅が狭まってきます。若い頃はいろんな役をやっていたのに、年齢と共にお父さんの役、おじいさんの役…みたいになっていく。でも、それよりも説明のつかない役の方が面白い。広末さんがやった志野は何者なのかよく分からないし、中井さんも蔵之介さんも、2作目とはいえ、自分たちの役についてまだはっきり見えていない部分がある。だから「よく分からないけど、面白いからこいつに近づいてやろう」と楽しんで役作りをしてくれるわけです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

川口春奈、高杉真宙「自分や家族、周りの人たちを大事にしようと思うきっかけになったらうれしいです」『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』【インタビュー】

映画2026年10月1日

 大腸がんによって24歳で他界した遠藤和(のどか)さんが亡くなる10日前までつづり続けた手記を映画化した『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』が、10月2日から全国公開される。本作で、主人公の和と夫の将一を演じた、川口春奈と高杉真 … 続きを読む

木戸大聖「悲しいと思っていてもそれを表情に出せないのが難しかったです」『沖晴くんの涙を殺して』【インタビュー】

映画2026年10月1日

 余命1年の音楽教師・京香(広瀬アリス)と、喜び以外の感情を失った高校生・沖晴が織りなす、切なくも温かい感動の人生賛歌『沖晴くんの涙を殺して』が10月2日から全国公開される。本作で、訳あり高校生の沖晴を演じた木戸大聖に話を聞いた。 -沖晴の … 続きを読む

小瀧望「ファンの皆さまの声に応え続けたい」 舞台「ロックンロール」では「僕たちの芝居とともに、当時のロックミュージックも楽しんで」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年9月30日

 小瀧望が主演する舞台「ロックンロール」が、11月6日から上演される。本作は、世界的な劇作家トム・ストッパードが祖国チェコスロバキアを舞台に、20年以上にわたる歴史のうねりを描きながら、自由の尊さをうたう物語。愛するロックンロールと母親を守 … 続きを読む

佐津川愛美「酒井監督に惚れました(笑)」念願だった酒井麻衣監督との初タッグ『時給三〇〇円の死神』【インタビュー】

映画2026年9月30日

 10月2日から全国公開となる『時給三〇〇円の死神』は、累計発行部数36万部を突破した藤まるの同名小説を原作にしたファンタジーだ。生きる希望を失った大学生・佐倉真司(西畑大吾)が、謎めいた同級生・花森雪希(福本莉子)に誘われ、この世に未練を … 続きを読む

【K-POPもKドラマも深読みしたら韓国が見えた】#受験競争だけではない韓国の教育問題、「鉄槌教師」が問う教師の役割

2026年9月29日

 K-POPや韓国ドラマは、エンターテインメントであると同時に、韓国社会を映す鏡でもある。何気ない言葉やしぐさ、習慣の背景をたどると、その国ならではの価値観や歴史、人との関わり方が見えてくる。この連載では、韓国カルチャーを入り口に、知ってい … 続きを読む

page top