森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

2025年12月1日 / 10:45

 

(C)NHK

―確かにその通りですね(笑)。

 ただ、大半は史実通りですが、(小田)新之助(井之脇海)とふく(=うつせみ/小野花梨)ととよ坊の一家、序盤に登場した蔦重の恩人の花魁・朝顔(愛希れいか)など、一部に私が創作したオリジナルキャラもいます。というのも、当時の飢饉(ききん)や天災の被害の大きさを伝えるとき、死体の山で語られることが多いのですが、それを見ても、いまひとつ胸に迫ってこないんですよね。それは多分、相手が知らない人だからだろうなと。そこで、今回はその人の人生を語った上で犠牲になってもらおうと。

-新之助とふくのカップルは、応援する視聴者も多く、その死を悲しむ声も大きかったですね。

 新之助も、あの打ち壊しにはリーダーがいたという説があり、あののぼりも実際に残っているんです。そのリーダーを書きたいと思って考えたのが、新之助でした。だから、死ぬことは最初から決まっていたので、新之助やふくに関しては、皆さんから怒られることが大事なんだろうなとは思っていました。

-そのほか、視聴者の反響で印象的だったものはありますか。

 「三浦庄司(原田泰造)黒幕説」「三浦スパイ説」が出てきたときは驚きました。全く頭になかったことだったので、皆さんの鋭い考察に驚くと同時に、「その手があったか! でも、もう後戻りできない!」と(笑)。それくらい真剣に見てくださっていることがうれしく、ありがたかったです。

-続いて、蔦重を演じ切った横浜流星さんの印象をお聞かせください。

 横浜さんには、むき出しの自分をゴロンと差し出すような「捨て身」の印象があり、それは最初から最後まで変わりませんでした。ご本人は、それほどじょう舌な方ではないと思うので、あそこまでおしゃべりな役を生きるのは、大変だったと思います。せりふの量も多いので、大きな負担をかけたでしょうし。最後にお会いしたときは、本当にやせていましたから。そういう意味では、“求道者”という言葉がぴったりな方です。

-蔦重を演じる横浜さんを見て、せりふの書き方などが変わった部分もあるのでしょうか。

 求道者のような方に対して、ご本人に寄せるのも失礼かと思い、そういう書き方は一切しませんでした。ただ、ときどき横浜さんから台本について質問が来ることはありました。例えば、「蔦重はなぜ日本橋に行こうと思ったのでしょうか。僕なら行かない気がします」といった感じで。そういうときは、一緒に答えを考えたりして。だから、きちんと筋が通るように書くことは心掛けました。その点、横浜さんは心の動きを大切にして、外側からではなく、内側から役を作っていく方なのでしょうね。

-これまでストイックなイメージの強かった横浜さんが、陽気な江戸っ子の蔦重を演じている点が新鮮で、俳優としての新たな魅力にも気付かされました。

 きっと、陽気な江戸っ子の部分に関しても、ものすごく考えて演じてくださったんだと思います。それこそ、「陽気な江戸っ子を求道する」というか。変顔や平賀源内のまねなど、私が期待した以上のこともしてくださいましたし。「そこまでやっていただき、ありがとうございます」という気持ちでテレビを見ていました。

-まもなく最終回を迎えますが、最後まで描き切った蔦重の生きざまをどのように受け止めていますか。

 蔦重は、さまざまな功績を残した人です。黄表紙や錦絵の流行を作ったこともちろん、流通網を整え、それを江戸から地方に広めていったのも、彼だと言われていますし。そういう意味では、広く世の中に笑いを届けた人で、それはとても尊いことだったのではないかと。笑いにはある種、不謹慎な部分もあるので、今もそうですが、世の中がしんどくなってくると、心の中では笑っても、おおっぴらには笑えない、という場面が生活の中でたくさん出てくる気がするんです。そんな時代に、財産を召し上げられても、仲間が死んでも、ふざけきった蔦重はあっぱれだなと。それはそれで、一つの立派な生き方だと思っています。

(取材・文/井上健一)

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