NHKで放送中の大河ドラマ「軍師官兵衛」に井上九郎右衛門役で出演している俳優の高橋一生が、インタビューに応じ、演技に対するこだわりや九郎右衛門の魅力、高校の同級生でもある黒田官兵衛役の岡田准一との共演について語った。
高橋が演じる九郎右衛門は官兵衛に仕える“黒田二十四騎”の一人で、後に二番家老となる頭脳派。もとは官兵衛の父・職隆(柴田恭兵)の近習で、「青山の戦い」の後、官兵衛の家臣となり、栗山善助(濱田岳)、母里太兵衛(速水もこみち)と共に官兵衛を守り支える。常に一歩引いて冷静に物事に臨み、生涯、刀よりも知略で多くの軍功を挙げた人物だ。
-これまで九郎右衛門を演じてきた印象をお聞かせください。
常に殿(岡田)のおそばにいて、殿の動向をいつも見ている家臣の一人という印象です。
-九郎右衛門の“クールな二番家老”というキャラクターに関してはどうお考えですか。
時代劇なのに“クール”という横文字が出てくるところがすごいですね(笑)。なるべくクールというイメージには固執しないようにしようと思っています。50話もあるドラマですが九郎右衛門は最後まで出続けます。ですから、役柄に立体感を出していくには一つのイメージにこだわるとかえってそれが邪魔になるかなと思いました。クールな九郎右衛門ですが、人間的な喜怒哀楽を出していけたらと考えながら演じています。
-高橋さん自身の性格と九郎右衛門の性格は違いますか。
僕は引きこもりの役を演じることが多いんです(笑)。僕自身はどちらかというとアクティブな方なので、なぜそういう役ばかりが来るのかとは思いますが、自分と役柄との距離感はあまり考えないようにしています。台本に書かれていることが全てなので、せりふを覚えてしゃべってという俳優としての最低限のことをしながら、キャラクターの人間性の部分は誠実に表現していくべきだと思っています。
-撮影に入る前に史実を調べたりして役作りをしましたか。
九郎右衛門がどういう人物だったのかはある程度調べましたが、僕は基本的には台本を重視しているので、調べたことは自分の中にサブテキストとして入れる程度です。史実を重視して演じてしまうと台本から離れてしまう可能性もあるので、あくまでも台本に沿ってやっていけたらと考えています。
-実在の人物を演じるときも、史実や文献などはあまり重要視しないのでしょうか。
時代劇でも現代劇でもまずは台本だと思います。台本からどれだけ人物像を膨らませていけるか、その可能性を見つけられるかが勝負だと思っています。あまり文献を探ったり自分で作り込んでいかないようにしています。現場に入って、その雰囲気や空気感から得るものが僕にとっては大きいです。
-高橋さんから見た九郎右衛門の魅力はどういうところですか。
九郎右衛門の「内に秘める」というせりふがあります。その“内に秘めるもの”をいかにして表現するかが僕の目標です。九郎右衛門はあまり感情を表に出さないようにしている人です。苦労を忍ばせるところがとても魅力的だと思います。僕はあまり内に秘めることができないので感情を抑え込むことができる人に憧れます。
-このドラマの一番の魅力はどこでしょうか。
台本を読んでいると、“群像”という点がとても重視されていると思います。50話もあるので、今後も登場人物一人一人の人間性やキャラクターが細かく描かれていくといいなという期待があります。
-黒田家家臣団の空気感がとても良いのですが、最初からそうした雰囲気があったのですか。
最初からありました。岩手ロケから始まったんですが、その時からいい雰囲気でした。
-普段の関係性が役柄に反映されることはありますか。
会話のリズムは実際にその方とお話ししながらできていくような気がするので、役柄に生かすこともできると思います。ただ、皆さんがきちんと役を演じているので、普段の関係性がどの程度まで役柄に反映されるのかは正直なところ分からないです。
-家臣団の結束にグッとくるのですが、これまで演じたシーンで印象に残っているものはありますか。
刀を交えるシーンや戦いのシーンは結構面白いなと思っています。映像の時代劇で立ち回りをするのは初めてなので、引きこもりが刀を振り回しているのが楽しいという印象です。あとは本当に皆さんと一緒に作っている感じなので、特にどのシーンが、というのはありません。
-高校の同級生でもある岡田さんとの共演ですが、率直な感想はいかがですか。
とても高校の同級生とは思えないです。それに同級生同士のコミュニケーションにこだわってしまうと周りの方はやりづらいと思います。あまり二人で仲良く話し過ぎると、周囲から「この二人は仲が良いから間に入れないな」と思われてしまうので。できる限り陰から(岡田を)見ている感じですね。
-俳優としての岡田さんの魅力は?
真っすぐですよね。脳で考えていることと体で考えていることが途中で断線しないんです。ものすごくストレートに電流が流れるので、素晴らしいなと思います。もちろん、彼は彼で悩んでいるとは思うんですが、思い切りの良さや純粋さ故にお芝居が真っすぐドカーンと出てきます。僕みたいに姑息(こそく)に考えるタイプではないので、すごくいいなと思います(笑)。
-では、撮影から離れた普段の岡田さんの魅力についてはいかがですか。
とても優しいし気を使うので、人のことをよく考えている。高校時代からそこは変わらないです。表には出さないですけど。いいやつだなと思います。
-立ち回りのシーンで難しさを感じる部分はありますか。
もともと立ち回りはずっと教わっていたんですが、以前出演したドラマで初めて馬上で立ち回りをやって、そこから変わってしまいました。馬の首をよけなければならないので、刀を横に振れなかったんです。何を学んでいたんだ、ということになってショックを受けました。今回も馬上で練習をさせていただいて、一度失敗しました。歯の矯正をしているので奥歯をかみしめることができず、戦のシーンでたくさん人がいるのに刀がすぽーんと飛んでいった(笑)。なかなかうまくいかないですね(笑)。
-九郎右衛門の見どころを教えていただけますか。
九郎右衛門の見どころというよりは、やはり殿ありきで、官兵衛様がいてこそ僕らがいるので、殿の家臣としてどう存在しているかを見てもらえたらと思っています。僕は九郎右衛門がとても好きなので、彼の人間性やキャラクターをあまりお芝居で説明したくない。説明や体現をあまりせずに、九郎右衛門の内にあるものだけでどれだけ伝えることができるのかを試すというのは失礼かもしれませんが、50話終わったときに、一人一人の人間性が主流になって、大きな河になっていけたらいいなと思っています。