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そうですね。追い詰めてくる相手の気迫や行動に対してリアクションを取っていくので、皆さんのお芝居がなければ成立しませんから。田久保夫妻は、張り付いたような作り笑顔が、とても不気味で怖かったです。完成した映画を見てもその迫力は伝わってきました。お二人と一緒に食事するシーンでは、表面上は優しそうなのに、ねっとりとした嫌な空気がずっと流れているような感じでした。
その一方で、完成した映画を見て思わず笑ってしまったのが、田久保さんがピストルを持った相手に追いかけられる場面です。田久保さんが家に逃げ込もうとしたとき、悲鳴を聞いて出てきたよしこさんが、身を守ろうとして思わず玄関を閉めてしまうんです。締め出されてしまった田久保さんが、すごく滑稽で。そういう必死さが滑稽に見えるところも、人間味があって面白かったです。
城定監督は幅広い作品を手掛けているので、以前からぜひ一度、ご一緒してみたいと思っていたんです。実際にご一緒してみたら、現場での判断が非常に的確で無駄がないので、撮影がとても早く進んで。それなのに、お芝居もしっかり見てくださったので、ご一緒できてうれしかったですし、とてもいい経験になりました。
城定監督からそれほど細かい指示はありませんでしたが、そんな中で印象的だったのは、杏奈が自宅のパソコンで仕事のクライアントとリモート会議するシーンです。台本にはなかったのですが、撮影の直前、城定監督から「貧乏ゆすりをしてほしい」と言われたんです。どう撮るのかと思っていたら、貧乏ゆすりをしている私の足元から徐々にカメラが上がっていき、愛想笑いしている顔まで移動していって。顔は愛想笑いをしながらも、貧乏ゆすりをする足元に杏奈の本心が表れていることがワンカットで表現されていて、面白いなと。
すごく和やかでした。城定監督は穏やかな方ですし、顔なじみ同士の方も多かったので、劇中と違ってみんなが仲良くコミュニケーションを取る朗らかな現場で。赤ちゃんやワンちゃんにも癒やされました(笑)。
今回は、ワンカット撮影したシーンが多かったので、編集でどんなテンポに仕上がるのか、全く想像がつかなかったんです。でも、完成した映画を見たら、テンポよく、緊張感のある映像になっていて。経験豊富な城定監督は、撮影しながら頭の中で編集後のイメージがきちんと出来上がっていたんだろうなと。その手腕に脱帽でした。
(取材・文・写真/井上健一)
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