「直弼は文化的素養の深さ、厚さ、広さにおいて、並みの人物ではありません」佐野史郎(井伊直弼)【「西郷どん」インタビュー】

2018年4月29日 / 08:50

 島津斉彬(渡辺謙)ら、一橋派との将軍後継争いに勝ち、幕府内の実権を握った大老・井伊直弼。その絶大な権力は、主君・斉彬を失った吉之助(鈴木亮平)の運命を今後、大きく左右することとなる。演じる佐野史郎は、以前から井伊家やそのお膝元・彦根に縁があったという。その縁を通じて学んだ直弼の実像や役に込めた思いを語ってくれた。

井伊直弼役の佐野史郎

-井伊直弼役に決まったときのお気持ちは?

 正直、びっくりしました。というのも、僕は出雲地方、松江の出身で、以前から松江ゆかりの小泉八雲に興味があり、朗読会を続けていました。その朗読会を、去年は僕の誕生日の3月4日に、井伊家の菩提寺である彦根の清凉寺でやったんです。それからしばらくして「西郷どん」が始まることを知り、「翔ぶが如く」(90)に出演したときのことを懐かしく思い出していたら、1週間後に「井伊直弼役を」というお話を頂いたもので…。

-絶妙なタイミングですね。

 しかも、井伊直弼登場の9話の放送も3月4日! 実は、以前から井伊家のお膝元である彦根とはご縁がありました。琵琶湖を舞台にした『偉大なる、しゅららぼん』(14)という映画に出演したとき、彦根城や近江八幡で撮影をしていたんです。しかも、衣装は“井伊の赤備え”と同じ全身、赤(笑)。そのとき、琵琶湖のある近江が、僕が生まれ育った宍道湖のある松江に似ていると感じて、大好きになりました。そんなことから近江の国に興味を持つようになり、近江を舞台とした小泉八雲の作品もありますし、朗読を通じてご縁ができ、清凉寺の朗読会につながったという訳です。

-直弼を、どんな人物だとお考えでしょうか。

 井伊直弼役を頂いてから、改めて彦根詣でをさせていただきました。そのときに分かったのは、直弼は、禅も居合も極めていて、能楽師でもある上に、茶人としても千利休に通じるほどの道を極めた泰然自若とした人物だということ。本人が書いた茶の本を読んでみても、心を平穏に保ち、客に対して対等であることを重んじ、相手が去っても1人で茶室に残り、共に過ごした時間に思いをはせるような人。“井伊”というと、どうしても赤鬼のイメージで、荒ぶる人物のように描かれることが多いですが、文武両道はもちろんのこと、政においても見識の深さ、厚さ、広さにおいて、並みの人物ではなかったと思います。

-彦根の印象はいかがですか。

 去年は「おんな城主 直虎」の第3話で井伊に心を配る今川の太原雪斎を演じたこともあって、とても温かく迎えていただきました。地元の皆さんは、直弼について「本当はそんな人じゃない」と熱く語るんです。これまでも、彦根を訪れる中で18代目ご当主の井伊直岳さんともお会いして、いろいろなお話も聞かせていただきました。だからどうしても、ただ役を演じるだけではない、それ以上の感情が出てきてしまいます。

-実際に演じてみた感想は?

 この作品は西郷隆盛が主人公なので、幕府側の直弼は悪役にならざるを得ません。ただ、実像を知ると、そのような人物が果たして政の場で感情をむき出しにして一喜一憂するものかという思いにかられます。だから、いかにも悪役という演技にはしたくない。その辺りは現場で監督たちと相談しながら、正義を振りかざさないよう心掛けて演じています。いかにも意地悪く演じないように。一番気を付けているのはそこです。それがドラマとしてつながったときにどう見えるのか僕にもよく分かりませんが、見る人によっていろんなふうに見えたらいいですね。

-劇中で直弼は、いろいろな人と対立しますね。

 毎回、入れ代わり立ち代わり、俳優としても役の上でも手強い方々を相手にしなければなりません。とはいえ、お互いにお芝居をぶつけ合って、一緒に探りながら作っていく作業はとても楽しいです。

 
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