【インタビュー】「本気のしるし」土村芳「オーディションに受かったときは驚きました」深田晃司監督「男をドキッとさせるようなせりふを、土村さんはナチュラルに言ってくれた」唯一無二のヒロイン誕生の舞台裏!

2019年12月6日 / 16:27

 虚無的な日々を送る会社員の辻一路(森崎ウィン)はある日、葉山浮世という女性と出会う。だが浮世には、無意識のうちにうそやごまかしを繰り返し、男性を翻弄(ほんろう)する一面があった。そんな浮世にいら立ちながらも、なぜか放っておけない辻は、次第に彼女に引かれていくが…。テレビドラマ初挑戦で、星里もちるの同名コミックの映像化に挑んだのは、『淵に立つ』(16)、『よこがお』(19)の映画監督・深田晃司。そのヒリヒリした心理描写でつづられる辻と浮世の危うい関係は、見る者をくぎ付けにする。特に、嫌悪感を抱かせつつも、どこか目が離せない不思議な魅力を放つ浮世の存在は出色だ。そこで、深田監督と浮世役の土村芳に、唯一無二のヒロイン誕生の舞台裏を聞いた。

土村芳(左)と深田晃司監督

-浮世は無意識に男性を翻弄する難しい役ですが、土村さんの起用はオーディションだったそうですね。

深田 この企画が動き始めたときから、みんなで「浮世のキャスティングは難航する」と話していました。オーディションには、いい役者さんがたくさん来てくれたのですが、いくつかの場面を演じてもらうと、どうしても「浮世とはちょっと違う」という感じになってしまって。

-具体的には、どんなことでしょうか。

深田 例えば、第3話にある、ファミレスで辻と会話する場面。「私、辻さんに油断しているのかな」という、ドキッとさせるような、とても浮世らしいせりふがあります。これを計算せずに言っているように演じられる人が少なかったんです。どうしても、男を落とすための恋愛の駆け引きをしているように見えてしまう。そこをすごくナチュラルに自然体で言ってくれたのが、土村さんでした。

土村 受かったときは、本当に驚きました。「絶対に受からないだろうな」と思いながら受けていたので(笑)。

深田 実は、土村さんが来てくれたのが、スケジュール的に「これで決まらないとヤバい」というギリギリのタイミングで行ったオーディションで、しかも一番最後の順番だったんです。最後の最後にイメージ通りの俳優が来てくれて、みんな本当に安堵(あんど)しました(笑)。

-浮世をどんな女性として捉えましたか。

土村 最初は全く理解できませんでした。一見、浮世は女性を敵に回しやすいタイプ。私も女性なので、どうしてもそういう目線になってしまいがちです。でも、演じる以上は、彼女の一番の味方でいたいと思いながら原作を読んでみたら、浮世の友人が辻に対して「浮世がどんな女性か」ということを代弁する場面があったんです。そこでようやくふに落ちて、それをベースにお芝居を作っていけた感じです。

深田 浮世は辻から「なんでそんなに男受けするようなことばかり言うんだ」とたしなめられるような女性です。でもそれは、男性社会の中でうまく立ち回ることのできない女性が、なんとか生き抜いていくために、周りから守ってもらおうとカメレオンの擬態のように身にまとってしまったものではないだろうかと。そういうものが浮世には感じられました。

-なるほど。

深田 僕が初めて原作を読んだのは、20歳の頃です。そのとき、ラブコメが多かったそれまでの星里先生の作品とは全く作風が違っていたので、驚きました。もちろん、星里先生の他のラブコメにも、男受けするようなことをして、周りを混乱に巻き込む浮世のような女性が登場します。ただ、それはあくまでもコメディーの範囲で、善良なキャラクターとして描かれている。ある意味典型的な青年誌の女性像です。でも、そういう男性に都合のいい言動を繰り返すヒロインを、男社会の抑圧という視点から見直すとこんなに悲しい存在なんだということを描いたのが浮世ではないかと。そこがすごく面白いと思いました。

-土村さんは、浮世を演じる上でどんなことを心掛けましたか。

土村 先ほど監督もおっしゃったように、一歩間違えると、下心があるように聞こえかねないせりふが多いので、作為的なものがちょっとでも垣間見えたら終わりだな…と。そこで、撮影のときはなるべく「何もしない」ということを徹底するように心掛けました。

深田 浮世はナチュラルに周りの人を好きにさせる人。そこが最も大事でした。土村さんは、周りを自然と巻き込んでいく磁場みたいなものを作れる人だと思ったので、そういうご本人の資質もひっくるめてキャスティングしています。だから、演技について現場で細かく指示する必要はありませんでした。

土村 私自身は、そんなふうに周りを動かす力が自分には足りないと思っています。だから、撮影前 は私が浮世としてきちんと立っていないと、この物語が持つ闇の魅力すらなくしてしまいかねないというプレッシャーも少しありました。でも現場が始まってしまえばそんなことは考えずに、浮世に集中できたんです。それは深田監督をはじめとするスタッフの皆さんや、森崎さんはじめ、出演者の皆さん全てが私を浮世にしてくれたからだと思っています。本当に感謝です。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】時空を超えた愛の行方は『楓』『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』『星と月は天の穴』

映画2025年12月20日

『楓』(12月19日公開)  須永恵と恋人の木下亜子は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれながら幸せな日々を送っていた。しかし実は本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、現在亜子と一緒にいるのは、恵のふりをした双子の兄・ … 続きを読む

北香那「ラーメンを7杯くらい食べたことも」天野はな「香那ちゃんのバレエシーンは見どころ」 「ラーメン」と「クラシック・バレエ」が題材のコメディーで共演 NHK夜ドラ「替え玉ブラヴォー!」完成会見

ドラマ2025年12月19日

 12月19日、東京都内のNHKで、1月5日からスタートする夜ドラ「替え玉ブラヴォー!」の完成会見が行われ、主人公・千本佳里奈(ちもと かりな) 役の北香那、佳里奈の親友・二木優美(ふたぎ ゆみ) 役の天野はながドラマの見どころを語ってくれ … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(9)浅間神社で語る「厄よけの桃」

舞台・ミュージカル2025年12月18日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。  前回は、玉田家再興にあたり「三つ … 続きを読む

石井杏奈「人肌恋しい冬の季節にすごく見たくなる映画になっています」『楓』【インタビュー】

映画2025年12月17日

 須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれながら幸せな日々を送っていた。しかし実は本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、現在、亜子と一緒にいるのは、恵のふりをした双子の兄・涼だ … 続きを読む

染谷将太 天才絵師・歌麿役は「今までにない感情が湧きあがってきた」 1年間を振り返る【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語も、残すは12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」の … 続きを読む

Willfriends

page top